*

『七人の侍』最後に勝つのは世論

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:サ行

 

去る9月6日は黒澤明監督の命日ということで。

映画『七人の侍』を観たのは自分が10代の頃。銀座のみゆき座(だったかな?)でリマスター版をリバイバル公開したときだったと思う。もう名作と言われ尽くされていたので、一般常識として観ておかなくてはいけないな〜という気分だった。劇場には自分のような初見の若者や、もう熱狂的な古くからのファンなどさまざま。きっとこの映画の大ファンであろうお父さんが、小学生の息子を連れ、一生懸命パンフレットをみながらアツく説明してる。場内は新参者もオールドファンも期待でムンムンしていた。

この映画は言わずもがな世界的な名作だが、ここにはただの娯楽作品だけではなく、さまざま風刺などの要素もたくさん込められている。黒澤明監督は、実は自分の理想とする映画は生涯あまり撮ることができなかった。いまでこそ「日本が世界に誇る名監督」なのだろうが、晩年は国内で映画をどこも出資してくれず、海外の資本で作品を作っている。日本が舞台で日本語で作られているのに、フランス映画だったりアメリカ映画だったりするのだ。それほど日本は芸術に無関心なのだ。

黒澤明監督はこの映画に出てくる侍と一緒だ。矢面で命がけで闘っている。日本人のほとんどが、野武士の襲来に怯える村人にあたる。善良な大人しい農民の村人達。野武士が来たら「たすけてください」と下手に出て、かわいそうな被害者になる。自分はまじめにやっております、どうか理不尽なことはしないでください。誰もが同情する。

三船敏郎さんが演じる菊千代が言う。「農民は貧乏なようでいてしたたかに床下にカネをためている。そのカネで俺たち用心棒を雇うことができるんだ」。農民とは世論。被害者のようでいて、実は高みの見物をしているしたたかさがある。七人の侍は命をかけてその農民たちのために闘って、仲間をなくしながらも野武士に勝利する。農民達は喝采の祭りを始め、生き残った侍達は村をでていく。お役目ご苦労様でした。志村喬さん演じる侍のリーダー・島田勘兵衛の言葉で映画は幕を閉じます。「勝ったのは我々ではない。彼ら農民達だ」。

この映画は勧善懲悪でありながら、やるせない印象を残します。黒澤監督は農民のしたたかなズルさを知っています。侍のように命がけで働いてくれる人を、調子のいい時はどんどん祭り上げて矢面に立たせるけれど、ひとたび落ち目になったりお役御免になったら「それみたことか」とポイッと捨ててしまう。あたかも以前持ち上げていたことなんて忘れてしまったかのように。

そんな被害者ぶりながら床下にカネを隠してる農民に敗北を感じながらも、黒澤明は生涯、侍であることは変わりませんでした。したたかに農民として生きていた方が、安全でそこそこ幸せな人生は送れることだろう。バカなヤツは損をする。それでもバカをやっていなければ生きている意味がない。そしてやっぱり命懸けでバカをやっている人に憧れを感じるてしまうのです。

はたしてどの生き方が自分に合っているのか、もう一度見返ってみたいと思ってしまいます。

関連記事

no image

核時代の予言だったのか?『ストーカー』

  この映画のタイトル『ストーカー』は いま世間的に流布している 特定の人につき

記事を読む

no image

『サウンド・オブ・ミュージック』さらに高みを目指そう!

先日行われた息子の幼稚園の発表会の演目は『サウンド・オブ・ミュージック』だった。自分が生まれる前の映

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

『猿の惑星:新世紀』破滅への未来予測とユーモア

  2011年から始まった『猿の惑星』のリブートシリーズ第二弾にあたる『猿の惑星:新

記事を読む

no image

ソフトもハードも研究も、あらゆる転機になった『ジュラシック・パーク』

  リチャード・アッテンボロー監督が亡くなりました。 90歳でした。ご冥福をお祈り

記事を読む

no image

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ある意味これもゾンビ映画

『スターウォーズ』の実写初のスピンオフ作品『ローグ・ワン』。自分は『スターウォーズ』の大ファンだけど

記事を読む

no image

『スパイダーマン ホームカミング』ハイテク・スパイディは企業を超えて

 スパイダーマンがマーベル・シネマティック・ユニバースに本格的に参戦した単独作『スパイダーマン ホー

記事を読む

no image

『スイス・アーミー・マン』笑うに笑えぬトンデモ・コメディ

インディペンデント作品は何が出てくるかわからないのが面白い。『スイス・アーミー・マン』は、無人島に一

記事を読む

no image

『すーちゃん』女性の社会進出、それは良かったのだけれど……。

  益田ミリさん作の4コママンガ 『すーちゃん』シリーズ。 益田ミリさんとも

記事を読む

no image

『ゼロ・グラビティ』3D技術があっての企画

  3D映画が『アバター』以来すっかり浸透した。 自分も最初の頃は3Dで作られた映

記事を読む

no image
『キャプテン・マーベル』脱・女性搾取エンタメ時代へ

ディズニー・マーベル作品はリリース順に観ていくのが正しい。リンクネタが

no image
『海よりもまだ深く』足元からすり抜けていく大事なもの

ずっと気になっていた是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』。覚えずらいタイ

no image
『未来少年コナン』厄介な仕事の秘密

NHKのアニメ『未来少年コナン』は、自分がまだ小さい時リアルタイムで観

no image
『ジョーカー』時代が求めた自己憐憫ガス抜き映画

めちゃめちゃ話題になってる映画『ジョーカー』。ハリウッド映画のアメコミ

no image
『いだてん』近代日本史エンタメ求む!

大河ドラマの『いだてん 〜東京オリムピック噺〜』の視聴率が伸び悩んでい

→もっと見る

PAGE TOP ↑