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『ブレードランナー2049』 映画への接し方の分岐点

公開日: : 最終更新日:2021/09/04 ドラマ, 映画:ハ行, 音楽

日本のテレビドラマで『結婚できない男』という名作コメディがある。仕事ができてハンサムな建築家が主人公。でも彼はものすごい偏屈。彼の口癖は「僕はね、結婚できないんじゃなくて結婚しないんですよ」まだ生涯未婚率アップとか言われ始めの頃。結婚しない人生の選択肢にもまだまだ不寛容な2000年代のドラマ。

そのドラマの冒頭、主人公がレセプションパーティで若い女性と話してる。映画鑑賞が趣味だとなり、「どんな映画が好きなんですか?」と聞かれる。ふと「ブレードランナーとか?」と答えると、「私、メジャーな映画しか観ないので……」と言われてしまう。「充分メジャーな映画だよ!」と半怒りの主人公。アシスタントが気まずい雰囲気を察して女性にひとこと「オタク映画だから(知らなくて当然)」

その『ブレードランナー』の35年ぶりの続編『ブレードランナー2049』。いち早く本国アメリカの試写会では、批評家の評判はすこぶる良かったらしい。でも公開が始まったら、当初見込んでたほど客入りが芳しくなかった。ビッグバジェットで製作されたから、携わった会社は大赤字。なんでも40代以上のおじさんしか観に来ていないとか。やはりツウ好みのオタク映画なのだろう。それは前作のリアクションとまったく同じ。

『ブレードランナー』は映画史に残る名作といわれるカルトムービー。後に影響を受けた映画の多いのなんの。SF映画では『ブレードランナー』っぽさは、もう手垢まみれに引用され尽くされている。正当な続編が果たして成立するのだろうか? オリジナルが有名過ぎると、『ターミネーター』シリーズのような、パート2以降の作品はすべてスピンオフみたいにもなりかねない。

3時間近くある上映時間に抵抗感は否めない。鑑賞前には水分を摂り過ぎず、トイレも済ませて気合いを入れて劇場へ。実際観てみると確かに長尺ではあるが、「え、もう終わり?」という感想も湧いてくる。前作の答え合わせ的な映画でもあり、新たな謎も生まれてくる。鑑賞後、気心の知れた友人といろいろ語り合いたくなる。初めて前作の『ブレードランナー』を観た10代の頃のように。

映画が終わり、劇場から観客たちが席を立ち始める。観客の9割がたが40歳以上のおじさんだ。自分なんかはまだ若い方かも知れない。一癖も二癖もありそうなおじさんたちがみな、ダンディズムに酔いしれてる。おじさん二人組が、映画の感想を語り合ってる。それはもう子どものようだ。かつて少年だったおじさんたち。とても従順だ。でもそれでいいのだろうか?

前作から35年。時代も変わり、当時子どもだった我々リアルタイム世代もすっかりおじさんになった。世の中は長期にわたる不景気と、戦争の気配がチラついてる。仕事が人生のすべてで、恋人は自分に常に味方のバーチャルキャラ。ブレランのディストピアな世界観は、日本をモデルにしている。街並みだけでなく、そこで生きる人の心も現実のものとなってしまった。この手の映画が、ファンタジーとして楽しめる時代はすっかり終焉した。

日本は世界でもトップクラスで映画館の入場料が高い国。他の国ではもっとも気楽にできる娯楽のひとつである映画鑑賞は、日本では贅沢の極み。仕事や日々の生活に追われ、とても映画なんか観る気になれない。その最たるおじさん層が映画館に足を運ぶ。彼らの映画鑑賞の姿勢は、なんだか80年代にタイムスリップしたよう。

SNSも進化した現代、映画をみて、あーでもないこーでもないと語り合うのは、なんだかレトロな感じがする。35年前よりも現代の方が圧倒的に映画の製作本数が増えている。それらはすぐ価値がなくなり忘れられる。映画も完全なる消費世界の商品となった。そんなものに人生を左右させるパワーなどあるわけがない。

『ブレードランナー2046』は、製作に携わるスタッフすら、オリジナル版が大好きなのが伺える。『ブレードランナー』の続編でありながら、後続するすべての影響を受けた作品たちを総括するような映画だった。

前作のヴァンゲリスを踏襲した音楽や効果音は、さらにノイズ度があがり、耳に刺さってくる。時代がさらに混沌化した象徴か。さらにゴージャスになったビジュアルは、水の光や犬がでてくる。無機質なタルコフスキーといったところか。

ともかくこんなマニアックな作風の映画が、莫大な制作費で作られているリッチ感。その映画を観ておセンチに浸る我々おじさん世代。周りからみたら「いい歳をしてキモっ!」って言われかねない。最近ではあんまりひとつの作品にどっぷりハマって、無防備にフワ~となってしまうと、それが何かの思想に取り込む罠だったりもする。現代社会は映画に浸る余裕さえない。まさにディストピア。

ブレランやブレランぽいものの類のシリーズは、この『ブレードランナー2049』でひとまず一括りにまとまった。これを機に、これからの映画との付き合い方を考え直してみたい。もっとドライに、深入りせずに。もちろんそれなりにガス抜きも必要なんだけど、呑気に映画も観てられない時代のようだ。

しかしせめて映画を観てるときぐらいは、そんな世知辛いストレスは忘れたいものだ。煩わしい現世の記憶を洗い流して。まるで雨の中の涙みたいに。あ、今回は雪の中か。

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