*

『日本のいちばん長い日(1967年)』ミイラ取りがミイラにならない大器

公開日: : 最終更新日:2020/03/03 映画:ナ行,

1967年に公開された映画『日本のいちばん長い日』。原作はノンフィクション。戦後20年以上経ってから製作されたこの映画。今だから言える「あの時実際どうだったのよ?」「順序立てて説明してよ」という世論の好奇心もあったのではないだろうか。スケールのデカい映画になって、作り手の気概を感じる。とくに主役を決めずに、淡々とドキュメンタリータッチで描いていく。

製作当時東宝は、赤字覚悟でオールスターキャストで映画化したらしい。三船敏郎さんや志村喬さんという東宝人気のキャストはもちろん、松竹からも笠智衆さんもいる。当時役者は、特定の映画会社に所属して、基本的には他社製作作品には出演できなかった。例外は「特別出演」と表記される。映画会社を越えてのキャスティングに力を感じる。

いま観ても、テンポの良い演出は、実録モノという堅苦しさを凌駕してエンターテイメントに徹している。演出は岡本喜八監督。戦争にまつわる娯楽映画が多い人だ。とかく戦争がテーマだとその題材の重さに負けて、暗く息苦しい作品になりがち。でも岡本喜八監督は、コメディタッチすれすれの演出をしている。

戦争が題材だとさまざまな思想が交錯して、万人向けに作るのが難しい。状況を淡々と綴っていくドライな表現は、観る人によってどうとでも解釈できる。作品に余裕がある。長時間の上映時間にも関わらず、あっという間に映画は展開していく。

オールスターキャストでドキュメンタリータッチ。この演出法、最近の日本映画『シン・ゴジラ』でも採用している。忘れた頃に過去作品の表現方法を拝借する庵野秀明監督のしたたかさ。

情報過多な映画なので、やれ思想がどうこうとのんびり考えている暇がない。手練れなのは右派も左派もどちらの言い分の言葉も登場するが、深入りしないので結局どちらにも傾倒しない。

映画の内容としては、第二次大戦の敗戦を前にして陸軍兵たちがクーデターを企てたり、集団自決を計画したりと、狂気の沙汰もいいところ。登場人物たちの行動がみな極端に偏っているので、戦中の人間は自分たち現代人と異なった考え方なのかと誤解しがち。でもそもそもこの映画の作り手たちも、登場人物たちに感情移入しているように思えない。

朱に交わればなんとやら。ミイラ取りがミイラとなりかねない歴史的事実。登場人物たちの心情に距離をおきながら、状況をスピーディに描き切るには器が必要。

それはそれ、これはこれと、映画はあくまで娯楽作品というスタンスでブレることはない。観客を楽しませてなんぼ。アクション映画のスタイルは、現代にも十分通じる。いや、いつから日本映画はトロい演出ばかりになってしまったのだろう。

「役に殺される」という言い方がある。役者が自分の演じる役の大きさに負けて、精神疾患になってしまっりすることがそれ。役者に限らず日常の仕事でも、あまりに自分の器で受け入れられないようなビッグプロジェクトを任されて、プレッシャーで潰されちゃうことなんて日常茶飯事。

岡本喜八監督の映画は、ある意味適当でいい加減。でもそれは雑という意味ではない。解釈がダイナミックなのだ。ハラがすわってる。こういった器の大きい監督って、最近の日本映画ではとんとみかけない。流行りじゃないのか、それとも芽を摘まれちゃうのか?

映画はあくまできっかけをくれるもの。歴史を調べたければ、ちゃんと自分で調べなけらば何にもならない。作品はその作者のひとつの解釈に過ぎない。だからあまりその作品で深読みするのは意味がない。まあ、人様が作った作品に、したり顔で「あーでもないこーでもない」と語り合うのも、それはそれで楽しいのだけれど。

劇中に昭和天皇が登場するけれど、顔がいっさい映らない。皇室を映像表現するのは不謹慎はばかりないことなのだろう。でもそれによって天皇の存在が神秘的なものになり、当時の国民が抱く天皇のイメージがよく伝わる。表現の足枷が効果を成した、演出の工夫。

もちろん現代だって、娯楽作品で皇室を描くのは恐れ多いことだろう。イギリスの王室コメディのように辛辣になりすぎるのも意地悪すぎだけど、海外の視点でこの映画を観たら、どんな印象になるのだろう?これはこれで「よそはよそ、うちはうち」と国民性が出ていて興味深い。

戦時における政治家や軍人という極端な世界。一般市民は登場しない。我々が知らないけれど、密接に関わっている国内外の情勢。戦争の映画もさまざま。いろんな作品を観て、多角的に物事を捉える視点を養っていきたい。これが過去の歴史であって、未来のシミュレーションにならないようにするために。

関連記事

no image

『間宮兄弟』とインテリア

  江國香織さん原作の小説を、故・森田芳光監督で映画化された『間宮兄弟』。オタクの中

記事を読む

no image

『君たちはどう生きるか』誇り高く生きるには

  今、吉野源三郎著作の児童文学『君たちはどう生きるか』が話題になっている。

記事を読む

『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?

『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間

記事を読む

『火垂るの墓』 戦時中の市井の人々の生活とは

昨日、集団的自衛権の行使が容認されたとのこと。 これから日本がどうなっていくのか見当も

記事を読む

『あしたのジョー2』 破滅を背負ってくれた…あいつ

Amazon primeでテレビアニメの『あしたのジョー』と『あしたのジョー2』が配信された

記事を読む

『太陽がいっぱい』 付き合う相手に気をつけろ

アラン・ドロンが亡くなった。訃報の数日前、『太陽がいっぱい』を観たばかりだった。観るきっかけは、

記事を読む

no image

『おさるのジョージ』嗚呼、黄色い帽子のおじさん……。

  もうすぐ3歳になろうとするウチの息子は イヤイヤ期真っ最中。 なにをするにも

記事を読む

『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!』 結束のチーム夫婦も前途多難⁉︎

2016年に人気だった『逃げるは恥だが役に立つ』、通称『逃げ恥』の続編スペシャル版。なんとな

記事を読む

no image

『猿の惑星:新世紀』破滅への未来予測とユーモア

  2011年から始まった『猿の惑星』のリブートシリーズ第二弾にあたる『猿の惑星:新

記事を読む

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラゴン』が実写化された。アニメの

記事を読む

『ひらやすみ』 とがって、たたかれ、まるくなり。

2025年の冬、自分のSNSのタイムラインでは『ひらやすみ』と

『プレデター バッドランド』 こんなかわいいSFアクション映画が観たかった

『プレデター』の最新作が公開される。近年日本では洋画が不人気。

『藤本タツキ 17-26』 変態宣言を強要する珠玉のアニメ短編集!

『チェンソーマン』は、期待してなかったにも関わらず意外とハマっ

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』 こうしてすべてが変わっていく

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』という映

『M3GAN ミーガン 2.0』 ゆるぎないロボ愛よ永遠に

自分はSFが好き。友だちロボットのAIがバグって、人間を襲い出すS

→もっと見る

PAGE TOP ↑