*

『ジュラシック・ワールド』スピルバーグの原点回帰へ

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 映画:サ行

 

映画『ジュラシック・ワールド』は、とても楽しいアトラクションムービーだった。大ヒットしたからといって、必ずしも面白い作品とは言えない作品が多いなか、とても理想的な映画だ。

2015年の夏といえば、『ターミネーター』やら『ミッション・インポッシブル』、『マッドマックス』など、80年代から続く人気作の続編が相次いだ。80〜90年代にハリウッド映画の洗練を受けまくった、自分のような中年世代にはたまらないラインナップ。どの作品も今回の新作から初めて観る人にもストーリーが理解できるような工夫がなされている。もちろんかねてよりのオールドファンには、懐かしくて涙がチョチョギレそうな場面も用意されている。この『ジュラシック・ワールド』では、新しい登場人物達が恐竜達から逃げ延びた先が、シリーズ第一作の『ジュラシック・パーク』の跡地で、そこで静かにジョン・ウィリアムズのテーマが流れたりすると、映画の設定と同じ月日が流れたのだと実感する。

一作目の『ジュラシック・パーク』は、映画にCG技術を取り入れるきっかけになったCG黎明期の作品。この映画の成功で、ハリウッド映画の特撮はミニチュアや着ぐるみがなくなり、CG全盛時代へと流れていく。観客達はCG無しでは映画が観れないくらいになってしまった。そしていま、CGブームも落ち着いて、当初の手作りの特撮の価値も見直され始めている。CG技術が目玉の映画は、ストーリーはつまらないものが多かった。CGも映画を彩るツールのひとつでしかない。映画の面白さの本質はそこではないと、みんな気付き始めている。だからこそこの『ジュラシック・ワールド』は、アトラクションムービーの面白さの原点を追求し直したような作品になっている。

シリーズの一作目と二作目の監督はスティーブン・スピルバーグ。本作でも製作総指揮を担当している。どことなくキャスティングされた役者の面構えも、初期のスピルバーグ作品にでてきそうな顔ばかり。大人達はワーカホリックや、離婚調停中だったり不安定な精神状態だったりする。そういった登場人物達の事情も交えながらアドベンチャーに進んでいく。登場人物に共感できなければ、どんなすごい映像が作れても観客はノレない。魅力的なキャラクターはより魅力的に。いっけんイヤなヤツにみえるキャラクターも、どこかに共感させて、嫌いにはなれなくしている。

スピルバーグの初期作『ジョーズ』で、クライマックスに入る前の決戦前夜、主人公達が静かに語り合う場面なんかとても大事だった。『E.T.』ではE.T.と出会う子ども達は母子家庭で、母親がイライラしている。映画を盛り上げる、調味料的なエピソードは、いっけん映画の本筋とは関係ないようでいて案外重要だったりする。どんなに非現実的な状況に展開しても、足元がしっかり描かれていれば、観客は気持ちよく受け入れられるものだ。

『ジュラシック・ワールド』の裏テーマは、人間の飽くなき欲望。それが可能ならば、自分では制御できないものでも手をそめてしまったり、金銭的に儲かることばかりに目がくらんで後先考えない人間の業も描かれている。なにごともなければいいじゃない、儲かるんだからと無責任に進めてしまうことの顛末。映画だから最悪の状態に堕ちていく。フィクションだからこそキャアキャア笑って観れるけど、社会風刺としてはなかなか辛口。そんなところも最近の映画では忘れかけていた硬派な題材だったりする。この映画の恐竜は、いま抱えている社会問題のメタファー。

この映画では多くの人が死ぬ場面がある。残虐になりすぎない表現の工夫がされている。最近の映画の流れで、残虐描写がどんどんエスカレートしつつある中、ちょっと新鮮。人が死ぬ場面がマイルドになれば、レーティングが低くなり、多くの層の観客に観てもらえる。こういった工夫もヒットには大事。無意味に残酷でないところが上品にも感じられる。ウチの子どもたちにはまだ観せられないけど、勇敢な子どもだったらビクビクしながらでも楽しめるのかも。

スピルバーグ監督の初期映画の面白さを追求したのは、アラフォー世代のコリン・トレヴォロウ監督。自分と同世代のトレヴォロウ監督は、自分と同じような映画体験を経験しているはず。かつてスピルバーグ映画にワクワクしていた映画少年の心をくすぐったエッセンスを、トレヴォロウ監督はあらためて読み解いている。トレヴォロウは新しい『スターウォーズ』の最終章『エピソード9』の監督にも抜擢されている。万人が楽しめるエンターテイメント映画のさらなる追求が楽しみだ。

どうやらいつの世も、人の嗜好というのは、さほど変化はないということなのだろう。

 

関連記事

no image

『スイス・アーミー・マン』笑うに笑えぬトンデモ・コメディ

インディペンデント作品は何が出てくるかわからないのが面白い。『スイス・アーミー・マン』は、無人島に一

記事を読む

no image

『一九八四年』大事なことはおばちゃんに聞け!

『一九八四年』はジョージ・オーウェルの1949年に発表された、近未来の完全管理社会を描いたディストピ

記事を読む

no image

『007 スペクター』シリアスとギャグの狭間で

  評判の良かった『007 スペクター』をやっと観た。 前作『スカイフォール』

記事を読む

no image

『シェイプ・オブ・ウォーター』懐古趣味は進むよどこまでも

今年2018年のアカデミー賞の主要部門を獲得したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォータ

記事を読む

no image

自国の暗部もエンタメにする『ゼロ・ダーク・サーティ』

  アメリカのビン・ラディン暗殺の様子を スリリングに描いたリアリスティック作品。

記事を読む

『しあわせはどこにある』おじさんが旅に出る理由

サイモン・ペッグが観たい! ハリウッドのヒットメーカーであるJ.J.エイブラムス監督作品に

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

『スリー・ビルボード』作品の意図を煙にまくユーモア

なんとも面白い映画だ。冒頭からグイグイ引き込まれてしまう。 主人公はフランシス・マクドーマンド

記事を読む

『SHOAH ショア』ホロコースト、それは証言か虚言か?

ホロコーストを調べている身内から借りたクロード・ランズマンのブルーレイ集。ランズマンの代表作

記事を読む

『スター・ウォーズ・アイデンティティーズ』パートナーがいることの失敗

寺田倉庫で開催されている『スターウォーズ・アイデンティティーズ・ザ・エキシビション』という催

記事を読む

『ブラックパンサー』伝統文化とサブカルチャー、そしてハリウッドの限界?

♪ブラックパンサー、ブラックパンサー、ときどきピンクだよ〜♫

『ベニスに死す』美は身を滅ぼす?

今話題の映画『ミッドサマー』に、老人となったビョルン・アンドレ

『白洲次郎(テレビドラマ)』自分に正直になること、ズルイと妬まれること

白洲次郎・白洲正子夫妻ってどんな人? 東京郊外ではゆかりの人と

『サトラレ』現実と虚構が繋がるとき

昨年、俳優の八千草薫さんが亡くなられた。八千草さんの代表作には

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』考えずに依存ばかりしてると

クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ワンス・アポン・ア・

→もっと見る

PAGE TOP ↑