*

イヤなヤツなのに魅力的『苦役列車』

公開日: : 最終更新日:2019/06/14 映画:カ行,

 

西村堅太氏の芥川賞受賞作『苦役列車』の映画化。
原作は私小説。

日本の人気原作ものの映像化作品は
つまらないものが常なのだが、この作品は面白い。
原作にない場面も面白いし、
より主人公の人物像を掘り下げていて、
感情移入しやすくなった。

主人公は親が性犯罪で服役したのをきっかけに、
ロクな学校や職業につけなかったと
自己憐憫のまっただ中。
日雇い肉体労働をしては、
その金は即日酒と風俗に使ってしまう。
負のスパイラルにどっぷりハマったダメ男。

森山未來さんがもの凄くハマった演技でこなしてる。
本当にカメレオンな役者さんだ。

自分もこの主人公と同年代で、
同じ時代を生きた。

自分もその頃、即日報酬をもらえるこの
日雇い肉体労働をしたことがあるが、
どうもやっぱり続かなかった。

割に合わないというのもあるのだけれど、
先輩やオーナーがやけに威張っているのが
イヤで辞めてしまったという感じ。
こんな仕事を続けていれば、そりゃ卑屈にもなる。

ダメダメな主人公の唯一の知的な趣味は
ものすごい読書好きなところ。
ここを現状打破の突破口として
作品はとらえている。

原作にはない古本屋でバイトする女の子がでてくる。
それを元AKB48のトップだった前田敦子さんが演じてる。

こういったトップアイドルの起用は、
たいてい客寄せパンダに終始してしまうのだが、
この作品の前田敦子さんはとても良かった。

主人公は商売女としかつきあった事がない。
女といえば、性のはけ口のようなものと
自然と身に付いてしまっている。
そんな青年が恋をしても、
相手をどう尊重していいかわからない。

せっかくできた高良健吾さん演じる友人も、
彼が自分より育ちが良かったり、
ガールフレンドができたのに嫉妬して、
酷い態度をとってしまって、結局嫌われてしまう。

生きるのが本当にヘタ。

それでも一生懸命生きている。
自己憐憫の中にいても執筆活動で
道を切り開く姿に唯一の望みを感じる。

とにかく登場人物がみんな魅力的。
職場の先輩のマキタスポーツさんなんか
「こんな人いるいる!」って思っちゃう。

あんまり話題にならなかった映画だけど、
山下淳弘監督の代表作といっていいだろう。
前田敦子さんは次回作でもタッグ組んでるしね。

人生に卑屈になりかけたら、
この映画の主人公を参考にすべきかも?

関連記事

『復活の日』 日本が世界をみていたころ

コロナ禍になってから、ウィルス災害を描いた作品が注目され始めた。小松左京さん原作の映画『復活

記事を読む

no image

『がんばっていきまっしょい』青春映画は半ドキュメンタリーがいい

  今年はウチの子どもたちが相次いで進学した。 新学年の入学式というのは 期待と

記事を読む

no image

宇多田ヒカル Meets 三島由紀夫『春の雪』

  昨日は4月になったにもかかわらず、 東京でも雪が降りました。 ということで『春の雪』。

記事を読む

『沈黙 -サイレンス-』 閉じている世界にて

「♪ひとつ山越しゃホンダラホダラダホ〜イホイ」とは、クレイジー・キャッツの『ホンダラ行進曲』

記事を読む

no image

男は泣き、女は勇気をもらう『ジョゼと虎と魚たち』

  この映画『ジョゼと虎と魚たち』。 公開当時、ミニシアター渋谷シネクイントに

記事を読む

no image

『世界の中心で、愛をさけぶ』 フラグ付きで安定の涙

  新作『海街diary』も好調の長澤まさみさんの出世作『世界の中心で、愛をさけぶ』

記事を読む

no image

『ローレライ』今なら右傾エンタメかな?

  今年の夏『進撃の巨人』の実写版のメガホンもとっている特撮畑出身の樋口真嗣監督の長

記事を読む

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』 言わぬが花というもので

大好きな映画『この世界の片隅に』の長尺版『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』。オリジナル

記事を読む

no image

『ファイト・クラブ』とミニマリスト

最近はやりのミニマリスト。自分の持ちものはできる限り最小限にして、部屋も殺風景。でも数少ない持ちもの

記事を読む

no image

『猿の惑星:聖戦記』SF映画というより戦争映画のパッチワーク

地味に展開しているリブート版『猿の惑星』。『猿の惑星:聖戦記』はそのシリーズ完結編で、オリジナル第1

記事を読む

『アメリカン・フィクション』 高尚に生きたいだけなのに

日本では劇場公開されず、いきなりアマプラ配信となった『アメリカ

『不適切にもほどがある!』 断罪しちゃダメですか?

クドカンこと宮藤官九郎さん脚本によるドラマ『不適切にもほどがあ

『デューン 砂の惑星 PART2』 お山の大将になりたい!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『デューン

『マーベルズ』 エンタメ映画のこれから

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の最新作『マーベ

『髪結いの亭主』 夢の時間、行間の現実

映画『髪結いの亭主』が日本で公開されたのは1991年。渋谷の道

→もっと見る

PAGE TOP ↑