*

『チャーリーとチョコレート工場』歪んだ愛情とその傷

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 映画:タ行, 音楽

 

映画が公開されてから時間が経って、その時の宣伝や熱狂が冷めたあと、あらためてその映画を観直すと、作品に込められた真のテーマが見えてくるなんてことが稀にある。このティム・バートンが監督した『チャーリーとチョコレート工場』がそれ。

映画はエキセントリックなビジュアルと演出で、一目で心を奪われてしまう。ウンパルンパという同じ顔をした、ちっちゃいおじさんたちが、歌いながら働いているのが楽しすぎるし、皮肉もたくさん孕んでる。

もちろんそれらもこの映画の最大の魅力だ。でもこの映画のテーマはとても道徳的で高尚だ。最近の商業作品にはすっかりなくなってしまった気骨がある。派手な作風は、その照れ隠しかもしれない。それくらい直球投げても、その心は届く人にしか届かない。

ジョニー・デップ演じるウィリー・ウォンカは天才ショコラティエ。彼が製造するチョコレートは世界中に人気で、巨大な工場から毎日、多くのトラックで配送されていく。ただ、工場で働く人の姿は誰もみたことがない。主人公の少年・チャーリーのおじいちゃんが、かつてウォンカの工場で働いていたらしい。従業員の裏切りがあって、ウォンカの工場で働く人は全員解雇されてしまった。それ以来、傷ついたウォンカはひとり、巨大な工場に閉じこもったまま。配送トラックだけが工場を出入りしている。

なんだかウォンカのチョコレート工場と、マイケル・ジャクソンのネバーランドとが重なってくる。心優しい天才に、カネの匂いを嗅ぎつけたハイエナどもが群がる。本来、人と人の繋がりは類は友を呼ぶものがいい。しかしながらこのカネというものは、その自然の摂理の流れを強引に変えてしまう力がある。心優しき天才は深く傷つけられ、自分の殻に閉じこもってしまう。たとえ巨万の富を得ようとも、真の友人はいない。彼はひとりぼっち。

天才の親もまた天才。息子はショコラティエとして才能を開花したが、父親は歯科医の博士だ。人から飛び抜けた才能を持つ人は、そのしわ寄せとしてか、凡人が普通にできる当たり前のことができなかったりする。父親の息子に対する愛情表現は、過剰なまでの歯科矯正器具に象徴される。親としては最新の技術を息子にあてがっているつもりだが、息子からしたら拷問でしかない。ウォンカが「両親」という言葉を発するとき吃るのが、その傷の表れ。

ウォンカは、虫歯になるからダメだと父親が禁じたお菓子の世界に飛び込んでいく。親との確執で、ほとんどがその才能の芽が摘まれてしまうものだが、幸いにもウォンカはそこで成功することができた。トンガリまくったビジュアルと演技で、滑稽なコメディに仕上げているが、映画のテーマはとても深刻だ。

ウォンカのキャラクターとしてとても興味深いのは、この人は果たして子どもが好きなんだか嫌いなんだかわからないところ。雄弁に自分の仕事を語っているかと思ったら、質問されると、いちいちイラついてる。人懐っこそうなのに気難しい。情緒不安定。公開当時の流行りの言葉で言うなら、まさにアダルトチルドレン。

ウォンカが自分のチョコレート工場に、親同伴で子どもたちを招待する。どの家も極端な問題を抱えている。いちばんマトモに見える主人公のチャーリーの家だって、超ド貧困。働き手は父親だけで、要介護老人が四人もいる。まるで近未来の日本の家族構成みたいだ。

そういえば劇中でウォンカのチョコレートは世界中に配給されている。アジアでは東京に販売店があった。昨今の日本では、外資系がどんどん撤退している。日本経済が弱くなっているのが如実に伝わる。いまなら即中国に支店を出すだろう。ウォンカも日本から撤退しちゃったかな? 本当にこの10年でアジアの経済状況が大きく変わってしまった。もうそろそろ建設的な話をしないとね。

ウォンカは子どもたちを自分の工場に招待して施しているようにもみえるし、逆に悪い子や悪い親を罰しているようにもみえる。何がやりたいのか、ウォンカ自身にもわかっていないみたいだ。

ウォンカは天才ゆえに人の上に立たなければならなくなった孤独な人。本能的に救いを求めてる。工場に招待した子どもたちを競わせて、上から与えようしているけれど、実は自分を救ってくれそうな、優しくて強い子どもを探してる。幼少時のトラウマと向き合うところまできちんと描いているのだから、この映画はとても誠実だ。

ウォンカはチャーリーの家族たちと一緒に暮らすことになるのだろう。今回はウチの子どもたちとこの映画を観た。ふと小学生の娘が「ウォンカさんは、実のお父さんとは一緒に暮らさないの?」と聞いてきた。父と子の確執。和解こそすれども、そうやすやすと解けるほど単純なものではない。ファンタジー映画だけど、そこはとてもシビアな現実を捉えている。物語は登場人物たちが、身の回りの環境を変える生活を選び、一歩先に踏み出したところで終わっていく。

関連記事

no image

アーティストは「神」じゃない。あなたと同じ「人間」。

  ちょっとした現代の「偶像崇拝」について。 と言っても宗教の話ではありません。

記事を読む

no image

『リメンバー・ミー』生と死よりも大事なこと

春休み、ピクサーの最新作『リメンバー・ミー』が日本で劇場公開された。本国アメリカ公開から半年遅れだ。

記事を読む

no image

『鉄コン筋クリート』ヤンキーマインド+バンドデシネ

アニメ映画『鉄コン筋クリート』が公開されて今年が10周年だそうです。いろいろ記念イベントやら関連書籍

記事を読む

no image

『めぐり逢えたら』男脳女脳ってあるの?

  1993年のアメリカ映画『めぐり逢えたら』。実は自分は今まで観たことがなかった。

記事を読む

no image

『ビバリーヒルズ・コップ』映画が商品になるとき

  今年は娘が小学校にあがり、初めての運動会を迎えた。自分は以前少しだけ小中高の学校

記事を読む

no image

『async/坂本龍一』アートもカジュアルに

  人の趣味嗜好はそうそう変わらない。 どんなに年月を経ても、若い頃に影響を受

記事を読む

no image

『レヴェナント』これは映画技術の革命 ~THX・イオンシネマ海老名にて

  自分は郊外の映画館で映画を観るのが好きだ。都心と違って比較的混雑することもなく余

記事を読む

no image

『FOOL COOL ROCK!』サムライ魂なんて吹っ飛ばせ!!

  『FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY

記事を読む

no image

『CASSHERN』本心はしくじってないっしょ

  先日、テレビ朝日の『しくじり先生』とい番組に紀里谷和明監督が出演していた。演題は

記事を読む

no image

『電車男』オタクだって素直に恋愛したかったはず

  草食男子って、 もう悪い意味でしか使われてないですね。 自分も草食系なんで…

記事を読む

no image
『映画から見える世界 上野千鶴子著』ジェンダーを意識した未来を

図書館の映画コーナーをフラついていたら、社会学者の上野千鶴子さんが書い

no image
『カメラを止めるな!』虚構と現実、貧しさと豊かさ

春先に日テレ『金曜ロードSHOW!』枠で放送された『カメラを止

no image
『なつぞら』自分の人生とは関係ないドラマのはずだったのに……

「アニメーターってなによ?」7歳になる息子が、NHK朝の連続テレビ小説

no image
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』そこに自己治癒力はあるのか?

自分はどストライクのガンダム世代。作家の福井晴敏さんの言葉にもあるが、

no image
『ナイトミュージアム』学びは最強の武器

ベン・ステラー監督主演のコメディ映画『トロピック・サンダー』を観たら、

→もっと見る

PAGE TOP ↑