『団地ともお』で戦争を考える
小さなウチの子ども達も大好きな『団地ともお』。夏休み真っ最中の8月14日にNHKで放送されていた。どうせ過去の傑作選だろうと思っていたら、本編で「戦後70周年の今」というセリフがでてくる。どうやら終戦70周年記念の新作だったのか!? 録画しとけばよかったと後悔!
『団地ともお』は団地住まいの小学生ともおとその家族や友達、同じ団地に住む住人達との交流と、現代の日本社会では絶滅したかのような地域密着の人間関係が描かれている。ともおの家のテレビもまだブラウン管だし、舞台が昭和時代だとばかり思っていたので、現代だったのかとあらためて気づく。
『団地ともお』の登場人物は、ともおのような小学生から、親や先生などともおに関わる大人や老人達も多勢でてくる。あらゆる世代が出てくるというのは、作者は描くのが大変だろうが、そのおかげであらゆる世代の視聴者の興味をひく。実はひとつのトピックで、世代間やあらゆる立場の人の価値観の考え方の違いでドラマが繰り広げやすいし、そこが作品の見どころでもある。とかくストーリーや奇をてらった作品が多い中、本当に登場人物の魅力だけで進んでいくのは『男はつらいよ』や小津安二郎監督の世界観に近い。人を描こうとしているところがとてもいいし、コメディなのもいい。今の日本には知的な笑いが足りない!!
この世界観で戦争をテーマにするというところが良い。あらゆる世代があらゆる考えを持っている。基本コメディだし、戦争論なんてプロパガンダくさくて、日本のアニメや漫画でもうみたくない。このスペシャル版では、戦争論には触れず、平成の今の日本に生きる日本人が戦争についてどう接していくべきかを多くのパターンでモデリングしている。そう、そろそろ感情論ではなく、極論を相手に押し付けるのではなく、自分と考えが違う人の声も聞いていくことを日本人も学んでいかなければならない。
ともおは戦争経験者のおじいさんとぶつかったりしている。学校の歴史の先生は、現代史に触れることのない今の教育を憂いている。ともおも子ども達での縄張り争いで「こうして戦争が起こるのか〜」と考えたりする。とても日常的。
残念ながらウチのチビッコ達には、まだ内容が難しくて飽きてしまったようだが、こういった直接戦争の場面もなく、偏ったりガチガチな理論攻めでない、ユルいカタチで戦争を描いていくのは、これからの時代とても大切なこと。ユルいけどまじめ。臭いものに蓋をするばかりではなく、もっとリラックスして難しい話題でも話していけるくらい、日本人も知的レベルを上げなくちゃね。それにはもう少し本を読まないと。(意外と新聞だけじゃダメだったりする。ネットなんてもっとダメ。)
これからも戦後が80年、100年と続いていけるように、一人ひとりがまじめにならないといけない。人任せではものごとがどんどん悪い方向へ向かっていくだけ。
コメディは不真面目なものじゃなく、まじめに社会風刺ができる知的な娯楽なのだと思う。
関連記事
-
-
『STAND BY ME ドラえもん』 大人は感動、子どもには不要な哀しみ?
映画『STAND BY ME ドラえもん』を 5歳になる娘と一緒に観に行きました。
-
-
『東京ゴッドファーザーズ』地味な題材のウェルメイドアニメ
クリスマスも近いので、 ちなんだ映画をセレクト。 なんでもこの『東京ゴッ
-
-
『パフューム ある人殺しの物語』 狂人の言い訳
パトリック・ジュースキントの小説『香水 ある人殺しの物語』の文庫本が、本屋さんで平積みされて
-
-
『なつぞら』自分の人生とは関係ないドラマのはずだったのに……
「アニメーターってなによ?」7歳になる息子が、NHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』の番宣での
-
-
『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?
岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。
-
-
『誰がこれからのアニメをつくるのか?』さらなる大志を抱けたら
「日本が世界に誇るアニメ」などという手前味噌な恥ずかしいフレーズも、すっかり世の
-
-
『未来のミライ』真の主役は建物の不思議アニメ
日本のアニメは内省的で重い。「このアニメに人生を救われた」と語る若者が多いのは、いかに世の中
-
-
男は泣き、女は勇気をもらう『ジョゼと虎と魚たち』
この映画『ジョゼと虎と魚たち』。 公開当時、ミニシアター渋谷シネクイントに
-
-
『ヒックとドラゴン』真の勇気とは?
ウチの2歳の息子も『ひっくとどらぽん』と 怖がりながらも大好きな 米ドリームワークス映画
-
-
『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!』 結束のチーム夫婦も前途多難⁉︎
2016年に人気だった『逃げるは恥だが役に立つ』、通称『逃げ恥』の続編スペシャル版。なんとな
- PREV
- 『槇原敬之』自分ではダメだと思っていても……。
- NEXT
- 『平成狸合戦ぽんぽこ』さよなら人類