『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』 はたして「それ」はやってくるか⁈
今年の夏の大目玉大作映画『ミッション:インポッシブル』の最新作『デッドレコニング PART ONE』。『PART ONE』と謳っているからには続編が予定されているし、本作が途中で終わることがはじめから約束されている。上映時間が3時間近くもあるこの映画。最近のこの長尺上映時間ブーム、どうにかならないものか。自分はトム・クルーズは大好きなので、劇場へ足を運んでもいいと思っていた。ただ長尺映画鑑賞時において、自分の事前準備の大変さが気掛かりとなってしまう。映画上映途中で、どうしても離席してトイレに行きたくない。トイレ対策のため、映画鑑賞の半日前から水分は控えたりしている。もう健康診断の前日みたいな緊張感。しかもこの映画の上映時期は真夏だったので、水分を控えるのはひじょうに危険。SNSでこの映画を観た人で「長尺作品にも関わらず体感時間は秒みたいに楽しかった」と言っている人もいたが、それはあくまで個人的感想。体力の物理的問題で、この映画の劇場鑑賞はすぐさま諦めた。ノーストレスで鑑賞できる配信を待とう。
『デッドレコニング』の製作時期はコロナ禍と重なり、度重なる撮影延期があった。いったいいつになったら『ミッション:インポッシブル』の新作が観れるのだろうかと、ファンをヤキモキさせた。いざ完成、世界公開の運びとなったら、プロモーション時期とハリウッドのストライキの時期とが重なってしまう。当初トム・クルーズとサイモン・ペックが来日予定だったが、それも果たせなかった。この映画の後編にあたる撮影も、このストの影響で来年以降になるらしい。続編公開の頃には、この『デッドレコニング PART ONE』の内容をすっかり忘れてしまいそうだ。まあその時また復習すればいいのだが。しかしながら、そうして作品をリピートさせようとする手口なのもみえないでもない。トムの手の内で、素直に踊らされることにしましょう。
『ミッション:インポッシブル』シリーズは、トム・クルーズのとんでもないアクションが毎回見せ場。なんでもトムから「こんなスタントをやってみたい」というアイデアが企画の段階で先に出て、そのアクションをどうやって映画に落とし込んでいくかを後からストーリーで紡いでいく作品のつくり方。それが『ミッション:インポッシブル』の映画づくり。アクション第一で、ストーリーは二の次。この割り切りが気持ちいい。
スパイアクション映画というと、いかに観客に思わせぶりをまかり通せるかにかかっている。ブライアン・デパルマが監督した『ミッション:インポッシブル』の第一作目では、瞬時にコンピューターのパスワードを解析できる場面があった。そんなことは実際には不可能なのは、2023年の現代人なら誰でもわかる。でも当時は「すげー」となったもの。嘘も上手につかれたら、騙されても気持ちがいい。
アクション第一主義のエンターテイメントづくりとなると、軽く感じてしまうかもしれない。でも人生の機微を描く地味だけど高尚な文芸作品でさえ、最初は小さな閃きから発展していく。そのひと言を言わんがために、2時間の映画に落とし込んでいく。その言葉が発せられるには、どんな人がどんな状況に置かれているか。逆算式にプロットは組み立てられていく。『ミッション:インポッシブル』の映画のつくり方は、ちっとも奇異なことではない。
今回の映画は、初めから続編ありきの作品なので謎も多い。引っ張る気満々。今回の敵は、存在しない何か。エンティティと呼ばれるそれは、情報が肥大化して暴走したAI。かねてよりSFのテーマとなっているAIと人間の戦い。このままAIが進化して、人智を越える存在となるシンギュラリティはやってくるのか。身近な問題では、AIに仕事を奪われて、失業者が溢れ出るのではないかという懸念がある。それも冷静になって考え直してみたい。
昔のSF作品では、仮にロボットが人間の仕事をしていても、人間の生活は豊かになったように描かれている。強いて言うなら、奴隷のように働かされたロボットが、人間に蜂起する姿はたくさんあった。でもそれはどう捉えても人間の方が悪い。そこで描かれる反乱は、差別社会や搾取社会へのメタファー。実際に人間の知能を越えたAIが出てきたとして、人間に直接牙を剥いてくるのだろうか。
歴史を紐解けば、人間は同族で殺し合いを続けてきた生き物。争いが起こるのは、相手の存在が怖いからに他ならない。知識は争いをなくしていける。人間を越えた存在がAIならば、もう神様みたいな存在。人智を越えた存在が、積極的に人間と争おうとするとは思えない。人間を越えたAIは、人間なんか簡単に手のひらで踊らせてしまう。それも人間が悪い気にならないような、上手なやり方で。要するに、頭の良い人は安易にケンカなんてしないということ。
きっとこの映画の暴走したAI=エンティティは、そんなシンギュラリティの姿は示してはくれない。人間同士を混乱させ、世界戦争を引き起こし、人類を乗っ取る気迫でいっぱいだ。そうなったらトム・クルーズ扮するイーサン・ハントに対処してもらうしかない。アイツならきっとこの困難も乗り越えられる。英雄に縋りたい群集心理を、映画が具現化してくれる。
今後現実社会でAIが進化していき、あらゆる仕事がオートメーション化されていく。たとえAIが人間の仕事を奪ったとしても、経済が健康的に回っていたのなら、個々人の生活は補償されていくはず。それこそベーシックインカムなどが導入され、あくせく日銭のために命をへずって働く必要がなくなる。「働かざる者食うべからず」とは、搾取する側の言い分。生活費に困らない社会ができたとして、為政者が心配する「働かざる者」も当然出てくるだろう。けれど心身ともに健康な人ならば、生活に余裕ができたぶん、何か新しいことに挑戦し始める。余裕から新しいものが生まれてくる。人参を目の前にぶら下げられて、馬車馬のように働かされていれば、いつかそれは疲弊し破綻する。今の日本がまさにそれ。
新しい資本主義なんて言葉がちょっと前にあって、いつの間にか死語になってしまった。今のままの資本主義では、社会は潰れてしまうけど、資本主義を単純に否定してしまっては、社会が後退する。価値観が根底からひっくり返すような、大胆な変化はときとして必要。むしろシンギュラリティが脅威とされているうちは、まだまだディストピア路線から離脱できていない。実のところ、社会の真の敵はAIではなく、飽和した社会を掴めない古い慣習の有力者なのかもしれない。新しい社会は怖いことばかりではない。まずは市民のために働いてくれる為政者に票を入れる。その結果、脅威や不安が、あるとき急に希望に変わる。新時代にようこそと。そんなSF観があってもいいのではないかと思う。ディストピアは語り尽くした、次はユートピアへ行きたいものだ。
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