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『ニンフォマニアック』それは障害か、才能か?

公開日: : メディア, 映画:ナ行

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人通りの多い通りにあるファーストフード店でお茶をしていた時のこと。通りを一望できるその店からは、行き交う人の姿がよく見える。ふと、せむし男のように背中を丸めた出っ歯の男が、客引きをしている。一見して奇異な印象の男。その男が声をかけているのは二人組の中年女。老けて見えるが、もしかしたら二人とも若いのかも知れない。一人はマスクをかけた女で、やけに目を見開いて怒っているようだ。もう一人の女は厚化粧で、時々白目をむいたり手が震えたりしている。どうやらマスクの女が厚化粧の女を説き伏せようとしているよう。距離をおいてせむし男が満面の作り笑いでみつめてる。やがて厚化粧の女は、マスクの女とせむし男にどこかへ連れて行かれてしまう。なんだか異様な光景だった。犯罪でないことを祈りたい。

これは休日の日中の出来事だった。その周りを家族連れが歩いていたり、この真となりでスマホをいじってぼーっとしているお兄ちゃんがいたりと、あたりまえののんびりした日常が流れている。その厚化粧の女がいきなり奇声を発して大暴れする可能性もあり、自分は遠くからヒヤヒヤしながら、ありとあらゆる妄想のパターンを思い浮かべていた。かなりシュールな状況だった。危険は日常のちょっとしたところに転がっているのかも知れない。

さて、この映画のタイトル『ニンフォマニアック』とは、日本語では色情狂のこと。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアー監督の2013年の作品。4時間にも及ぶ超大作だ。挑発的な題材なので、自分は日本公開は難しいだろうと思っていた。日本はぼかし文化もあり、映画の性描写というか、性器が画面に映ることを単純に規制する。そのくせテレビで放送しているアニメの性描写や暴力描写には甘いという矛盾。子どもがうっかり観てしまう危険性のあるアニメこそ、レーティング分けはハッキリして欲しいのだが……。

予告編もかなりハードだったので、さぞかしエグい内容だと覚悟と期待をしながら観はじめた。果たして4時間観続けられるか!

自分は色情狂だという中年女が、己の半生の性癖を8章に渡って告白する構成。聞き手は童貞老人の文学研究者。彼女の性行動をいちいち分析するスタイルが笑える。起こってしまった事象にはいかようにも分析はできるが、これから起こることや、いま起こっていることは、机上の論理は追いつかないもの。まさに事実は小説よりも奇なり。

性を扱う作品は、たいてい暗く悲劇的な展開になる。この映画も修羅場の連続なわけだが、なぜかユーモラスで笑えるような冷静な視点がある。画面の向こうではかなりハードな状況にもかかわらずだ。

ラース・フォン・トリアーの淡々とした丁寧な演出で色情狂の姿を観せられると、彼女のように真っ逆さまに堕ちていく人生は稀だとしても、似たような感覚の人は結構多いのではと思えてしまう。決して特殊だと言えなくなってくる。センセーショナルな切り口なのに、そう思えなくなる真摯な演出だ。

こうなるとインフォマニアックも脳の個性のひとつだと感じてしまう。一概に障害とは言い切れなくなってくる。欲望に忠実で、抑制がきかないのは、人間的な社会生活には不向き。この映画の主人公には愛情が欠落しているようにも感じる。でもその愛情とはいったいなんぞや。やがてはこの主人公も愛情とやらに苦しめはじめるわけだが。

人の痛みのわからないサイコパスも、視点を変えれば、新しい事業を生み出し、人を惹きつける能力をもっている。そうなるとこの飛び抜けた色情狂の能力も、なんらか世の中のためになる力となる方法もあるのでは?

この映画にでてくる「性」は、エロティックというよりは、ちょっと間抜けでぶざまな印象だ。暗い題材なのに、この問題を直視すると笑いに隣り合わせ。深刻なことも、一歩ひけば些細なことなのかもしれない。愛情なんて、人間がつくりだしたまやかしなのか?

この映画が示すように、新しい視点で人間の行動を捉えて、新しい解釈で物事をみつめていく努力は大切だろう。

堕ちるところまで堕ちてしまった色情狂の主人公の女。それでも他人が書いたものを読んでばかりで、行動を起こさない人生を送った聞き手の老人よりは幸せなのでは?と感じてしまうから不思議なものだ。

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