『名探偵ピカチュウ』日本サブカル、これからどうなる?
日本のメディアミックス作品『ポケットモンスター』を原作に、ハリウッドで製作された実写映画『名探偵ピカチュウ』。
人気のピカチュウが普通に喋る。しかも声は早口のおじさん。それだけで単純に子ども向けではなく大人の観客にも訴求力がつく。ファミリー向け映画が少なくなった昨今では、かなりありがたい作品だ。
いまは、アメコミ原作の映画ですらR指定ばかり。子ども向けの原作を大人向けにアレンジするのは、あくまでも変化球。R指定の中二病映画が増えるのは、現代人の心の闇を感じる。
とはいえ自分はポケモン世代ではない。ゲームから派生したアニメ『ポケットモンスター』が流行ってきたころは、すでに成人していた。確か『新世紀エヴァンゲリオン』と同じ頃。当時『エヴァ』ですら、幼稚趣味が恥ずかしくて、コソコソ観ていたくらい。たから『ポケモン』を観るはずもない。
『ポケットモンスター』は、任天堂のゲームが原作だ。世界でヒットしたが、そのときの日本の儲けはほとんどなかったらしい。ゲームやアニメをヒットさせたアメリカの業者の業績となった。
それでも日本の企業は「作品を世界に広めてもらえただけでも感謝」みたいな綺麗事を語っていた。まあそれが商売っ気のない日本人の美徳とされたのかもしれないが、それが「働ど働けど」の日本のワーキング・プアの原因になっているのは否めない。
普段、さまざまな職人さんたちと話をしていて、ときどき感じることがある。職人さんたちはこぞって、「海外の製品は粗悪品が多い。日本の精巧な技術の足元にもおよばない」と口々に語る。確かに同じ製品を並べると、素人目にも格段に日本製の方が良質だ。「最後に選ばれるのは日本製だ。良いものを作っていれば、世界の人は必ず見つけてくれる」と。
ただ自分が気になっていたのは、この職人さんたちの労働時間の多さ。毎日平気で夜中の2時過ぎまで働いて、翌朝早くから仕事を続行する。休日出勤は当たり前。休むなんて気合が足りないと、部下をたしなめる。人生全て仕事に捧げる覚悟がなければ続けられない。そう言われたら、後継者は育つはずもない。
自分が海外の消費者で、同じ値段で同じ製品ならば、少しでも良いものを選ぶのは当然。客としては「日本製だから選ぶ」のではなく、「安くても良いものだから選ぶ」。職人さんたちが人生の全てを捧げて、犠牲になってるなんて関係ない。
「わかる人はわかってくれる」というのは、かなり消極的な考え。良いものならば、それに見合う対価をもらわなければ、その産業は立ち行かない。職人さんから言わせれば、商魂を露わにするなんて、はしたないのだろう。でも、現実の生活も苦しい中では、クリエイティブは生まれてこない。理想は理想、現実は現実。その折り合いはつけなければならない。誇り高く自身の仕事を語る職人さんでも、心がすさんでいるのが感じられる。やはりこの仕事の仕方は無理がある。
数年前に流行した『ポケモンGO』。これもアメリカ産のゲーム。日本の海外への知的財産の輸出方法は、権利を売ることばかりに着目されすぎている。
そういえば、いま『ポケモンGO』をしている層が、高齢のおじさんおばさんばかりなのが気になる。このゲームは若者の間では、とっくに廃れた感がある。どうして年配者ばかりがこのゲームを楽しんでいるのだろう?
そういった意味でも、自分は『ポケモンGO』の世代にも当てはまらなかった。とことん『ポケットモンスター』には縁がない。
ただ自分の子どもが、テレビアニメの『ポケットモンスター』を毎週観ていたのが、この『名探偵ピカチュウ』とのつながりとなった。ハリウッド版の実写映画なら自分も観れる。日テレ『金曜ロードSHOW!』の地上波放送は、親の自分の方が楽しみだったくらい。
自分がじっくりポケモン作品を観るのは、この『名探偵ピカチュウ』が初めてかもしれない。だから、登場するポケモンの名前も知らない。それはそれで、子どもに名前を教えてもらったりする会話のきっかけとなった。
ピカチュウこそはライアン・レイノルズが演じているが、他のポケモンの声は同じ声優さんが声をあてているらしい。実写版になったら、著しくイメージが変わったという違和感はないとのこと。オリジナルへの尊重を感じる。
さて、映画『名探偵ピカチュウ』で、原作の日本がどれだけの利益を得たのだろう?
映画の製作会社は、ハリウッドのレジェンダリー。ハリウッドとはいえ、中国資本の会社だ。レジェンダリーは、『ゴジラ』の英語圏での映画化ライセンスを買いとっている。次回作に『機動戦士ガンダム』の実写化も控えている。日本原作ではないが、日本のサブカル影響満載の『パシフィック・リム』も、レジェンダリーが製作している。
日本は原作権だけの利益しかなく、海外の企業が上手にブラッシュアップして、どんどん稼いでいるような構図が見えてくる。なんとなく面白くない。日本も直接的な商売方法を築いていかなければならない。クリエイティブ業界で働く人の収入の低さが、この産業の斜陽を感じる。
盛り上がる可能性があるにも関わらず、エンターテインメントに投資する国内の企業はほとんどない。この傾向は、あらゆる日本の産業が向かっているところ。なんとかならないだろうか。
『名探偵ピカチュウ』は、安心して親子で観れる貴重なハリウッド映画。
ファミリー映画が少ないからこそ、それを作る。客の心理をよく掴んで、映画を製作する正しい商魂。求められているものを、潤沢な資金で贅沢に作る。そこにいちばん夢を感じる。ピカチュウは日本生まれだけど、もう日本を巣立ってしまった。そこに一抹の寂しさよりも、清々しさを覚えてしまう。
これから日本の産業は、世界のプラットフォームになっていくのだろう。世界においての日本のポジション。将来、今の子どもたちがどんな働き方をするのか? それを探るヒントが、この映画の舞台裏にあるのかもしれない。
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