『魔女の宅急便』魔法に頼らないということ
ウチの子どもたちも大好きなジブリアニメ『魔女の宅急便』。
実はウチの子たちはジブリアニメがあまり好きではない。子ども目線からすると、重くて暗くて怖い世界観みたいです。結局ジブリ作品は大人のためのアニメのようです。しかし『となりのトトロ』と、この『魔女の宅急便』は、子どもたちの間ではヘビーローテーション。とうとうディスクにキズがついて観れなくなってしまった。
この映画の主人公キキは魔女見習い中。魔法といえば空を飛ぶことしか憶えられなかった。そのキキがスランプになり、魔法が使えなくなるというのが最大の見せ場。困難を乗り切って向かえるラストシーン。独りのときずっと話し相手だった黒猫のジジが肩に寄り添ってくるのだけれど、以前みたいにおしゃべりができない。キキはちょっとさみしそうな顔をするのだけれど、次の瞬間それを受け入れるような目線の芝居をします。これが映画のラストシーン。
自分がこの映画を初めて観たのは10代の頃。生まれて初めて親元を離れて、一人暮らしをした年だったので、あたかも自分の姿をみるようでした。ここで黒猫のジジとはしゃべれないまま物語は終わってしまいます。10代の頃はなんだか釈然としない印象を受けましたが、いまとなってはこれはベストな終わり方なのだと思います。映画では、黒猫ジジとは魔法を使って話しているような表現こそしているけれど、じつはこれ、自問自答のメタファーなのだと。子どもの頃、無力な自分を思い知り、自己弁護するために、自分は人と違う力を持っていると思い込もうとする。
魔法が使えるのではないか?
超能力があるのではないか?
千里眼があるのではないか?
そんな風に「自分は特別な存在だ」と大人になる年齢になるまで言っていたら、それはもうほとんどビョーキだろう。無力な自分を認めてあげる。きっとそれが大人になる第一歩。だからもうキキは、黒猫ジジの声に頼る必要がなくなったのです。魔法という自分だけにしか通用しない方法を隠れ蓑にしなくなることで、物語は終わっていくのです。
この映画の声優さんは、主人公キキと年上の画学生役を高山みなみさんが二役演じています。意図としては、女性はいくつになっても同じ人のようなものであったのかも知れませんが、キキとジジが同じ声優さんのほうがしっくりするのでは? と今となっては感じてしまうのです。
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