『コジコジ』カワイイだけじゃダメですよ
漫画家のさくらももこさんが亡くなった。まだ53歳という若さだ。さくらももこさんの代表作といえば、文句なしに『ちびまる子ちゃん』。エッセイ・マンガの走り。半自伝的な内容で扱われている昭和50年代の文化は、自分よりちょっとお姉さんの視点。自分も中年期になると、これからどんどん同世代の著名人が亡くなっていくのだろう。この訃報はショックだった。
『ちびまる子ちゃん』は今でも日曜日の夕方にはテレビ放映されている。我が家でも世代を越え、子どもたちも楽しんで観ている。
ふと、さくらももこさんのもう一つの長編『コジコジ』が観たくなった。確か面白かったはず。なんでも今年、テレビシリーズのリマスター版ブルーレイが発売されたらしい。放送開始20周年記念とか。もう20年も前の作品なんだ。
主題歌が電気グルーヴだったから最近だと思っていたが、他のアーティストはホフディランやらカジヒデキだから時代を感じる。渋谷系が流行ってた頃ね。
で、本編観たらやっぱり面白い! イジワルな笑いばかり。会話劇がほとんどだが、スピーディでくだらない。その中に人のズルさや毒が織り込まれてる。ひとつひとつのネタが、後からジワジワ「思い出し笑い」という悪魔に変幻して襲いかかってくる。
なんとなく昔のオタク同士の会話を思い出す。20年前のオタクは、口こそ悪けれど、みな優しかった。いつからオタクが荒んできてしまったのだろう。一昔前なら、自分の趣味にお金をかけられるオタクのイメージは、独身貴族のリッチなものだった。今とは真逆。これも長く続く不景気のせいなのだろう。
そういえば『ちびまる子ちゃん』も一時期この『コジコジ』のような毒気があった。その頃自分も、『ちびまる子ちゃん』にハマっていたっけ。最近の『ちびまる子』は、すっかりマイルドになって、日曜の夕方に一家団欒で、なにげなくかかっているテレビ番組になってしまった。
自分はもう『ちびまる子ちゃん』には興味なくなっているから、飽きちゃったのか、感覚が鈍ってきたのだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしい。もちろん、解毒されてスタンダードになった『ちびまる子ちゃん』は、誰でも安心して観られる、差し障りのないエンターテイメント。これはこれで悪いことではない。
かつてさくらももこが冴えに冴えて、キレッキレな時期に『コジコジ』は始まったのだろう。もう内容はトンガリまくり。でもそのブラックでシュールでイジワルなセンスは大好きだ。しかも悪ノリしすぎず、適度なバランスで品良く抑えてる。主人公のコジコジみたいな可愛いキャラクターが、毒舌なのがリアリティを感じる。露悪な言葉もコジコジが言うなら、許すしかない。
最近の日本の作品は、毒ばかりの犯罪を助長するような凄惨なものや、可愛いキャラクターばかりで中身のない、お人形さんみたいな登場人物ばかりの甘々の作品と、極端なものばかりだ。こちらは、暴力衝動に駆られるほど病んでないし、優しいキャラクターに甘やかしてもらいたいほど弱ってない。作り手もセンセーショナルばかり気にしてる。なんだか病気になりそう。現代日本人の流行は、闇が深い。きっとさくらももこさんも、萌えなんか嫌いだったと思う。
さくらももこさんは仕事が早いらしく、締め切りに遅れるどころか、何週も先の分の原稿まで用意していたらしい。自分に何かあっても、当面は大丈夫な状態にいつもしていたらしい。有名になる人は、みな共通して仕事ができる。人気が絶頂のときに育児も重なっただろう。どれだけ頑張っていたのだろうか。そりゃあ寿命も縮まる。
自分はカワイイものや美人さんでは、どうやら癒されない。今必要なのは、痛烈な社会風刺か、シニカルな笑い。『コジコジ』にはイジワルな笑いがある。
ただカワイイだけのものは胡散臭い。3S政策ではないけれど、カワイイ動物や子どもを使った宣伝やアニメなんかが、危険思想へ促すプロパカンダだったなんてこと、世界中の近代史は数多く語ってる。闇雲にカワイイだけのものは要注意。
アニメ『コジコジ』は、さくらももこさん自ら脚本を書いているので、原作のタッチと変わらない。全100話ある中、前半の50話は、作者自身による脚本。最初の方はキレッキレでも、数を重ねれば薄まっていくのは当然。
自分は、最初の頃の『コジコジ』を観て大喜びしていたが、最後の方はカワイイだけになってしまうのだろうか? その方が作る方も観る方もラクだし。
どんなものでも輝いてる時は一瞬。その一瞬にいつまでもすがって惰性になってしまっては、どんどん苦しくなってしまう。どんなに素晴らしいものでも、いつかは見切りをつけなければならない。ずっとそのままではいられない。諸行無常とはこのことだ。
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