『トロールズ』これって文化的鎖国の始まり?
配信チャンネルの目玉コーナーから、うちの子どもたちが『トロールズ』を選んできた。あれ、これドリームワークス製作? 大手メジャーのハリウッド製アニメだったんだ。まったく知らない作品だった。
ここ数年、日本ではドリームワークス作品は配給会社が付かず劇場公開はされていない。作品が世界公開されてからずっと遅れて、やっと配信やらビデオスルーで静かに公開されている。世界中ではドリームワークス作品はヒットしているのだが、日本ではどうも不人気らしい。名作が多いがゆえにとても残念だ。
アニメ映画『トロールズ』は、近年のミュージカル映画ブームに乗っかって、ドリームワークスもいざ続かんと、本格的な音楽映画になっている。ディズニーもイルミネーションも、アニメに音楽をふんだんに取り入れた映画で大成功している。
数多のファンタジーの要素を盛り込んで、とても道徳的でありながら、とても楽しい。童話やファンタジーからの引用は、ドリームワークスの出世作『シュレック』を彷彿させる。カラフルなトロールズのデザインと、70~80年代ディスコカルチャーは相性がいい。
ハッピーな種族トロール族と、トロールを食べることでしか幸せになれないと信じているベルゲン族との確執は、日頃世の中のトピックとなっている人種や宗教、性差別と重なる。ベルゲンの、外側から施してもらわないと幸せになれないという考えは、物質主義の現代人の象徴。いつもハッピーにみえるトロールだって、酷い困難にいつも遭遇している。トロールがいつもハッピーでいられるのは、メンタルが強いから。おバカさんにみえるくらいでないと、元気に生きていけない。そんな殺伐とした世界観でありながら、悪人以外の登場人物全員がハッピーエンドになる大団円へ向かって、歌って踊りまくる!
使用曲はかつてのアメリカヒット曲のオンパレード。オリジナルの歌詞はそのままで、あたかもこの映画のために書き下ろしたかのような選曲の妙で、登場人物たちの心情を語ってる。全曲ABBAのヒット曲で綴ったミュージカル『マンマ・ミーア』みたいな手法。
クライマックス直前、窮地に追い込まれたトロールたちが、嘆きのあまりにそのカラフルな体の色が消えてしまう。そこでシンディ・ローパーの『トゥルー・カラーズ』を歌いながら励まし合う場面は感動的。
この曲はLGBTのテーマソングとして有名。今でこそやっとLGBTの理解に向けて世の中が進みだしたのに、この曲がヒットした80年代から、もうこのような歌を歌うシンディ・ローパーって、なんて新しかったのだろうと思っていた。でもどうやら後からだんだんとLGBTの応援ソングに育っていったらしい。
ジャスティン・ティンバーレイクが歌う主題歌『キャント・ストップ・ザ・フィーリング!』なんて日本の洋楽メインのFMラジオではよくかかってた。この映画のオリジナル曲なんだと驚いた。映画『トロールズ』は、日本以外ではものすごくメジャーな映画なのだろう。
そういえば最近の洋楽FMラジオ局は、かかってる曲の半分はJポップ。洋楽チャンネルを選んで聴いてるリスナーは、純粋に洋楽が聴きたいはず。日本の企業間の都合で邦楽率が上がってしまっているのだろうが、どこのチャンネルでも同じような日本の曲ばかり。無個性でとてもつまらない。今までラジオって一日中同じ局をかけたままだったけど、最近ではザッピングするようになってしまった。洋楽が聴きたいリスナーは、ラジオ難民になりそう。
しかしこれだけエンターテイメント性の高い映画が、日本ではほとんど宣伝されず、知る人ぞ知るマニアックな作品になっているのが嘆かわしい。
ドリームワークスの映画が日本での劇場公開がなくなった今、いちばん懸念されるのは、今後海外作品が日本では輸入されにくくなるのではないかということ。日本人なんだから国産の作品だけ観てればいいんだ、みたいな乱暴な流れ。
かつて日本も世界のカルチャーに強い国だった。ニューヨーク、パリ、トーキョーへ行けば、とりあえず世界のメインストリームはつかめる印象だった。でもそれは20年くらい前の話。2017年の今では、日本カルチャーは独自のガラパゴス街道まっしぐらな感じがする。どこをみても同じようなものしかない。日本の映画のヒットチャートも名を連ねるのは日本製の似たような作品ばかり。日本人はみな、洋画も観なくなった。世界のヒットチャートに登る作品群とは乖離している。
日本カルチャーがどんどん閉鎖的になって、文化的鎖国の道を辿ってしまうのでは?と一抹の不安がよぎってしまう。
でも、どんなに宣伝されていなくとも、子どもたちの感性は、良いものを見つけ出せるのだなというのには感心してしまった。
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