*

『逃げるは恥だが役に立つ』 シアワセはめんどくさい?

公開日: : 最終更新日:2021/05/28 ドラマ, , 音楽

「恋愛なんてめんどくさい」とは、最近よく聞く言葉。

日本は少子化が進むだけでなく、生涯未婚率も年々上がる一方。独身者で恋人がいない人も増えている。果たしてみんな、本心から恋愛なんてめんどくさいと思ってるのかしら?

確かに自分も独身時代は、恋愛なんてめんどくさいと思っていた。あちこちで恋バナを聞くたび、めんどいな〜自分も早いとこ結婚して、このラブバトルから離脱したい。それこそ結婚指輪を最強のバリアにして。独身者たちのギラギラした感じは疲れると言いながらも、結局は自分自身もギラギラしちゃってるという矛盾。

恋愛がめんどうな人たちだって、決して恋愛がしたくない訳じゃないはず。恋愛に付随してくる感情や、失恋して傷ついたりするのはカンベンなだけ。それを乗り越えなければ先がないのも重々承知の助。

世の中にはゲームやマンガ・アニメ・アイドル、ネットの情報やSNSの承認欲求など、恋愛の代替えになる情報が溢れてる。なんとなく目先のそんなものにエネルギーを費やして、恋愛感情に蓋をしてしまう。もちろん誰もが実際の恋愛体験に勝る刺激(?)はないのは知ってる。現代の日本社会は、まじめに生きていればいるほど疲弊するようできている。

社会人になれば長時間労働は当たり前だから、平日は仕事以外のことは何にもできない。休みはクタクタで、人と会う元気もない。賃金も安いし物価は高い。軽はずみに金のかかりそうなデートなんか誘えない。結婚なんてもっての外。明日どうなるかわからないのに、恋愛をする余裕がない。必死で恋愛ができない理由を探して理論武装する。そんなこんなで、みんな恋愛をする前にパワー不足になってしまう。

話題のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』通称『逃げ恥』は、契約結婚を結ぶ男女の話。恋愛のプロセスをすっ飛ばして、いきなり男女の共同生活が始まる。恋愛はめんどくさいけど、結婚はしたいという願望の現れ。

日本のテレビドラマは、ファッション雑誌の役割が高い。このドラマでもガッキーこと新垣結衣さんの服装は、無職という設定もあって、ファストファッションを着こなしている。お金をかけなくともファッションを楽しみたいという心理。

星野源さんも最近はすっかりキャアキャア言われる存在になった。彼の魅力って、いい意味でキモチワルイところ、コメディセンスが高いところなのに、あれ?って本人も思っているんじゃないだろうか? 彼の曲も、以前はモテない男の気持ちを歌ってたけど、最近はモテ男そのものになってきた。好感度が上がっているのは悪いことではないから、まあいいのか。

星野源さんが歌う主題歌『恋』のダンスも社会現象になるくらいの人気。コンセプトは、夫婦が家でテレビを観ながらダンスのマネをしている様子とか。そういえば自分も新婚時代に『ビリーズブートキャンプ』が流行っていて、我が家でもやったら、秒殺で気持ち悪くなった苦い思い出がある。

ロケ地は横浜。桜木町界隈は自分も公私ともによく行く場所。このドラマの撮影にでくわさないかとソワソワしていたものです。文化の流れは南下する。もはやもう東京も終わっていて、関東では横浜方面の方がイケてるように自分は感じている。

恋愛に不器用な登場人物たちを描くコメディの本作。女性目線なので、表現はとてもキレイ。恋愛なんてブザマでカッコ悪いものだ。一歩間違えばキワモノになっちゃう。ホントはそれでも良い。自分はシニカルな笑いの方が欲しいけど、それだと当事者の視聴者はツラくて観てられない。現段階の日本では必要不可欠なオブラート。

10代の男女が、まだ出会ってもいないのに、いきなりソウルメイトになるアニメ映画が国民的大ヒットになる現代日本。恋愛はめんどうなだけど結婚には憧れる。でも実際は結婚生活の方がめんどうの連続。パートナーがいない段階だと、先の道のりの長さに、想像しただけで疲れてしまう。

振り返れば自分も恋愛時代はいろいろめんどくさいと思っていた。結婚なんてもっとたいへんだし、子どもが生まれるころは、不自由で地獄の思い。育児始めは辛くて体を壊した。このままいけば、次の人生の展開はさらにめんどくさいことの連続だろう。老後だってきっとたいへんだろう。今となれば恋愛期のなんと穏やかなことか。

そんな愚痴のひとつも独身者の前で話したら、即嫌われてしまう。「あんた幸せなのに、ナニ言ってんの」って。幸せ? こんなにたいへんなのに? 第三者からみると、たいへんそうにバタバタしている姿も幸せそうにみえるらしい。どうやらシアワセというものは、めんどうな人生そのもののことらしい。

テレビ離れの昨今で、久しぶりに若者向けのドラマが大ヒット。その要因は、流行のうわばみはなぞりつつも、誰もが不安に感じている生涯未婚という重い社会問題を扱っているから。

社会に無関心と言われる日本人。生きづらい世の中を、こうしたエンターテイメントから考えていくのも、きっかけとしては間違っていない。正直、ムズキュンしてる場合じゃないくらい深刻な状況だけど、本作のような普遍的な恋愛ドラマが流行るのは、まだまだみんな、人の心が残っているのだと信じたい。フィクションにどっぷりのままで終わらせず、次は自分の人生にもシフトチェンジする。

「恋愛なんて」とうそぶく心理の裏を、発してる本人もみかえることが大事。自分にとって普通の幸せとはなんぞやと、ドラマをきっかけに、人生と向き合ってみるのも悪いことじゃない。

夫婦を超えてゆけ‼︎

関連記事

『わたしは、ダニエル・ブレイク』 世の中をより良くするために

ケン・ローチが監督業引退宣言を撤回して発表した『わたしは、ダニエル・ブレイク』。カンヌ映画祭

記事を読む

no image

逆境も笑い飛ばせ! 日本人のユーモアセンスは!?『団地ともお』

  『団地ともお』は小学生。 母親と中学生になる姉と 三人で団地暮らし。 父親

記事を読む

『スカーレット』慣例をくつがえす慣例

NHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』がめちゃくちゃおもしろい! 我が家では、朝の支

記事を読む

no image

『美女と野獣』古きオリジナルへのリスペクトと、新たなLGBT共生社会へのエール

ディズニーアニメ版『美女と野獣』が公開されたのは1991年。今や泣く子も黙る印象のディズニーなので信

記事を読む

『花束みたいな恋をした』 恋愛映画と思っていたら社会派だった件

菅田将暉さんと有村架純さん主演の恋愛映画『花束みたいな恋をした』。普段なら自分は絶対観ないよ

記事を読む

no image

『METAFIVE』アンドロイド化する東京人

  自分は音楽ではテクノが好き。整理整頓された無機質な音にテンションがあがる。ロック

記事を読む

『エターナルズ』 モヤモヤする啓蒙超大作娯楽映画

『アベンジャーズ エンドゲーム』で、一度物語に区切りをつけたディズニー・マーベルの連作シリー

記事を読む

no image

『風が吹くとき』こうして戦争が始まる

  レイモンド・ブリッグズの絵本が原作の映画『風が吹くとき』。レイモンド・ブリッグズ

記事を読む

『藤子・F・不二雄ミュージアム』 仕事の奴隷になること

先日、『藤子・F・不二雄ミュージアム』へ子どもたちと一緒に行った。子どもの誕生日記念の我が家

記事を読む

『勝手にふるえてろ』平成最後の腐女子のすゝめ

自分はすっかり今の日本映画を観なくなってしまった。べつに洋画でなければ映画ではないとスカして

記事を読む

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 僕だけが知らない

『エヴァンゲリオン』の新劇場版シリーズが完結してしばらく経つ。

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

→もっと見る

PAGE TOP ↑