*

『めぐり逢えたら』男脳女脳ってあるの?

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 映画:マ行, 音楽

 

1993年のアメリカ映画『めぐり逢えたら』。実は自分は今まで観たことがなかった。うちの奥さんのフェイバリット・ムービーで、よく日常の話題に出てきてはいた。これなら子どもも観れるし、親子の話だしとのことで、自分も観てみることにした。親子の話? なんだか自分が抱いていたイメージと違う。

この『めぐり逢えたら』の公開当時、日本ではドリカムの曲にのせて派手に宣伝していた。80年代からの甘ったるいフワフワした軽い印象を受けて、自分には関係のない映画なんだと思い込んでいた。うちの奥さんは、そんなドリカムとのタイアップなどまったく知らなかったらしい。おかしな先入観がなかったわけだ。とはいえなぜか自分は、同じ監督&キャストで製作された『ユー・ガット・メール』は観ていた。

『めぐり逢えたら』は、当時盛り上がっていたシアトルを舞台にしたラブコメ。あの頃のシアトルといえば、スターバックスやらグランジやら、なんだかオシャレな文化が「キテル」感じがしていた。その反面、自殺者のもっとも多い都市としても有名。ずっと雨が降っているような気候もそうさせているのだろう。映画の原題は『Sleepless in Seattle』。「シアトルの不眠症」というタイトルが、心の病とオシャレは紙一重なのを伝えている。

妻を亡くしたトム・ハンクス演じるサムは、喪失感から鬱状態になっている。それをみかねた小学生の息子ジョナが、ラジオの人生相談番組に電話してしまう。思いがけずラジオ出演してしまったサム。亡くなった妻への想いを語ってしまったところ、大反響。そのラジオを聴いていたメグ・ライアン演じるライターのアニーは、サムに興味を持ち、取材を理由に彼にコンタクトを取ろうとする。果たしてサムとアニーはめぐり逢えるのか?

映画を観ているときはあまり感じないが、作品はかなりファンタジック。サムの身辺調査してるアニーは、ただのストーカーにも見える。アニーが亡くなったサムの奥さんの面影があるにせよ、ひと目でサム&ジョナ親子が一目惚れするのも、現実ならあり得ない。トム・ハンクスとメグ・ライアンだからこそできるワザ。良い人そうなふたりだからこそ、幸せになって欲しいと、まんまと観客がだまされちゃう。

軽い作品を予想していたら、あまりに切ない話だったので面食らった。クラシカルなポップスをサントラに使ったり、ファッションがかわいかったり、とにかくセンスがいい。ウッディ・アレンの映画に影響を受けているのだろう。喪失と再生。悲しい話なのに、鑑賞後はいい気分になる。客層を若い女子だけに絞った宣伝は、果たしてよかったのか?

そういえば映画学生だったとき、学友が好きな映画に『恋人たちの予感』をあげていた。『めぐり逢えたら』の脚本監督のノーラ・エフロンが脚本を手がけた作品。その作品についてアツく語る学友。男なのにラブコメが好きなんて変わってるなと、冷めた目でその話を聞いていた。

ノーラ・エフロンの描く世界は、とても女性的。女子的センスが映画の端々からにじみでている。残念ながら彼女はすでに亡くなっていた。普通に恋愛や結婚することが難しくなっている現代。ノーラ・エフロンが存命だったらどんな映画を作っただろう? 『めぐり逢えたら』の劇中でも、「結婚に向いてない時代」と当時から言っている。あれから20年以上経った現代は、ラブコメのネタの宝庫の時代なのではないだろうか。

劇中で女の好む話題と、男の好きな話題のギャップで笑う場面がある。女たちが恋愛映画を目頭を潤ませながら語っていると、男たちがシラーっと聞いている。かたや感動的な映画とはこれだと、男たちが戦争映画の名場面を涙ながらに語り出すと、女たちの目は死んでいる。

男脳と女脳というのが流行った時がある。女脳の左脳と右脳を繋ぐパイプが、男脳より二倍太いらしく、左右の交換情報が優れ、女のほうが男より頭がいいという考え方。確かに男より女の方が、日常生活でもいろいろ考えているように感じるし、記憶力も高いように思える。

しかしこれは科学的にはなんの根拠もないらしい。女だからといて必ずしも皆利口ということもないだろうし、男だからといって自分はバカだと卑下する必要もない。

男脳女脳というのは、雑誌の最後のページに載っている占いコーナーみたいな遊びの感覚で盛り上がって、一人歩きしてしまったらしい。男脳女脳を気にすることはナンセンスとのこと。

とはいえ赤ちゃんでさえ男の子と女の子の趣味嗜好はハッキリしている。男の子は車や電車、重機が好きで、女の子はかわいいものやきれいなものが好き。幼稚園くらいになると男の子は棒を見ると興奮して振り回す。女の子は袋が好き。やっぱり個性が分かれてる。

科学では未だ解明されていない脳の神秘。男女お互い相容れないところもあれば、それだからこそ尊重し合えるものもある。男女のボーダーラインもひとつのこだわり。男だからとか女だからとかの話は旧時代的だけど、個性は個性としてある。

男女の好きな映画のタイプの違いがあっても、分かり合えないこともない。案外趣味が合う人よりも、境遇が近い者同士の方が安心したりする。

『めぐり逢えたら』はそんな男女の趣味の違いに触れつつも、分かり合える不思議を描いてる。でもやっぱりこれは女性監督ならではの視点だと思う。

関連記事

no image

『今日から俺は‼︎』子どもっぽい正統派

テレビドラマ『今日から俺は‼︎』が面白かった。 最近自分はすっかり日本のエンターテイメント作品

記事を読む

no image

『フラガール』生きるための仕事

  史実に基づいた作品。町おこしのために常磐ハワイアンセンターを設立せんとする側、新

記事を読む

no image

『DENKI GROOVE THE MOVIE?』トンガリ続けて四半世紀

  オフィス勤めしていた頃。PCに向かっている自分の周辺視野に、なにかイヤなものが入

記事を読む

no image

『ブレードランナー2049』映画への接し方の分岐点

日本のテレビドラマで『結婚できない男』という名作コメディがある。仕事ができてハンサムな建築家が主人公

記事を読む

no image

『METAFIVE』アンドロイド化する東京人

  自分は音楽ではテクノが好き。整理整頓された無機質な音にテンションがあがる。ロック

記事を読む

no image

『汚れた血』カノジョをキレイに撮る。それだけで映画になる。

  『あの人は今?』的存在になってしまったレオス・カラックス監督。2年前に新作『ホーリー・モー

記事を読む

no image

『美女と野獣』古きオリジナルへのリスペクトと、新たなLGBT共生社会へのエール

ディズニーアニメ版『美女と野獣』が公開されたのは1991年。今や泣く子も黙る印象のディズニーなので信

記事を読む

no image

『未来のミライ』真の主役は建物の不思議アニメ

日本のアニメは内省的で重い。「このアニメに人生を救われた」と語る若者が多いのは、いかに世の中が生きず

記事を読む

no image

『Mr.インクレディブル』好きな仕事に就くこと

  今年続編が公開される予定のピクサー2004年の映画『Mr.インクレディブル』。も

記事を読む

no image

『あの頃ペニー・レインと』実は女性の方がおっかけにハマりやすい

  名匠キャメロン・クロウ監督の『あの頃ペニー・レインと』。この映画は監督自身が15

記事を読む

no image
『日本のいちばん長い日(1967年)』ミイラ取りがミイラにならない大器

1967年に公開された映画『日本のいちばん長い日』。原作はノンフィクシ

no image
『SHOAH ショア』ホローコースト、それは証言か虚言か?

ホロコーストを調べている身内から借りたクロード・ランズマンのブルーレイ

no image
『ひろしま』いい意味でもう観たくないと思わせるトラウマ映画

ETV特集で『ひろしま』という映画を取り扱っていた。広島の原爆投下から

no image
『愛の渦』ガマンしっぱなしの日本人に

乱交パーティの風俗店での一夜を描いた『愛の渦』。センセーショナルな内容

no image
『八甲田山』ブラック上司から逃げるには

今年になって日本映画『八甲田山』のリマスター・ブルーレイが発売されたら

→もっと見る

PAGE TOP ↑