*

『ジュラシック・ワールド』スピルバーグの原点回帰へ

公開日: : 最終更新日:2016/05/18 メディア, 映画:サ行

ジュラシックワールド

映画『ジュラシック・ワールド』は、とても楽しいアトラクションムービーだった。大ヒットしたからといって、必ずしも面白い作品とは言えない作品が多いなか、とても理想的な映画だ。

2015年の夏といえば、『ターミネーター』やら『ミッション・インポッシブル』、『マッドマックス』など、80年代から続く人気作の続編が相次いだ。80〜90年代にハリウッド映画の洗練を受けまくった、自分のような中年世代にはたまらないラインナップ。どの作品も今回の新作から初めて観る人にもストーリーが理解できるような工夫がなされている。もちろんかねてよりのオールドファンには、懐かしくて涙がチョチョギレそうな場面も用意されている。この『ジュラシック・ワールド』では、新しい登場人物達が恐竜達から逃げ延びた先が、シリーズ第一作の『ジュラシック・パーク』の跡地で、そこで静かにジョン・ウィリアムズのテーマが流れたりすると、映画の設定と同じ月日が流れたのだと実感する。

一作目の『ジュラシック・パーク』は、映画にCG技術を取り入れるきっかけになったCG黎明期の作品。この映画の成功で、ハリウッド映画の特撮はミニチュアや着ぐるみがなくなり、CG全盛時代へと流れていく。観客達はCG無しでは映画が観れないくらいになってしまった。そしていま、CGブームも落ち着いて、当初の手作りの特撮の価値も見直され始めている。CG技術が目玉の映画は、ストーリーはつまらないものが多かった。CGも映画を彩るツールのひとつでしかない。映画の面白さの本質はそこではないと、みんな気付き始めている。だからこそこの『ジュラシック・ワールド』は、アトラクションムービーの面白さの原点を追求し直したような作品になっている。

シリーズの一作目と二作目の監督はスティーブン・スピルバーグ。本作でも製作総指揮を担当している。どことなくキャスティングされた役者の面構えも、初期のスピルバーグ作品にでてきそうな顔ばかり。大人達はワーカホリックや、離婚調停中だったり不安定な精神状態だったりする。そういった登場人物達の事情も交えながらアドベンチャーに進んでいく。登場人物に共感できなければ、どんなすごい映像が作れても観客はノレない。魅力的なキャラクターはより魅力的に。いっけんイヤなヤツにみえるキャラクターも、どこかに共感させて、嫌いにはなれなくしている。

スピルバーグの初期作『ジョーズ』で、クライマックスに入る前の決戦前夜、主人公達が静かに語り合う場面なんかとても大事だった。『E.T.』ではE.T.と出会う子ども達は母子家庭で、母親がイライラしている。映画を盛り上げる、調味料的なエピソードは、いっけん映画の本筋とは関係ないようでいて案外重要だったりする。どんなに非現実的な状況に展開しても、足元がしっかり描かれていれば、観客は気持ちよく受け入れられるものだ。

『ジュラシック・ワールド』の裏テーマは、人間の飽くなき欲望。それが可能ならば、自分では制御できないものでも手をそめてしまったり、金銭的に儲かることばかりに目がくらんで後先考えない人間の業も描かれている。なにごともなければいいじゃない、儲かるんだからと無責任に進めてしまうことの顛末。映画だから最悪の状態に堕ちていく。フィクションだからこそキャアキャア笑って観れるけど、社会風刺としてはなかなか辛口。そんなところも最近の映画では忘れかけていた硬派な題材だったりする。この映画の恐竜は、いま抱えている社会問題のメタファー。

この映画では多くの人が死ぬ場面がある。残虐になりすぎない表現の工夫がされている。最近の映画の流れで、残虐描写がどんどんエスカレートしつつある中、ちょっと新鮮。人が死ぬ場面がマイルドになれば、レーティングが低くなり、多くの層の観客に観てもらえる。こういった工夫もヒットには大事。無意味に残酷でないところが上品にも感じられる。ウチの子どもたちにはまだ観せられないけど、勇敢な子どもだったらビクビクしながらでも楽しめるのかも。

スピルバーグ監督の初期映画の面白さを追求したのは、アラフォー世代のコリン・トレヴォロウ監督。自分と同世代のトレヴォロウ監督は、自分と同じような映画体験を経験しているはず。かつてスピルバーグ映画にワクワクしていた映画少年の心をくすぐったエッセンスを、トレヴォロウ監督はあらためて読み解いている。トレヴォロウは新しい『スターウォーズ』の最終章『エピソード9』の監督にも抜擢されている。万人が楽しめるエンターテイメント映画のさらなる追求が楽しみだ。

どうやらいつの世も、人の嗜好というのは、さほど変化はないということなのだろう。

関連記事

核時代の予言だったのか?『ストーカー』

この映画のタイトル『ストーカー』は いま世間的に流布している 特定の人につきまとう 行

記事を読む

映画づくりの新しいカタチ『この世界の片隅に』

クラウドファンディング。最近多くのクリエーター達がこのシステムを活用している。ネットを通して

記事を読む

『バッファロー’66』シネクイントに思いを寄せて

渋谷パルコが立て替えとなることで、パルコパート3の中にあった映画館シネクイントも休館となるそ

記事を読む

『バウンス ko GALS』JKビジネスの今昔

JKビジネスについて、最近多くテレビなどメディアで とりあつかわれているような気がする。

記事を読む

自国の暗部もエンタメにする『ゼロ・ダーク・サーティ』

アメリカのビン・ラディン暗殺の様子を スリリングに描いたリアリスティック作品。 冒頭

記事を読む

『グラディエーター』Are You Not Entertained?

https://www.youtube.com/watch?v=QPk1NdvplCI[/capt

記事を読む

『かもめ食堂』クオリティ・オブ・ライフがファンタジーにならないために

2006年の日本映画で荻上直子監督作品『かもめ食堂』は、一時閉館する前の恵比寿ガーデンシネマ

記事を読む

『サウルの息子』みせないことでみえてくるもの

(C) 2015 Laokoon Filmgroup[/caption] カンヌ映画祭やアカ

記事を読む

『千と千尋の神隠し』子どもが主役だけど、実は大人向け

言わずもがなスタジオジブリの代表作。 フランスのカンヌ映画祭や アメリカのアカデミー賞も

記事を読む

自分の人生に責任をもつこと その1

自分に言い聞かせるつもりで記します。 ネットに拡散された『宮崎駿に人生を壊された女』という

記事を読む

『チャーリーとチョコレート工場』歪んだ愛情とその傷

映画が公開されてから時間が経って、その時の宣伝や熱狂が冷めたあ

『ドラゴンボール』元気玉の行方

http://www.maniado.jp/community/ne

『THIS IS US』人生の問題は万国共通

http://video.foxjapan.com/tv/this-

『生きる』立派な人は経済の場では探せない

黒澤明監督の代表作『生きる』。黒澤作品といえば、時代劇アクショ

『ヒミズ』闇のスパイラルは想像力で打開せよ!

園子温監督作品の評判は、どこへ行っても聞かされる。自分も園子温

→もっと見る

PAGE TOP ↑