『ゴジラvsコング』 趣味嗜好は世代とともに
小学生になる我が息子はなぜかゴジラが好き。日本版の最近作『シン・ゴジラ』も、幼稚園の頃にリアルタイムで観ていた。もちろんハリウッドのレジェンダリーでリブートされたシリーズも全作観ている。ハリウッド版ゴジラの最新作『ゴジラvsコング』も、次回作企画発表の段階から楽しみにしていた。ただ世の中はコロナ禍真っ只中。果たして映画館での鑑賞はできるのだろうか。配信やレンタル待ちにするべきだろうか。
海外から輸入される映画の公開は、日本が世界でいちばん遅い。日本の映画の興行収入は、圧倒的に国内制作作品。海外輸入の洋画は、なんとなくマニアな映画ファンしか観に行かないような印象。これも国内作品の宣伝力の強さの影響。海外作品の公開が遅い理由は単純。作品が世界で公開されている間に、作品に対する評価や話題がついてくる。有名な映画祭で受賞などしてくれたら、日本公開時に宣伝しやすい。要するに作品そのもののパワーに頼るのではなく、誰かの評価や肩書きに頼って宣伝していく。まずは他人の目を気にする、自分で考えて判断するのが苦手な日本人らしい宣伝方法。
世界的なコロナ蔓延で、『ゴジラvsコング』の公開もずいぶん遅れた。世界的に感染者が減ったのではと思われた3月、『ゴジラvsコング』は世界公開された。コロナ対策に数歩遅れた日本では、公開日すら決められない状態。このまま日本では劇場公開をすっ飛ばしてビデオスルー公開になるかと諦めかけた矢先、7月に公開決定。
日本ではこの時期、東京オリンピックでテレビは大騒ぎ。それと比例して、毎日コロナ感染者が急増している。その中で果たして映画鑑賞なんてしてもいいのだろうか。一抹の不安もあったが、このまま夏休みに何もしないままというのも消極的。世の中はすっかり緊急事態宣言どこ吹く風。いちかばちか空いてる席を狙って映画館へ行ってみた。
実はパパは小学一年生のとき、学校の体育館で日本版の『キングコング対ゴジラ』という映画を観ていたのだよ。そう告げると、息子の興味が膨らむ。そのときコングとゴジラのどちらが勝ったのかが気にかかっていた。それがパパもよくわからない。自分もあまりに幼かったので、ストーリー自体も覚えていない。ただ、コングとゴジラが戦いながら、仲良く城を壊していたのは記憶の片隅にある。そのあと、両者ともに海の遠くへ消えていったような……。白黒はっきりさせないことも大事なことだ。それを映画に教わった。
ハリウッド版のゴジラは人類の味方。でも予告編からすると、今回はいつもと様子が違う。日本公開があまりに遅かったので、ネットではネタバレが散見する。見猿聞か猿言わ猿。情報はだいぶ遮断はしたものの、おおよその予想はついてしまう。親子ともども、その推測は鑑賞前には言わぬが花。家族内でもネタバレ厳禁。親子で互いに気を使いながら、自分の知っているネタバレについては口を開かなかった。
怪獣ものやスーパーヒーローものは、本来は子ども向けの映画。最近では大人をターゲットにした作品が増えた。PG12のレーティングがかかっている作品も多い。そうなると親子で観に行けない。ハリウッド版ゴジラは、大人も子どもも誰でも鑑賞可能な作品。残念ながら『キングコング』はPG12だった。怖すぎないけど、ちょっと怖い。それくらいの表現の方がいい。
映画館に来て驚いたのは、観客のほとんどが中年以上で、小学生はほとんどいない。うちの息子はこの劇場の観客の最年少なのは確実だ。吹き替え版を選んだにも関わらず意外。我が子の映画センスはなかなか渋い。
ハリウッド版ゴジラは、徹底的に怪獣のプロレスを意識している。ドラマ性はそもそも割愛している。いさぎよい。でも今回の『ゴジラvsコング』は、人間の登場人物も楽しく描かれている。怪獣が出てこない場面でも結構面白い。前作から引き続きの登場人物もいれば、新しいキャラクターも増えている。群像劇としての楽しさもある。日本からは小栗旬さんが参戦してる。果たして彼がカッコいいのかどうか、微妙な存在なのも笑える。
日本語吹き替え版を観るとき、いつも気になることがある。声の配役にプロの声優さんと実写映画の俳優さん、タレントさんが混在する。どのジャンルの役者さんも、メディアによって表現方法が異なるもの。演技の仕方がみなバラバラ。洋画を観にくる観客は、基本的には洋画ファン。日本で有名なタレントさんの誰かが声をあてているとかは興味がない。洋画はプロの声優さんで統一してもらえたほうがかなり観やすい。それこそ小栗旬さんの役でも、ご本人が吹き替えなくてもいいくらい。作品世界観の統一感が取れている方が大事。日本の声優さんの声だけの演技力はかなり凄い。またまた日本の芸能界の大人の事情で、タレントを声優起用しなければならない事情があるとかだったらつまらない。
映画観賞後ゴジラショップへ行ってみると、初老のおじさんたちが鼻息荒くグッズを物色していた。本当にゴジラの客層は子どもではなくて、「大人」とういうか「おじいさん」ばかりなのだと実感させられた。
人の趣味などそうそう変わるものではない。小さいときにゴジラに心を奪われた少年は、おじいさんになってもゴジラ好きなまま。刷り込みの力は根深い。いま初老に差しかかる世代の男子(?)は、怪獣ファンや特撮ファンが多い。中年世代はロボットアニメかな。そして青年世代は学園ものなのかも。
自分も若い頃は、歳をとったらどこかの時点で、盆栽いじりや演歌が好きになるのかと思っていた。実際歳を重ねてみると、子どもの頃に好きだったものは変わらない。そのまま歳とともに嗜好もスライドしていく。どうやら死ぬまで趣味は変わらなそうだ。
そうなると息子は生涯ゴジラ好き。自分はガンダム好きで棺桶まで向かうことになる。そういえばレジェンダリーは、実写版のガンダム映画化制作中。日本原作の権利をどんどん買い取って、オリジナルよりも稼いでいくレジェンダリーの手腕がすごい。
ゴジラやガンダムの歴史が半世紀以上続いていく。これからもどんどん新作が制作されていくだろう。当初の制作者が亡くなっても、シリーズは続いていく。自分が生まれる前からその作品があって、自分が死んだ後もシリーズが続いていくかと思うと、不思議な気分だ。終わりなきシリーズというのも不気味なもの。物語はどこかで完結した方が気持ちがいいと思うのだけれど、どうなのだろうか?
関連記事
-
-
『ゴーストバスターズ アフターライフ』 天才の顛末、天才の未来
コロナ禍真っ只中に『ゴーストバスターズ』シリーズの最新作『アフターライフ』が公開された。ネッ
-
-
『鑑定士と顔のない依頼人』 人生の忘れものは少ない方がいい
映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御歳89歳。セルジオ・レオーネや
-
-
『ゴッドファーザー 最終章』 虚構と現実のファミリービジネス
昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の脚本家・三谷幸喜さんが、今回の大河ドラマ執筆にあた
-
-
『進撃の巨人 完結編』 10年引きずる無限ループの悪夢
自分が『進撃の巨人』のアニメを観始めたのは、2023年になってから。マンガ連載開始15年、ア
-
-
『ゴーストバスターズ(2016)』 ヘムジーに学ぶ明るい生き方
アイヴァン・ライトマン監督作品『ゴーストバスターズ』は80年代を代表するブロックバスタームー
-
-
『クレヨンしんちゃん』 子どもが怖がりながらも見てる
かつて『クレヨンしんちゃん』は 子どもにみせたくないアニメワースト1でした。 とにか
-
-
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 問題を乗り越えるテクニック
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、日本公開当時に劇場で観た。アメリカの91
-
-
『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?
岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。
-
-
『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014』 坂本龍一、アーティストがコンテンツになるとき
今年の正月は坂本龍一ざんまいだった。1月2日には、そのとき東京都現代美術館で開催されていた『
-
-
『銀河鉄道の夜』デザインセンスは笑いのセンス
自分の子どもたちには、ある程度児童文学の常識的な知識は持っていて欲しい。マンガばかり読んでい
- PREV
- 『私をくいとめて』 繊細さんの人間関係
- NEXT
- 『死霊の盆踊り』 サイテー映画で最高を見定める