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『ボーダーライン』善と悪の境界線? 意図的な地味さの凄み

公開日: : 最終更新日:2019/06/11 映画:ハ行

 

映画『ボーダーライン』の原題は『Sicario』。スペイン語で暗殺者の意味らしい。映画の冒頭で、この言葉の説明のテロップが流れる。自分は『Sicario』がこの映画の原題だとは知らなかったので、なんのことやらさっぱりわからなかった。

最近の海外映画の日本公開では、大胆な和製英語で別の邦題をつけてしまうのが流行りだ。ザックリ解釈。『ボーダーライン』は別に悪いタイトルではないが、日本国内で勝手にローカライズされて改題されてしまうと、海外の人とその映画の話をするとき、タイトルが浮かばず混乱してしまう。

原題を尊重して『シカリオ〜暗殺者』としても、けしてキャッチーなタイトルだとは思わないが、映画鑑賞後にタイトルの意図を知って納得する楽しみは、この邦題によって失われた。宣伝のために安易に製作者の意図を無視して改題してしまうのは、日本の文化的鎖国すら感じてしまう。C級D級のパチモン・アクションムービーかと思って危うく見逃すところだった。本作のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最近作『メッセージ』の原題も『Arrival』だし、ややこしい。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はカナダ出身とか。『メッセージ』のプロモーションでの来日インタビューでみた彼の姿は、自分的にはかなり好印象。これは作品を観ておかなければ。

『ボーダーライン』は、メキシコの麻薬カルテルとアメリカの国防省特殊部隊との闘いを描いた犯罪映画。アメリカのすごいところは、いままさにリアルタイムで起こっている事件をそのままエンターテイメントの題材にしてしまうところ。懐が深いのか、世間のガス抜きなのか、はたまた儲かりそうなら無節操に映画にしてしまうのか、よくわからない。

ドゥニ・ヴィルヌーヴの演出は抑制のかかった緊張感の連続。陰惨な場面も目を逸らさせない。見せすぎない演出は、かえってどうなっているのかと観客の好奇心をそそる。暗視スコープを通した夜間戦闘シーンなど、実験的な見せ方をしているのにとても効果的。映像演出を熟知していながらそれを引けらかさず、抑えて抑えて滲み出るような演出をしてる。そして容赦ない暴力描写。

主人公を女性にしたのもいい。FBIから麻薬カルテル討伐隊に抜擢された主人公は、この攻防戦ではアウェイ。見るもの聞くものがすべて初めて。観客の視点の媒介者。しかもマッチョな男だったら、どうせ生き残るでしょって思ってしまうが、女性視点なので戦場の緊張感が伝わりやすい。

主人公を演じているのはエミリー・ブラント。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』で「アイアン・ビッチ」と呼ばれる女兵士を演ってた人。『ボーダーライン』では、タフでありながらも、弱さもかいま見れる絶妙な演技をしていた。

原題の示す暗殺者の非情さが凄まじい。このカッコ良さは、破滅を覚悟しているから。魅力的な人物とは、得てして孤高の存在。他者は憧れるが、本人からしてみれば、普通の存在で生きることの方がいかに幸せなことかを知っている。映画はヒロイズムや正義についても問ている。

犯罪者も警察官も、似たタイプの人がなるものだと聞いたことがある。法を乱す者とそれを守る者。水と油の存在に思えるが、深層心理的には近しいとのこと。

そう言われてみると、静かに過ごしている一般市民に高圧的な態度をとる警察官やら、時折ニュースで報道される行きすぎた取調べの様子などは、とても子どもたちが憧れる「おまわりさん」の印象とはかけ離れている。だからと言ってそんな悪い偏見で見てしまっては、真面目に働いているおまわりさんに失礼だ。

ここで言ってるのは極論。表から裏へ転がるポイントはどこなのか? 犯罪者へ目には目を、力には力をとなれば、自然と双方凶暴になる。正義だからと行使し過ぎればそれは暴力と同じ。では善と悪の境界線とはなんぞや? 白黒はっきりする勧善懲悪でないところがリアル。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の次回作は『ブレードランナー2049』。のちのSF映画に影響与えまくったカルト的人気作『ブレードランナー』の続編。普通に考えたら地雷臭しかしない。ドゥニ・ヴィルヌーヴという巨匠の気配を感じさせる監督の起用で、期待は高まった。むしろリドリー・スコットの続投より魅力的かも。新解釈もソツなくこなして、頭の固いコアなファンを蹴散らしてくれそう。

そうそう『ブレードランナー2049』の前に『メッセージ』も観とかなきゃ。地味系SF、好きだな〜。さていろいろ楽しみになってきたぞ。

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