『ワンダーウーマン1984』 あの時代を知っている
ガル・ガドット主演、パティ・ジェンキンス監督のコンビでシリーズ第2作目になる『ワンダーウーマン1984』。作品の舞台になる年号を、タイトルの最後につけるのは最近の流行り。タイトルあとの数字が、シリーズ何作目にあたるとは限らない。さすがに『ワンダーウーマン2』から『ワンダーウーマン1983』まで観ていないけど、いきなり『ワンダーウーマン1984』から観ても大丈夫でしょうか?とボケる必要もなくなった。
『ワンダーウーマン1984』も、このコロナ禍で公開延期を何回も経ている。制作本国アメリカでは、本作は配信メインで劇場公開には力を入れなかった。日本では2020年の12月に劇場公開だった。
世界中でコロナの被害が蔓延している頃、日本ではそれほど影響も受けず、みんな自粛生活に協力的。それこそ不要不急の外出を控えていた。映画館へ行くなども夢のまた夢。そんな中、10月には『鬼滅の刃』の劇場版が大ヒット。続いて洋画ファンには久々の大作『テネット』も公開された。その次は『ワンダーウーマン』の続編が待ち構えている。この映画も劇場で観たいと楽しみにしていた。
ちょうどその頃、政府のGO TOキャンペーンで国内観光が盛んになり、すぐさまコロナの波が再度日本中に吹き荒れた。さすがに映画館へ行くのも気が引けて、世の中の様子を伺っていたら、いつの間にか劇場公開が終わってしまった。映画の世界よりも、現実の方が充分ディストピアっぽい。
ディストピアといえば、1984という数字を聞くと、多くの人がジョージ・オーウェルの小説『1984年』を思い出す。全体主義が横行して、管理社会のもとで人々が生活するとどうなるかをこの小説は描いている。現実社会でも、国民が政治に関心がないままでいくと、こんな社会になってしまう。1949年に書かれた近未来の予想図は、いままさに世界で現実になりかねない。『1984年』に触発されて作られた映画は、『未来世紀ブラジル』や、『時計じかけのオレンジ』など名作揃い。『ワンダーウーマン1984』が制作されたころは、アメリカはトランプ政権真っ只中。映画も政治的な意味合いがあるのかと思わせてしまう。
1984というスリリングなキーワードを使って、ディストピアとワンダーウーマンの戦いを予想させる。それは確信犯的なミスリード狙ってる。1980年代ののハリウッド映画は、ブロックバスター・ムービーで世界中に人気があった。『ワンダーウーマン1984』は、その時代に対するオマージュでいっぱいだ。
あの頃は、ハリウッドのアクション映画が全盛期。スティーブン・スピルバーグの映画など、年齢性別問わずに誰もが楽しめるエンターテイメント映画が世界中で大ヒットした。この影響もあってか、映画産業が栄えて、映画制作の量産化が進んだ。結果、作品制作にたいする志よりも、商魂の方に業界意識が高まってしまったのも否めない。
CGが映画表現の主流になっている現在。『ワンダーウーマン1984』も、さぞかしデジタル技術を駆使した映像づくりをしているのだろうと思っていた。メイキングを観るとちょっと様子が違う。パティ・ジェンキンスの演出は、極力CGは使わずに、アナログな肉弾戦のような製作現場を構築していた。
脚本づくりも80年代の雰囲気を醸し出している。最近のエンターテイメント映画は、情報過多なくらいが普通になっている。物語の展開が早い分だけ、登場人物の性格や人間性には切り込まなくなっている。その傾向に反してか、この『ワンダーウーマン1984』の人物描写は、ゆっくりすぎるくらい丁寧。逆に新鮮。
悪役にだって、悪人になるまでの事情や過程がある。ただ勧善懲悪に悪役を退治すればいいという、安直なパターンをこの映画は避けている。劇中で人が死ぬ描写がほとんどないのも意図的だ。
思えば80年代の映画は、やたらと人が死ぬ描写が多かった。主人公以外のストーリー上での「その他大勢」の群衆の命の重さは、エンターテイメント表現の中ではものすごく軽かった。なんでもアメリカでは、コロンバイン高校銃乱射事件以降、「その他大勢」が殺されていくような描写に自粛がかかってきたらしい。自分の人生と直接関係のない「その他大勢」の人々に思いを向けていく想像力は、多様性社会の現代には重要。
1980年代の雰囲気を再現を試みている『ワンダーウーマン1984』。あたかもあの頃制作された映画を観ているような錯覚にも陥る。しかも現代的なピースフルな解決法を、映画全体が目指している。古いタッチだけど、新しい。
でもちょっと気になったのは、1984年の東京が描写された場面。渋谷の駅前にはTSUTAYAのビルがすでにあった。あの頃あそこには、あのビルはまだ無かったと思うんだけど……。なにせあの時代は自分もリアルタイムで知っているもので。
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