*

『アニー(1982年版)』 子どもから見た大人たちの世界

公開日: : 最終更新日:2021/10/30 映画:ア行, 音楽

かつてタレントのタモリさんが、テレビでさんざっぱら自身のミュージカル嫌いを語っていた。まだ小さかった自分は、それに感化されて、ミュージカルとはくだらないものなのだろうと思い込んでいた。欧米でも、男がミュージカルが好きだと言うと、男らしくないとか言われてしまう。

ミュージカルを悪く言う人の理由として、「登場人物が突然歌いだすのが、感情移入できない」とはよく聞く。でも我が家では自分以外の家族はみな、常に歌を歌っている。世の中には会話と歌との差があまりない人もいるのだ。普段から歌ってばかりいる人たちは性格も明るい。ちょっとやそっとじゃめげたりしない。辛い人生も歌って踊って楽しく乗り切ろう!

世界的に不景気で、キナ臭い話ばかりの現代社会。ミュージカル映画がブームなのも、この社会状況と無縁ではなさそう。

このミュージカル映画ブームに乗ろうと2014年にジェイミー・フォックス主演の『アニー』リメイク版が公開された。このリメイク版がテレビで放送されたとき、ウチの子たちが観ていたが、自分にはどうもわからない映画だった。ただ、メインテーマの『トゥモロー』は名曲だなとは感じていた。

妻が1982年版の『アニー』は、子どもの頃よく観ていたと言う。どうせ観るならこちらの方が良いんじゃないかと。娘のご所望により、1982年版の『アニー』の鑑賞が始まった。

自分はあまり乗り気ではなかったので、最初のうちは横目で観ていたのだが、楽しい楽曲にみるみる引き込まれていった。吹替版での鑑賞だったが、この吹替もとても良かった。

『アニー』はブロードウェイ・ミュージカルの代表的な作品。日本でも青山劇場でロングラン、子役の登竜門のイメージ。もちろんこの映画版の存在も知っていた。もっと古い映画かと思っていたが、アニー役のアイリーン・クインと自分は、どうやら同い年。どうしていままで観ていなかったのだろう?

答えは単純。赤毛の天然パーマの女の子が主人公の映画なんて、男子小学生が興味あるはずもない。やっぱり『スターウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』に走っちゃう。せいぜい『グーニーズ』がいいところ。眼中に入るはずもない。

この映画は不思議なことに同年のアカデミー賞とラジー賞の両方ノミネートされている。評価は賛否両論。でもそれもなんとなく納得できる。映画のストーリーは、あくまで子ども目線で描かれている。大人の世界はファンタジーでしかない。荒んだ大人が主人公の子供と触れ合ってうちに良いヤツになって行くという単純なストーリー。

武器商人の大富豪ウォーバックスが売名行為のために、孤児院から里子をとる。選ばれたのはたまたまアニーだった。ウォーバックスという名前そのものの通り、戦争で一儲けしてる拝金主義の男が、実際そうやすやすと善人になるとも思えない。ウォーバックスはルーズベルト大統領とも友人だ。1930年代が舞台なので、ルーズベルトが世界恐慌に対抗してニューディール政策を発動して、アメリカが景気を回復し始めた頃。まだ第二次大戦になだれ込む前の、まやかしでも希望が見えるような時代。ウォーバックスは「あんたの政策はけしからん」と言っている。資本主義の信望者なのがわかる。ウォーバックスを演じてるのはなんと若かりし日のアルバート・フィニー。『エリン・ブロコビッチ』の弁護士役の人じゃん!

孤児院の意地悪な孤児院の院長ハンニガンも、ものすごいおばさんという印象だったが、今自分が中年となってみると結構この人若い。日本のテレビドラマなど孤児院のイメージのステレオタイプと同じ。ハンニガンを演じてるキャロル・バーネットは、酒に頼らなければ生きていけない女の悲しみも演じてるんだけどね。

でもこれらは物語の本質ではない。

ミュージカルの舞台劇を生で鑑賞すると、そのストーリー云々よりも、役者さんの歌唱力や楽曲が素晴らしさの方に圧倒されてしまう。物語のプロットが多少破綻していても、そんなところは大して気にならないもの。舞台と映画、同じ時間を使った表現ではあるけれど、舞台というナマモノと、映画という記録の集大成との媒体の性質の違いがある。そこはわきまえていないと、原石も泥団子に変えてしまう。感覚的なものと冷静さの絶妙なさじ加減。

子どもの目線から見たら、どんな荒んだ大人でも、みな善人であって欲しいもの。手を汚した大人が、純真な心に戻れるというのはファンタジーでしかない。でも自分が大人となった今では、子どもたちが理想とする大人に近づく努力はしていかなければいけないとつくづく思うのである。

関連記事

『ホームレス ニューヨークと寝た男』華やかさのまやかし

ドキュメンタリー映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』。映画公開時もとても気になってい

記事を読む

no image

人を幸せにしたいなら、まず自分から『アメリ』

  ジャン=ピエール・ジュネ監督の代表作『アメリ』。 ジュネ監督の今までの作風

記事を読む

no image

『幕が上がる』覚悟の先にある楽しさ

  自分はアイドル文化や萌えとかよくわからない。だから『ももいろクローバーZ』の存在

記事を読む

『アデル、ブルーは熱い色』 心の声を聴いてみる

2013年のカンヌ国際映画祭で最優秀賞パルムドールを受賞したフランス映画『アデル、ブルーは熱

記事を読む

no image

『オネアミスの翼』くいっっっぱぐれない!!

  先日終了したドラマ『アオイホノオ』の登場人物で ムロツヨシさんが演じる山賀博之

記事を読む

no image

部外者が描いたからこそ作品になれた『リトル・ブッダ』

  4月8日は花祭りの日。 ブッダが生まれた日としてお祝いする日だそうで。

記事を読む

no image

『エリン・ブロコビッチ』シングルマザーに将来はないのか?

  日本の6人に1人が貧困家庭の子どもだそうです。 先日テレビで特集が再放送されて

記事を読む

『いだてん』近代日本史エンタメ求む!

大河ドラマの『いだてん 〜東京オリムピック噺〜』の視聴率が伸び悩んでいるとよく聞く。こちらと

記事を読む

no image

夢は必ず叶う!!『THE WINDS OF GOD』

  俳優の今井雅之さんが5月28日に亡くなりました。 ご自身の作演出主演のライ

記事を読む

『リリイ・シュシュのすべて』 きれいな地獄

川崎の中学生殺害事件で、 真っ先に連想したのがこの映画、 岩井俊二監督の2001年作品

記事を読む

『東京卍リベンジャーズ』 天才の生い立ちと取り巻く社会

子どもたちの間で人気沸騰中の『東京卍リベンジャーズ』、通称『東

『君の名は。』 距離を置くと大抵のものは綺麗に見える

金曜ロードショーで新海誠監督の『君の名は。』が放送されていた。

『ゴーストバスターズ アフターライフ』 天才の顛末、天才の未来

コロナ禍真っ只中に『ゴーストバスターズ』シリーズの最新作『アフ

『護られなかった者たちへ』 明日は我が身の虚構と現実

子どもの学校の先生が映画好きとのこと。余談で最近観た、良かった

『gifted ギフテッド』 お金の話はそろそろやめて人権の話をしよう

「ギフテッドを持つ子どもの支援を国をあげて始めましょう」という

→もっと見る

PAGE TOP ↑