*

『団地ともお』で戦争を考える

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ,

 

小さなウチの子ども達も大好きな『団地ともお』。夏休み真っ最中の8月14日にNHKで放送されていた。どうせ過去の傑作選だろうと思っていたら、本編で「戦後70周年の今」というセリフがでてくる。どうやら終戦70周年記念の新作だったのか!? 録画しとけばよかったと後悔!

『団地ともお』は団地住まいの小学生ともおとその家族や友達、同じ団地に住む住人達との交流と、現代の日本社会では絶滅したかのような地域密着の人間関係が描かれている。ともおの家のテレビもまだブラウン管だし、舞台が昭和時代だとばかり思っていたので、現代だったのかとあらためて気づく。

『団地ともお』の登場人物は、ともおのような小学生から、親や先生などともおに関わる大人や老人達も多勢でてくる。あらゆる世代が出てくるというのは、作者は描くのが大変だろうが、そのおかげであらゆる世代の視聴者の興味をひく。実はひとつのトピックで、世代間やあらゆる立場の人の価値観の考え方の違いでドラマが繰り広げやすいし、そこが作品の見どころでもある。とかくストーリーや奇をてらった作品が多い中、本当に登場人物の魅力だけで進んでいくのは『男はつらいよ』や小津安二郎監督の世界観に近い。人を描こうとしているところがとてもいいし、コメディなのもいい。今の日本には知的な笑いが足りない!!

この世界観で戦争をテーマにするというところが良い。あらゆる世代があらゆる考えを持っている。基本コメディだし、戦争論なんてプロパガンダくさくて、日本のアニメや漫画でもうみたくない。このスペシャル版では、戦争論には触れず、平成の今の日本に生きる日本人が戦争についてどう接していくべきかを多くのパターンでモデリングしている。そう、そろそろ感情論ではなく、極論を相手に押し付けるのではなく、自分と考えが違う人の声も聞いていくことを日本人も学んでいかなければならない。

ともおは戦争経験者のおじいさんとぶつかったりしている。学校の歴史の先生は、現代史に触れることのない今の教育を憂いている。ともおも子ども達での縄張り争いで「こうして戦争が起こるのか〜」と考えたりする。とても日常的。

残念ながらウチのチビッコ達には、まだ内容が難しくて飽きてしまったようだが、こういった直接戦争の場面もなく、偏ったりガチガチな理論攻めでない、ユルいカタチで戦争を描いていくのは、これからの時代とても大切なこと。ユルいけどまじめ。臭いものに蓋をするばかりではなく、もっとリラックスして難しい話題でも話していけるくらい、日本人も知的レベルを上げなくちゃね。それにはもう少し本を読まないと。(意外と新聞だけじゃダメだったりする。ネットなんてもっとダメ。)

これからも戦後が80年、100年と続いていけるように、一人ひとりがまじめにならないといけない。人任せではものごとがどんどん悪い方向へ向かっていくだけ。

コメディは不真面目なものじゃなく、まじめに社会風刺ができる知的な娯楽なのだと思う。

関連記事

『このサイテーな世界の終わり』 老生か老衰か?

Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『このサイテーな世界の終わり』。BTSのテテがこの作

記事を読む

『わたしは、ダニエル・ブレイク』 世の中をより良くするために

ケン・ローチが監督業引退宣言を撤回して発表した『わたしは、ダニエル・ブレイク』。カンヌ映画祭

記事を読む

『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者

御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時

記事を読む

『白洲次郎(テレビドラマ)』自分に正直になること、ズルイと妬まれること

白洲次郎・白洲正子夫妻ってどんな人? 東京郊外ではゆかりの人として有名だけど、恥ずかしながら

記事を読む

『ワンダー 君は太陽』親になってわかること

自分はお涙頂戴の映画は苦手だ。この『ワンダー』は、予告編からして涙を誘いそうな予感がする。原

記事を読む

no image

『怪盗グルーのミニオン大脱走』 あれ、毒気が薄まった?

昨年の夏休み期間に公開された『怪盗グルー』シリーズの最新作『怪盗グルーのミニオン大脱走』。ずっとウチ

記事を読む

no image

『百日紅』天才にしかみえぬもの

  この映画は日本国内よりも海外で評価されそうだ。映画の舞台は江戸時代。葛飾北斎の娘

記事を読む

no image

夢は必ず叶う!!『THE WINDS OF GOD』

  俳優の今井雅之さんが5月28日に亡くなりました。 ご自身の作演出主演のライ

記事を読む

『機動戦士ガンダム』とホモソーシャル

『ガンダム』といえば、我々アラフォー世代男子には、 小学校の義務教育の一環といってもいいコ

記事を読む

『ドグラ・マグラ』 あつまれ 支配欲者の森

夢野久作さんの小説『ドグラ・マグラ』の映画版を久しぶりに観た。松本俊夫監督による1988年の

記事を読む

『アン・シャーリー』 相手の話を聴けるようになると

『赤毛のアン』がアニメ化リブートが始まった。今度は『アン・シャ

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

→もっと見る

PAGE TOP ↑