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『ホームレス ニューヨークと寝た男』華やかさのまやかし

公開日: : 最終更新日:2020/03/28 映画:ハ行, 映画館, 音楽

ドキュメンタリー映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』。映画公開時もとても気になっていた。確か単館劇場公開だったような。日本のウイキペディアには、この映画のページすらない。

年末にNHKで、この映画の再編集版が放送されていた。これはちゃんと観なければいけないと思ってレンタルした。この映画をレンタルしているショップも少なかった。まあそれくらい珍しい作品。でも、これこそが現代の「オシャレ」そのものを描き出している。

ニューヨークでフリーランスのファッション・フォトグラファーをしているマーク・レイ。50代の中年だが長身でハンサム。高級スーツを身にまとい、カメラを片手にファンションショーを駆け回る。誰もが彼のルックスで、一流カメラマンでセレブリティであることを疑わない。街で気軽に「あなたの写真撮らせてよ」なんて声かけてる。声をかけられた女性だって、そんなナイスミドルだったら満更でもない。そんな華やかな業界を渡り歩くマーク・レイはホームレス。こんなにカッコいいのになぜ? とてもショックを受ける。ウソみたいなホントの話。

華やかな日常業務を、朝早くから深夜までこなすマーク・レイ。一日の仕事にヘトヘトになって帰る場所は、ニューヨークにあるアパートメントの一室かと思いきや、その屋上。階上へ向かう途中に、そのビルの住人に顔を合わせまいと、足音に耳をそばたて、時には階段を登ることを断念する。彼の寝床はビルの屋上から回った非常階段。そこで防水シートにくるまって眠る。

夜遅くまで仕事をするのは、その寝床へ帰るのが緊張するから。不法滞在の犯罪行為。見つかれば逮捕。ニューヨークという洗練された都会でのサバイバル生活。毎日を忙しく過ごして、疲れ切って何も考えずに寝てしまうに限る。まさに崖っぷち。

ホームレスというと、不潔で落ちぶれたイメージがつきものだが、マーク・レイの場合は全くその逆。イケメンのルックスは天性のものだが、身なりも綺麗だし、高級なものを身につけている。どんなに貧しくてもジム通いと、質の良い食事にはかなりの予算を立てている。日頃の健康管理は、通常生活をしている同年代の中年よりも慎重だ。

男なら誰もが羨むルックスと、華やかな職業。その裏では、どうしようもないくらいの惨めな生活。こうなるには家庭環境やら精神疾患やら、たくさんの要素があるかもしれない。彼の有り余るバイタリティが、逆に迷わせ、身の丈に合わない人生を選んでしまったのかも。

自分はかつて映画業界に憧れて、養成学校に通ったり、制作スタジオのドアをノックしたり、自主制作作品をコンペに出したりしていた。それでいつも壁にぶつかるのは、ここで道をつけていっても、食っていける収入が得らないということ。成功すれば良いと言われるが、それではギャンブルが過ぎる。他の方法はないかと模索するが、どうもこの業界では「好きなことを仕事にできているのだから、携われているだけで幸せだろ」と足元を見られてしまう。

所詮華やかな芸能界というものは、富裕層のお遊びの場でしかないのだろう。芸能人になる人も、金持ちの出身の人と、一攫千金を狙って成り上がろうとしている人とでは待遇が全く違う。

俳優オーディションなんかがいい例。レッスンにはお金がかかる。やる気や才能が必要なのはもちろんだが、高額な日々のレッスン費が払えるかどうかが要。プロダクションからしてみれば、レッスン費を収めてくれる生徒さんは、所属俳優でもあるが、貴重なお得様でもある。そのお得様への特典として、作品のオーディションなどを紹介してもらえるのだと考えておいた方がいい。レッスンだって、習い事の一つ。だから芸能界への道などは、余裕の習い事で始めるのがベスト。前のめりに入れ込み過ぎないに越したことない。

ニューヨークがアメリカのメディアの中心地なら、今の日本では六本木がそれに当てはまる。自分はアメリカに住んでいないから、アメリカ人にとってニューヨークの感じ方がどんなものなのか空気感がわからない。でも自分が六本木に対するイメージは決して良いものではない。仕事で出向く事はあるが、率先して行きたい場所ではない。

美術館も多いから、時々興味深い題目があったりするが、六本木界隈の美術館はとにかく入場料が高い! それに人気の題目になると長蛇の列。人混みに揉まれながら美術館に行くなんておかしな話だ。アートとは静かな場所で対峙したい。自分にとっては「それ六本木でやるんだ? だったら行かない」となる。

華やかに祭り上げられる場所は、大抵メディアによる印象操作が強い。ただそこで情報発信している業者が多かっただけかも知れない。そもそもそこに昔からあって、業者間やアーティスト間でやりとりがあっただけのこと。仕事がしやすいから同業者が集まった。いつもそこで仕事してた人からしてみれば、なぜ今更の話だろう。

ファッションの中心地と言えども蓋を開ければ日常的。昔から有名な場所で事務所を構えているおじいちゃんおばあちゃんのデザイナーさんの仕事場へ行けば、なんとも地味で驚かされる。本人たちもいたって自分がオシャレ製造人なんて意識はない。昔からいた場所で、好きなこと選びながら生業にしていたら、こうなっただけみたいだ。

オフィスがめちゃめちゃオシャレだったり、レセプションやイベントも度々企画して、芸能人やら著名人がゲストに招いてる企業も多い。確かに儲かっているのかもしれない。でも、内情はわからない。

毎晩深更まで残業なのは当たり前で、週2〜3回は泊まり込みなんてのも常態化。休日出勤は慣れっこ。プライベートを持つなんて、やる気がないと判断される。そんな働き方をしている人たちは、何か会社に弱みでも握られているのかしら? 奴隷みたいな働き方をさせられていても、みんないたって自分の仕事に誇りを持っている。オシャレに触れられる満足感で、納得してしまっている。そうは言っても鬱っぽい人が多い。人生観は様々。

ファッショナブルな場所は、そもそも富裕層のためのもの。それ以外のよそ者が、あとから憧れてやって来ても、足元を見られて搾取されるだけ。世の中まやかしばかりでできている。

生きるために必要なものはそれほど多くない。虚栄などもってのほか。自分もここ数年で物欲がなくなった。子どもを持ったことと、311の震災がきっかけ。好きで集めていた映画のコレクションも、DVDからブルーレイやら4K8Kと、こうもしょっちゅうフォーマットが変わるなら、集めていても仕方がない。自分が死んだ後、ゴミにしかならない。どうしてもミニマリストに傾倒してしまう。ミニマリストは守銭奴だけどトンがってる。

マーク・レイは自分を良く見せるために、選び抜いた良質なものを身につけている。究極のミニマリスト。彼は家庭を持つことや家を持つことよりも、華やかな仕事を選んだ。でもなんだか反面教師には見えない。悲しいのは、それだけのバイタリティを持った人なのに、自分に自信がないということ。

オーストリア人のこの映画の監督トーマス・ヴィルテンゾーンは、マーク・レイとはモデル時代の同僚だった。音楽担当のカイル・イーストウッドは、クリント・イーストウッドの息子で、これまたナイスミドル。

この三人が揃っていると、華やか過ぎて、まさかホームレスのドキュメンタリーを撮影してるなんて誰も思わない。これもまたまやかし。

オシャレにはお金がかかる。お金がなければ搾取されるだけ。どうやら本当の幸せはそこにはなさそうだ。オシャレだからと言ってオシャレとは限らない。どんなにオシャレでも、人間らしい暮らしができないのなら、ダサいと言いきる勇気も必要だ。オシャレとダサさは紙一重。

マーク・レイも、こんな暮らしを辞めたいからこそ、この映画の製作に携わったのだろう。

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