*

『MEGザ・モンスター』 映画ビジネスなら世界は協調できるか

公開日: : 映画:マ行, , 配信

現在パート2が公開されている『MEGザ・モンスター』。このシリーズ第1弾を観てみた。それというのも身近にジェイソン・ステイサムのファンの方がいたのがきっかけ。そういえば今までジェイソン・ステイサムの映画を意識して観たことがなかった。そのステイサム好きの人が言うには、ジェイソン・ステイサムの日本語吹替版専属声優の山路和弘さんの声がたまらなく良いとのこと。自分は普段映画鑑賞をするときは、たいていオリジナル音声の字幕版で観るのだが、そうも言われたら吹替版で観ないという選択肢はもうありえない。

『MEGザ・モンスター』は、劇場公開時もおもしろいと話題になっていた。巨大ザメが画面全面にレイアウトされたポスター・ヴィジュアルは、ホラー映画を彷彿とさせる。自分はホラー映画が得意ではない。大きな音で突然脅かされるのもイヤだし、グロい描写で人が殺されたりすると、いくらつくりものだと分かっていても数日落ち込んでしまう。それでも勇気を出して観てみようとした。蓋を開けてみると、ホラー映画というよりはアクション映画。そもそもサメ映画というよりはジェイソン・ステイサム映画。この映画で一気にステイサムの魅力が理解できた。なにがあってもコイツが来れば大丈夫感がハンパない。スーパーヒーローものでもないのに、無敵な存在感がたまらない。無茶なミッションも、絶対死なないと、他の登場人物たちや観客の誰もが心配していない。

サメ映画がなんでこれほど人気があるのかよく分からないでいる。最近のサメ映画は、サメが空を飛んだり宇宙空間で人を襲ったりと、どんどんイマジネーションが豊かになってきている。そもそもサメは海洋生物だったのではと、そんなところに引っかかっているようでは、まだまだ頭が硬いのだろう。

みなさんサメ映画好きでしょ? ホラー好きでしょ? アクション映画は? SFは? ……もちろんジェイソン・ステイサムは大好きだよね? と、みんなが好きなもの、売れそうなものをぜんぶ集めて、これみよがしに並べて観せてくれる。あざとい。もちろんぜんぶ大好きですとも。

この映画には原作があるのに驚いた。とくにストーリー性のある内容ではないアトラクション映画。文学的要素はほとんどない。この映画のモンスターは太古のサメのメガロドンということ。現代に甦る古代生物というSF作品だったのかもしれない。マイケル・クライトンの『ジュラシック・パーク』の原作みたいな感じか。ただ、『MEGザ・モンスター』の映画を観て、その原作小説を読んでみたいという興味の流れにはなりにくそう。原作のエッセンスをいただいて、単純明快なエンターテイメント映画に大幅アレンジされたような感じがする。

意外だったのはこの映画は、アメリカと中国の合作だということ。ハリウッド映画に中国が参入して、楽しいエンターテイメント作品を産出しているのは周知のこと。映画でもアメリカを舞台にしながらも、中国人キャストや文化が混ざり合っている。王道ハリウッド映画でありながら、カッコいい中国映画でもある。これはひとえに中国が経済的に伸びていて、ハリウッド映画産業に食い込んでいることの表れ。英語での映画製作は、世界標準をターゲットにしている。儲かる要素をこれでもかと揃えて、観客も素直にそれに踊らされてしまう。楽しければどうでもいいじゃないか。泥臭さも芸術也。

ただ近年では中国政府から、中国ハリウッド参入撤退令が出ているというニュースも聞いたことがある。なんでも『トップガン マーヴェリック』の製作に中国のプロダクションが携わっていたら、中国政府から「他国の軍事プロパガンダ映画の手伝いをするとは何ごとか!」とお叱りをいただいて即撤退したとか。それが本当なら、かなりマンガっぽいニュースだ。だからこの『MEGザ・モンスター』のパート2は、中国が関与していないアメリカだけで製作した映画になっているのかと思っていた。でもどうやらパート2も米中合作のようだ。ホッとした。エンターテイメントで、互いに儲かる約束がされている企画なら、国境を越えて協調できるというのも興味深い。

映画は言語や文化を越えて共感し合える部分があるメディア。とかく国際ニュースでは、アメリカと中国は反目し合っている。それは思想的反目というより、経済力のライバル意識がもたらしているもの。この映画のように、利害が一致するビジネスが見つかれば、一瞬にして仲良しにもなれるのだと『MEGザ・モンスター』が証明している。

お金の繋がりで、仲良くなったり悪くなったりするのは泥臭くてダサいけど、ギスギスしているよりは余程いい。バカバカしくて楽しいこの映画のように、楽天的にいけたらいいのにとつくづく思ってしまう。

MEG ザ・モンスター(吹替版) Prime Video

MEG ザ・モンスター [Blu-ray]

関連記事

『ダンジョン飯』 健康第一で虚構の彼方へ

『ダンジョン飯』というタイトルはインパクトがありすぎた。『ダンジョン飯』という、なんとも不味

記事を読む

『あしたのジョー』は死んだのか?

先日『あしたのジョー』の主人公矢吹丈の ライバル・力石徹役の仲村秀生氏が亡くなりました。

記事を読む

『進撃の巨人 完結編』 10年引きずる無限ループの悪夢

自分が『進撃の巨人』のアニメを観始めたのは、2023年になってから。マンガ連載開始15年、ア

記事を読む

『デザイナー渋井直人の休日』カワイイおじさんという生き方

テレビドラマ『デザイナー渋井直人の休日』が面白い。自分と同業のグラフィックデザイナーの50代

記事を読む

『太陽を盗んだ男』 追い詰められたインテリ

長谷川和彦監督、沢田研二さん主演の『太陽を盗んだ男』を観た。自分の中ではすっかり観た気になっ

記事を読む

『ラストナイト・イン・ソーホー』 ハイセンスなおもちゃ箱

前作『ベイビー・ドライバー』がめちゃめちゃ面白かったエドガー・ライト監督の新作『ラストナイト

記事を読む

『耳をすませば』 リアリティのあるリア充アニメ

ジブリアニメ『耳をすませば』は ネット民たちの間では「リア充映画」と 言われているらしい

記事を読む

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』これからのハリウッド映画は?

マーベル・ユニバース映画の現時点での最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』をやっと

記事を読む

『三体(Netflix)』 神様はいるの?

Netflix版の『三体』をやっと観た。このドラマが放送開始されたころ、かなり話題になっていたし

記事を読む

『日の名残り』 自分で考えない生き方

『日の名残り』の著者カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞した。最近、この映画版の話をしてい

記事を読む

『侍タイムスリッパー』 日本映画の未来はいずこへ

昨年2024年の夏、自分のSNSは映画『侍タイムスリッパー』の

『ホットスポット』 特殊能力、だから何?

2025年1月、自分のSNSがテレビドラマ『ホットスポット』で

『チ。 ー地球の運動についてー』 夢に殉ずる夢をみる

マンガの『チ。』の存在を知ったのは、電車の吊り広告だった。『チ

『ブータン 山の教室』 世界一幸せな国から、ここではないどこかへ

世の中が殺伐としている。映画やアニメなどの創作作品も、エキセン

『関心領域』 怪物たちの宴、見ない聞かない絶対言わない

昨年のアカデミー賞の外国語映画部門で、国際長編映画優秀賞を獲っ

→もっと見る

PAGE TOP ↑