*

『炎628』戦争映画に突き動かす動機

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 映画:ハ行

 

『炎628』は日本では珍しい旧ソビエト映画。かつて友人に勧められた作品。ヘビーな作品なので、体調のいい時に観てねと言われていた。DVD化はされているけど、レンタルはしてないみたい。調べたら今年の夏、ブルーレイになるらしい。自分は図書館の資料閲覧コーナーのレーザーディスクを見つけた。図書館の在庫量はなかなか侮れない。しかも利用は無料。やっとこさみつけても、さんざっぱら凹むと脅されていたので、鑑賞にはかなり勇気がいる。

『炎628』の舞台は第二次大戦中の白ロシア(現ベラルーシ共和国)で、当時実際にあったナチスドイツの大虐殺。タイトルになっている「628」の村でこの映画で描かれているような虐殺が起こったのかと思うと本当に恐ろしい。

自分は戦争映画をつくるモチベーションには大きく分けて2種類あると思っている。ひとつは、多くの人が死ぬ戦争という事象に対しての「悲しみ」から。もうひとつは戦争で大事な人が殺されたり、筆舌にしがたい苦労を強いられる理不尽の究極に対する「怒り」。この映画からは後者の「戦争に対する怒り」が強く感じられる。

「悲しみ」の戦争映画は、たいていは戦争を体験していない作家が、想像で書いていたりすることが多い。逆に戦争に対する激しい「怒り」を感じる作品は、実際に戦争を体験してきた作家の生身の声が聞こえてくる。この映画での主人公が最前線で生き残る姿が、やけに説得力があったのも、経験が語るものではと感じさせた。

なにせ旧ソ連の映画なので、映画本編以外の情報が少なく、作り手の状況がなかなか判断しづらい。監督はすでに故人らしい。どうやら本作の脚本家の実体験によるものだったので、自分の推理もあながち的はずれではなかった。

美しい自然と、あえて直接的な残酷描写を避けて、効果音や悲鳴で観客に地獄を想像させる。その表現や演出技術は芸術的。

旧ソ連といえば、タルコフスキー監督が、国の思想に批判的な表現をしたとのことで、晩年はヨーロッパを転々としたことを思い出す。

この『炎628』も戦争映画なので、政治的な意味合いは強い。劇中のナチス兵の言い分は、自分たちと違う思想の人間は根絶やしにする。まずは子どもから始まる。子どもから殲滅するという非人間的な考え方。この映画では、ナチスが全員楽しみながら人殺しをしている。ここまで完全に洗脳できたとしたら、そのシステムは脅威だ。悲劇をむかえるであろう子役たちが、ものすごくかわいい。キャスティングで悲劇性を演出している。果たしてこの映画はドイツでも公開されたのだろうか?

『炎628』が制作されたのが1985年。翌年にはチェルノブイリの原発事故が起こる。1990年にはベラルーシはソ連から独立している。激動の時期にある国の映画だ。この映画がどんな状況下で制作されたのかわからないが、衝撃的な映画であることは間違いない。

関連記事

no image

『光とともに…』誰もが生きやすい世の中になるために

小学生の娘が、学校図書室から借りてきたマンガ『光とともに…』。サブタイトルに『〜自閉症児を抱えて〜』

記事を読む

no image

『バッファロー’66』シネクイントに思いを寄せて

  渋谷パルコが立て替えとなることで、パルコパート3の中にあった映画館シネクイントも

記事を読む

『ペンタゴン・ペーパーズ』ガス抜きと発達障害

スティーヴン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ』。ベトナム戦争は失策だったスクープ

記事を読む

『博士と彼女のセオリー』 介護と育児のワンオペ地獄の恐怖

先日3月14日、スティーヴン・ホーキング博士が亡くなった。ホーキング博士といえば『ホーキング

記事を読む

no image

『はだしのゲン』残酷だから隠せばいいの?

  明日8月6日は広島の原爆の日ということで、『はだしのゲン』ドラマ版の話。

記事を読む

no image

『平成狸合戦ぽんぽこ』さよなら人類

  日テレ好例『金曜ロードSHOW』枠でのスタジオジブリ特集で『平成狸合戦ぽんぽこ』

記事を読む

no image

負け戦には精神論が常『ヒトラー 〜最期の12日間〜』

  「欲しがりません勝つまでは」 戦後70年たった今となっては、こんな我慢ばかりを

記事を読む

no image

『はじまりのうた』音楽は人生の潤滑油、勇気をくれる映画。

  この『はじまりのうた』は、自分の周りでも評判が良く、とても気になっていた。当初は

記事を読む

no image

なぜ日本劇場未公開?『ヒックとドラゴン2』

  とうとう日本では劇場公開はせず ビデオのみの発売となった 米ドリームワークス

記事を読む

no image

女児たちの憧れ『プリキュアシリーズ』

  この『プリキュアシリーズ』 今年は10周年との事。 ウチの幼稚園の娘も大好き

記事を読む

『パブリック 図書館の奇跡』 それは「騒ぎを起こしている」のではなく、「声をあげている」ということ

自分は読書が好き。かつて本を読むときは、書店へ行って、平積みさ

『トーチソング・トリロジー』 ただ幸せになりたいだけなのにね

最近日本でもようやく意識が高まりつつあるジェンダー問題。オリン

『健康で文化的な最低限度の生活』 貧しさが先か、病が先か?

「なんか該当しそうな給付制度ありました?」 これは最近パパ友と

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 自分のことだけ考えてちゃダメですね

※このブログはネタバレを含みます。 『ヱヴァンゲリヲン新

『カラマーゾフの兄弟(1969年)』 みんな変でみんないい

いまTBSで放送中の連続ドラマ『俺の家の話』の元ネタが、ドスト

→もっと見る

PAGE TOP ↑