*

『ピーターラビット』男の野心とその罠

公開日: : 最終更新日:2020/03/13 映画:ハ行,

かねてよりうちの子どもたちがずっと観たがっていた実写版映画『ピーターラビット』をやっと観た。原作の生まれたイギリスで話題になっているのは聞いていた。本国イギリスでは、ピーターラビットは国民的なキャラクターなのだと、そのフィーバーぶりであらためて実感した。

日本でのピータラビットのイメージといえば、ちょっとオシャレなキャラクターといったところ。イギリスでは実写映画化を「待ってました!」と言わんばかりの盛り上がりように、日本人の自分としてはちょっと引いてしまうくらい。でもドラえもんのCG版映画が公開されたときは、子どもよりも大人が大騒ぎしていたので、これに似たようなものなのだろう。

そんなピータラビットの実写映画版。ハズすわけにはいかないプレッシャーが製作陣にあたのだろう、ファミリー向けとは思えないくらいの情報量で見せつけてくる。ストーリーの大筋はシンプルだけど、小ネタが要所要所に効いている。笑いのセンスはコテコテで、気取ったイギリス人のイメージとはほど遠く泥臭い。息つく暇なく映画は進んでいく。

映画の『ピータラビット』、我が家では家族みんなでゲラゲラ笑いながら楽しんだ。でも待って、ピーターラビットってこんな作品だったっけ? ポターが描いた原作のイメージと、ちょっと違う。

映画は人生の厳しさを描いている。生き死にがかかったサバイバル攻防戦だ。かわいい絵柄に残酷な世界観を描きこむのは、かつてのCG動物映画『ベイブ』を彷彿とさせる。うさぎのピーターと敵役の人間トーマスは、どちらも人間(?)が未熟でできていないのが特徴。

ピーターは野心家で、自分は英雄になる身だと思い込んでいる。トーマスは大手おもちゃ屋の昇進を狙ういけ好かないヤツ。どちらも欠点ばかり。この両者が争うのは納得がいく。彼らの間には、原作者のポターをイメージしたビアという女性をめぐって、三角関係のカタチになっていく。

シンプルだけど、複雑な人間の心理を絡ませているところがいい。この絡み合った愛憎劇が、どのようにしてほどけていくのか、観客はワクワクしながら見ているのだが、なんだか大人の男性からすると、胸が苦しくなる。

多くの男性が虚栄や野心で身を滅ぼす。それらが破滅の切符なのだと、理屈ではわかっていても、やっぱりその誘惑に乗ってしまう。名声を得たい、巨万の富を手に入れたい。身の丈にあった人生を送ることが、一番幸せなはずなのに、ヘンに夢をみてしまう。もしかしたら俺もできるんじゃないかと。

ピーターもトーマスも、うぬぼれの自信家だ。それゆえに過ちをおかしてしまう。幸せになりたいがために抱いた野心は、かえって大切な人を傷つけてしまう。なんとも深いところに映画は進んでいく。単なるかわいいだけの映画じゃないぞ。

なんでもこの映画の続編が早々に準備しているらしい。いままでのピーターラビットのイメージこそは覆したけど、この映画とても面白い。難しい心理を描いているのに、小さな子どもにも理解できる楽しさがある。果たして続編は、またまたどんな世知辛い人間模様を描いてくれるのだろうか。

自分を含めた世の男性諸君は、人生教訓として身を引き締められるようなエンターテイメント作品だろう。このかわいらしい体裁を繕った動物CG映画。もしかしたら大人の男性こそが、観るべき映画なのかもしれない。

関連記事

『スタンド・バイ・ミー』 現実逃避できない恐怖映画

日本テレビの『金曜ロードショー』のリクエスト放映が楽しい。選ばれる作品は80〜90年代の大ヒ

記事を読む

no image

『火花』又吉直樹の飄々とした才能

  お笑いコンビ・ピースの又吉直樹さんの処女小説『火花』が芥川賞を受賞しました。おめ

記事を読む

『SAND LAND』 自分がやりたいことと世が求めるもの

漫画家の鳥山明さんが亡くなった。この数年、自分が子どものころに影響を受けた表現者たちが、相次

記事を読む

no image

王道、いや黄金の道『荒木飛呂彦の漫画術』

  荒木飛呂彦さんと言えば『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの漫画家さん。自分は少年ジ

記事を読む

『ルックバック』 荒ぶるクリエーター職

自分はアニメの『チェンソーマン』が好きだ。ホラー映画がダメな自分ではあるが、たまたまSNSで

記事を読む

『ドラゴンボール』 元気玉の行方

実は自分は最近まで『ドラゴンボール』をちゃんと観たことがなかった。 鳥山明さんの前作『

記事を読む

no image

『ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム』人のふり見て我がふり笑え

  なにこれ、おもしろい! NHK Eテレで放送しているテレビシリーズ『ひつじ

記事を読む

『ブレイブハート』 歴史は語り部によって変化する

Amazonプライムでメル・ギブソン監督主演の『ブレイブハート』が配信された。映画『ブレイブ

記事を読む

『ヒックとドラゴン』真の勇気とは?

ウチの2歳の息子も『ひっくとどらぽん』と 怖がりながらも大好きな 米ドリームワークス映画

記事を読む

『フォレスト・ガンプ』 完璧主義から解き放て!

ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演の1995年日本公開の映画『フォレスト・ガンプ』。

記事を読む

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 戦場のセンチメンタル

アメリカの独立系映画スタジオ・A24の作品で、同社ではかつてな

『1987、ある闘いの真実』 関係ないなんて言えないよ

2024年12月3日の夜、韓国で戒厳令が発令され、すぐさま野党

『三体(Netflix)』 神様はいるの?

Netflix版の『三体』をやっと観た。このドラマが放送開始された

『T・Pぼん』 マンスプレイニングはほどほどに

Netflixで藤子・F・不二雄原作の『T・Pぼん』がアニメ化

『ならず者(1964年)』 無国籍ギリギリ浪漫

話題のアニメ『ダンダダン』で、俳優の高倉健さんについて語ってい

→もっと見る

PAGE TOP ↑