*

『今日から俺は‼︎』子どもっぽい正統派

公開日: : 最終更新日:2020/03/28 ドラマ, 映画:カ行, , 音楽

テレビドラマ『今日から俺は‼︎』が面白かった。

最近自分はすっかり日本のエンターテイメント作品を観ることが少なくなった。同じような作品ばかりになってしまっているのもそうだが、製作者側にモラルの意識が低くなっているように感じてならない。儲かるなら何をしてもいいのだという開き直り。

自分が日本作品を選ぶ基準は、この作品が世界標準に通用するかどうかだ。だから日本の大手企業が出資する国内完結型の作品には自然と興味がなくなる。ましてやスポンサーの顔色ばかり伺っている民放のテレビドラマを観る機会はほとんどない。

自分は映像業界に進みたくて、門扉を叩きに行ったり、養成学校に通ったりもした若かりし日の経験があるのだけれど、最近はすっかり日本の作品がわからなくなってしまった。これが老いというものか。そうなら、まあそれも悪くない。

そんな自分がテレビドラマの『今日から俺は‼︎』を毎週テレビの前でゲラゲラ笑って観ていた。そもそもこの作品の脚本演出をしている福田雄一監督の前作『スーパーサラリーマン左江内氏』が好きだったので、同じようなキャスティングの『今日から俺は‼︎』は、観ないわけにはいかない。自分は『今日から俺は‼︎』が、80年代に流行ったマンガだということすら知らなかった。いくらマンガ原作ブームとないえ、なぜ今『今日俺』なのだろう?

1話は見逃していたので、2話のオンエアから鑑賞開始。80年代流行った熱血不良学園ラグビードラマ『スクールウォーズ』のパロディから始まる。『金八先生』を模したロン毛のムロツヨシさんがキモ笑える。そこで『今日から俺は‼︎』の主人公二人が登場して、「ラグビーなんてぜってえやらねー」と言い放つ。おっとー、政治的発言ですかー。そんな冒頭のツカミだけで、すっかり作品が好きになってしまった。

そもそも80年代の教師モノのドラマについては、いろいろツッコミどころ満載だ。真剣に検証し直さなければならないジャンルだと思う。教職関係の友人も、「ドラマの先生が、実際の教師の仕事と勘違いされたらたまらない。昼夜休日を問わず、生徒の家庭にまで首をつっこむ。あんな働き方したら死んじゃうよ」って言ってた。ドラマの教師像が、実際の先生の仕事に求められるのがそもそもおかしい。あちらはフィクション。スーパーヒーローモノと同じようなもの。ちょっと考えればわかる。

子どもを預ける親としては、ちゃんと休養をとって、心身ともにプライベートも万全な先生たちに子どもたちと接してもらいたい。おもしろおかしくするために、センセーショナルに煽られたドラマの先生像は、そろそろ払拭していかないと。

『今日から俺は‼︎』は、日曜の夜10時半から放送が始まる。深夜番組だ。でも、バカバカしいコメディのこのドラマ、子どもたちが食いつかないわけがない。ウチの子たちもすぐさまこのドラマを自分と観はじめた。もちろん録画で。「こんなの観てるなんて、他所ではナイショだよ」と、一言付け足さなければならない。そしたら小学校で、主題歌の『男の勲章』を歌って踊ってる子がいっぱいいたらしい。これはもしや、社会現象?

ケンカばかりしているツッパリの暴力描写や、風俗なんかも出てくるから、親としては小学生の子たちに説明しづらい場面も多い。そもそもオンエア時間から、大人対象につくっているんだけど、まさかこんなに小学生の心をガッチリキャッチしちゃうとは、制作者たちもさぞかし意外だったろう。

福田雄一監督作は、バカバカしくて面白い。でもきちんとウェルメイドのセオリーは押さえてる。確信犯でおちゃらけてる。本格的な作品作りの基礎は重々承知でおバカなフリしてる。このコメディ感覚を表層だけマネしても、ただただくだらない作品になってしまうだけだろう。福田監督の作品作りの基礎は盤石だ。

福田雄一監督作品と同じように、宮藤官九郎さんの作品も、バカバカしいけど基本は押さえてる。ふざけるのも覚悟が必要。福田監督の勉強家だけど、ひじょうに子どもっぽい人柄が見え隠れする。だけどやっぱり普段難しめの文学作品に触れている人たちからすると、これらの作品は子どもっぽ過ぎて、なかなか入り込めないらしい。

なんでも福田監督の最強のブレーンは、彼の奥様だとか。『スーパーサラリーマン左江内氏』は恐妻家だが、そのエピソードの数々は、福田監督自身の日常がモデルらしい。出来上がったばかりの脚本の一番最初の観客であり検閲が、福田監督の奥さん。「こんなつまらない脚本じゃあ、演じる役者が可愛そうだ!」と、作者の目の前で出来上がったばかりの脚本をビリビリにやぶったこともあったとかなかったとか。

福田監督はテレビドラマの1話分の脚本は、1日で書き上げてしまうらしい。自分も物書きの真似事をしたことがあるので、これがめちゃくちゃ早い仕事っぷりなのはよくわかる。でも書き始めるまでが時間がかかるらしい。頭の中で内容が整理整頓されるまでは、筆を進めないのだろう。作家はある意味、毎日24時間ずっと仕事のことを考えていなければならない。作業効率を常に考えていなければ、仕事に押し潰されてしまう。ヒットメーカーは、大抵仕事が出来る人だ。

福田作品には、今人気のアイドルやタレントも多数出演する。でも萌え的な扱いがまったくされない。むしろ役柄は、イヤなヤツだったり、変顔したりと、萌えとは真逆だったりする。そこがいい。むしろ、少し汚い部分を見せられた方が、その人の魅力が引き立つものだ。他の作品で苦手だった役者さんが、『今日俺』観てからは大好きになってしまうなんてこともあった。役者さんの作品選びって大事だ。

たしかに萌えビジネスに大枚つぎ込むオタクはいる。目先の金目なら、アイドルや萌えアニメの方が確実に儲けの予想がたつ。でも一般の大多数の人は、女性蔑視のポルノまがいの萌えなんか見たくない。テレビドラマを観るメインの客層は女性。大衆に訴えかけるには、萌え要素は排除した方が賢い。

よくコンビニに、アイドルや萌えアニメの暖簾がかかっている。それはそれで、グッズが欲しい客は集まってくるだろう。でも、いつも立ち寄る一般客が、その暖簾のせいで逃げてしまっているのも事実。果たしてどちらの目線で商売するのがいいのだろうか。マーケティングは難しい。

『今日から俺は‼︎』は、深夜枠の放送時間に反して、小学生のファンが増えてしまった。「ツッパリカッコいい! 大きくなったらツッパリになりたい‼︎」なんて、子どもが言いだしたりする家もあるらしい。それに対して番組からは「暴力を振るうのがツッパリじゃなく、理不尽な暴力から仲間を守るのが真のツッパリ。番組を観てたみんなならわかるよね?」みたいなアナウンスがあった。でも……、う〜ん、やっぱりムリがある。そもそも番組自体深夜枠で大人対象につくってるからな〜。大の大人が、子どもっぽいものを作ることの弊害か。

ここで大事なのは、親がきちんと子どもたちにアドバイスすること。ツッパリや不良はちっとも良いことじゃないよと。

70年代にはヤクザ映画ブームがあり、80年代にはツッパリブームがあった。あるジャンルに偏るときは、作り手も観る側も思考が停止していることの表れ。またツッパリブームなんか来たら、ちとキツイ。そもそも今更80年代に流行ったマンガ『今日から俺は‼︎』をドラマ化することが、ツッパリブームを茶化しているからなのに。本気で当時の世界観にハマってしまったら、とてもダサい。

なにかを観て、おもしろおかしく笑うのは良いことだ。時には現実逃避も必要だ。だからこそエンターテイメントとの適切な距離感が問われる。まさにそれこそ自己責任。作品を観て元気になって明日も自分の人生を頑張るか、作品世界にどんどん逃げ込むか? それが「生きるためのセンス」というものだろう。その効用は、数年後かけてその人の人生そのものに表れてくる。ある意味残酷で恐ろしい。

関連記事

no image

『メアリと魔女の花』制御できない力なんていらない

スタジオジブリのスタッフが独立して立ち上げたスタジオポノックの第一弾作品『メアリと魔女の花』。先に鑑

記事を読む

『パリ、テキサス』 ダメなときはダメなとき

ヴィム・ヴェンダースの1984年の映画『パリ、テキサス』を観た。この映画を観るのは数十年ぶり

記事を読む

no image

『Perfume』最初から世界を目指さないと!!

  アイドルテクノユニット『Perfume』の パフォーマンスが、どんどんカッコ良

記事を読む

『LAMB ラム』 愛情ってなんだ?

なんとも不穏な映画。アイスランドの映画の日本配給も珍しい。とにかくポスタービジュアルが奇妙。

記事を読む

『勝手にふるえてろ』平成最後の腐女子のすゝめ

自分はすっかり今の日本映画を観なくなってしまった。べつに洋画でなければ映画ではないとスカして

記事を読む

『ドラゴンボール』 元気玉の行方

実は自分は最近まで『ドラゴンボール』をちゃんと観たことがなかった。 鳥山明さんの前作『

記事を読む

no image

『フラガール』生きるための仕事

  史実に基づいた作品。町おこしのために常磐ハワイアンセンターを設立せんとする側、新

記事を読む

no image

『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』妄想を現実にする夢

  映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、女性向け官能映画として話題になった

記事を読む

no image

『NHKニッポン戦後サブカルチャー史』90年代以降から日本文化は鎖国ガラパゴス化しはじめた!!

  NHKで放送していた 『ニッポン戦後サブカルチャー史』の書籍版。 テレビ

記事を読む

no image

ホントは怖い『墓場鬼太郎』

  2010年のNHK朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で 水木しげる氏の世界観も

記事を読む

『コンクリート・ユートピア』 慈愛は世界を救えるか?

IUの曲『Love wins all』のミュージック・ビデオを

『ダンジョン飯』 健康第一で虚構の彼方へ

『ダンジョン飯』というタイトルはインパクトがありすぎた。『ダン

『マッドマックス フュリオサ』 深入りしない関係

自分は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大好きだ。『マッ

『ゴジラ-1.0』 人生はモヤりと共に

ゴジラシリーズの最新作『ゴジラ-1.0』が公開されるとともに、

『かがみの孤城』 自分の世界から離れたら見えるもの

自分は原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』が好きだ。児童文学を原

→もっと見る

PAGE TOP ↑