*

『清洲会議』でおいてけぼり

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:カ行

 

現在公開中の新作『ギャラクシー街道』も好調らしい三谷幸喜監督の前作にあたる『清洲会議』。

自分は初期の頃の三谷幸喜作品の大ファンでした。テレビシリーズの『やっぱり猫が好き』や『王様のレストラン』なんか夢中になって観てました。その後、映画監督作品の『ラヂオの時間』や『みんなのいえ』も好きでした。NHK大河ドラマの『新撰組』ですら優しい視点で描かれていて、とても楽しかった。

前作『ステキな金縛り』は見逃したまま、『清洲会議』の劇場へ行きました。場内は満席。客層も老若男女あらゆるタイプの人が集まっている。みんな楽しもうと気合いを感じる。映画が始まると、みんなドッカンドッカン大爆笑。でも自分、そんなに笑えない。まるで文化や言葉が違い、笑いのつぼの合わない外国で映画を観てるみたい。おいてけぼりにされまいと、必死で笑いに追いつこうと努力する健気な自分。『ステキな金縛り』のリンクネタもあったらしく、もう完全にアウェイ。

ヒットした曲しか知らないアーティストのコンサートに行って、周りの熱狂についていけないような寂しい感じ。三谷作品は、いつからかいちげんさんおことわりになったらしい。

観客はもう三谷ブランドを信用しきっている。面白かろうが大して面白くなかろうが、なんでもかんでも笑ってやろうという意気込みを感じる。だってブランドなんだもの、わからないなんてありえないって。

いつからか三谷作品は、豪華キャスティングの群像劇が売りになっていった。自分は映画を選ぶとき、監督でチョイスはすれど、役者で選ぶことはほとんどない。映画は監督の色しか出ないと思うから。だから自分にとっては、人気がある役者さんやタレントさんが出演するのはそれほど興味がない。大事なのは作品そのものが好きになれるかどうか。

三谷幸喜監督自身も、最近作はチャチャっとそつなくこなしているように感じる。これはきっとこの映画の企画が上がったとき、観客に楽しんで貰えそうな話があるというのではなく、話題性のために誰と誰をくっつければ儲かるかがメインなのが感じられてしまうから。もちろん三谷幸喜監督自身も、その儲かるための要素のピースのひとつに過ぎない。企業が儲かるためのパズルを組み合わせることを、クリエイティブという言葉にすぎ変えているのではないだろか。企画にハートがないの、もろ伝わっちゃうよ。

ウッディ・アレンやウェス・アンダーソンの作品も豪華キャスティングになるけれど、仮に出演してる役者さんを知らなくても、単体の作品として充分楽しめる作品ばかり。こういったスタイルを、日本でもやりたいのでしょう。でも、協賛してる企業は、儲かればなんでもいいから、映画の内容なんて正直興味ない。

観客を楽しませようとするより、観客からいかにカネを巻き上げるかの考え方が先にくる日本のメジャー映画業界。こんな作り方では面白い作品が出来上がるはずはない。

でも三谷作品のすごいところは、これだけの人気タレントや役者を勢揃いさせても、破たんすることなく、それなりに楽しませてくれること。お世辞にも面白い映画ではないのだけれど、かといってつまらなくはないのです。これは本当に三谷幸喜さんに才能があるからなのでしょう。本当に彼が純粋に作りたいと思う企画で作品を作る機会があれば、名作も出来るかも知れません。ひじょうに残念。

今やってる『ギャラクシー街道』も、この流れの作品。SFらしいけど、SF好きの自分に引っかかるものがなにもないので、きっとSFではないのでしょう。たぶん観ないだろうな。

 

関連記事

『コンテイジョン』映画は世界を救えるか?

知らないうちに引退宣言をしていて、いつの間に再び監督業に復帰していたスティーブン・ソダーバー

記事を読む

『健康で文化的な最低限度の生活』 貧しさが先か、病が先か?

「なんか該当しそうな給付制度ありました?」 これは最近パパ友との会話で欠かせないトピック。こ

記事を読む

『gifted ギフテッド』 お金の話はそろそろやめて人権の話をしよう

「ギフテッドを持つ子どもの支援を国をあげて始めましょう」というニュースがあがった。自分のSN

記事を読む

『ゲゲゲの女房』本当に怖いマンガとは?

水木しげるさんの奥さんである武良布枝さんの自伝エッセイ『ゲゲゲの女房』。NHKの朝ドラでも有

記事を読む

no image

『カメレオンマン』嫌われる勇気とは?

ウッディ・アレンの『カメレオンマン』。人に好かれたいがために、相手に合わせて自分を変化させてしま

記事を読む

『機動戦士ガンダム』とホモソーシャル

『ガンダム』といえば、我々アラフォー世代男子には、 小学校の義務教育の一環といってもいいコ

記事を読む

『風立ちぬ』 招かざる未来に備えて

なんとも不安な気分にさせる映画です。 悪夢から覚めて、夢の内容は忘れても、 ただただ不安

記事を読む

no image

『ゴジラ(1954年)』戦争の傷跡の貴重な記録

  今年はゴジラの60周年記念で、 ハリウッドリメイク版ももうすぐ日本公開。 な

記事を読む

『グッバイ、レーニン!』 長いものには巻かれて逃げろ

東西ドイツが統合された1989年。自分は子ども時代にそのニュースを見た。のちに学校の世界史の

記事を読む

『クレヨンしんちゃん』 子どもが怖がりながらも見てる

かつて『クレヨンしんちゃん』は 子どもにみせたくないアニメワースト1でした。 とにか

記事を読む

『MEGザ・モンスター』 映画ビジネスなら世界は協調できるか

現在パート2が公開されている『MEGザ・モンスター』。このシリ

『パリ、テキサス』 ダメなときはダメなとき

ヴィム・ヴェンダースの1984年の映画『パリ、テキサス』を観た

『ベイビー・ブローカー』 内面から溢れ出るもの

是枝裕和監督が韓国で撮った『ベイビー・ブローカー』を観た。是枝

『恋する惑星』 キッチュでポップが現実を超えていく

ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』を久しぶりに観た。199

『気狂いピエロ』 カワイイのセレクトショップ映画版

ジャン=リュック・ゴダールが91歳で亡くなった。ゴダールの名前

→もっと見る

PAGE TOP ↑