*

夢は必ず叶う!!『THE WINDS OF GOD』

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:ア行,

 

俳優の今井雅之さんが5月28日に亡くなりました。

ご自身の作演出主演のライフワークでもある『THE WINDS OF GOD』の日本講演中ということで、闘病のため降板会見のすっかり痩せて人相が変わってしまった彼の姿に、日本中が衝撃を受けました。末期がんということで、ご自身の死を悟った上での会見でした。千秋楽が今日、5月31日の沖縄公演だったらしいので、この日まではなんとか見届けたいと思っていたことでしょう。ご本人の心中を察すると、さぞ無念だったと思います。でも視点を変えれば、大好きな仕事をしながら殉じていけるのは、ある意味幸せな最期なのかもしれません。

『THE WINDS OF GOD』は現代のお笑い芸人がタイムスリップして、神風特攻隊として生きていくことになる話です。今井さんは役者になる前は自衛官だったとのことで、その経験がこの物語のベースに流れているのでしょう。この作品は海外でも評価され、英語版で公演したり、映画化もされたりと、ずっと長い間愛された作品です。きっと海外では神風特攻隊の存在を多くの人にひろめたでしょう。後に類似作がたくさん作られたのも、かなりインパクトがあった作品だったのでしょう。

今井さんは神風特攻隊を武士道に重ねた発言もしたりしていたので、保守的な方なのかと思っておりました。でもはっきりと本人が「戦争反対」と言っておりました。そこから思想的に戦争という題材を選んでいる訳ではないのがわかります。今国会で問われている、日本が戦争のできる国にしようとする話し合いには、さぞかし今井さんも憂いていたことでしょう。今回の講演の千秋楽の地に沖縄を選んでいることにも「反戦」という大きなテーマ性を感じます。本編のテーマは「生きろ」そのもの。その題材むなしく、ご本人が亡くなってしまった訳ですが、今井さんが身を以て我々にみせた姿というものは、大変意義深いものだったと思います。

己の死が近いことを知りながら、公の場に姿を現す勇気は尊敬に値します。そして死を覚悟しているからこそ、残りの寿命を「生きる」姿をあからさまにしてくれたこと。ともすると生ける屍のようになってしっている現代人に、警笛を鳴らしてくれているような行動でした。

病でやせ細った俳優・今井雅之の表情は知的で、今までの無骨な体育会系のアニキのようないでたちとは違っていました。降板発表の時の彼の姿からは、深い知性を感じます。晩年の姿の方が自分はとても好きです。

人は死ぬ覚悟を決めたとき、初めて生きることができるのかもしれません。「夢は必ず叶う」と今井さんは生前後輩達に語っていたそうです。自分の作品が日本国内だけではなく世界にも認められたということ。アツい男がアツく夢を語っていたのだと想像できます。それに今回こそは夢半ばで亡くなってしまったように一見感じますが、この壮絶な死に様を晒して下さったことによって、多くの人に「生きる」意味を感じさせてくれたのだと思います。今井雅之さんは亡くなってしまったけれど、彼の作品や彼の最期の行動は、伝説として語り継がれることでしょう。そうなるとその魂は永遠になる。彼の夢は彼の死後も生き続けるのです。

今井雅之さんのご冥福を心よりお祈り致します。そしてお疲れさまでした。

関連記事

no image

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』虐待がつくりだす歪んだ社会

ウチの子どもたちも大好きな『ハリー・ポッター』シリーズ。こわいこわいと言いながらも、「エクスペクト・

記事を読む

no image

『高い城の男』占いは当たらない?

  映画『ブレードランナー』の原作者フィリップ・K・ディックの代表作『高い城の男』。

記事を読む

no image

『王と鳥』パクリじゃなくてインスパイア

  先日テレビで放送された 『ルパン三世・カリオストロの城』(以下『カリ城』)、

記事を読む

『DUNE デューン 砂の惑星』 時流を超えたオシャレなオタク映画

コロナ禍で何度も公開延期になっていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF超大作『DUNE』がやっと

記事を読む

『鬼滅の刃 遊郭編』 テレビの未来

2021年の初め、テレビアニメの『鬼滅の刃』の新作の放送が発表された。我が家では家族みんなで

記事を読む

『藤子・F・不二雄ミュージアム』 仕事の奴隷になること

先日、『藤子・F・不二雄ミュージアム』へ子どもたちと一緒に行った。子どもの誕生日記念の我が家

記事を読む

no image

『オデッセイ』 ラフ & タフ。己が動けば世界も動く⁉︎

2016年も押し詰まってきた。今年は世界で予想外のビックリがたくさんあった。イギリスのEU離脱や、ア

記事を読む

『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!』 結束のチーム夫婦も前途多難⁉︎

2016年に人気だった『逃げるは恥だが役に立つ』、通称『逃げ恥』の続編スペシャル版。なんとな

記事を読む

『おおかみこどもの雨と雪』 人生に向き合うきっかけ

『リア充』って良い言葉ではないと思います。 『おおかみこどもの雨と雪』が テレビ放映

記事を読む

no image

夢物語じゃないリサーチ力『マイノリティ・リポート』

  未来描写でディストピアとも ユートピアともとれる不思議な映画、 スピルバーグ

記事を読む

『アン・シャーリー』 相手の話を聴けるようになると

『赤毛のアン』がアニメ化リブートが始まった。今度は『アン・シャ

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

→もっと見る

PAGE TOP ↑