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『お嬢さん』無国籍お耽美映画は解放へ向かう

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 映画:ア行,

韓国産の作風は、韓流ドラマのような甘ったるいものと、血みどろで殺伐とした映画と極端に分かれているような気がする。韓流作品はビター・アンド・スイート。テレビで韓流ドラマを楽しんでいたマダムが、何気なく韓国映画を観に行ってショックを受けてしまうこともあるだろう。

自分は韓流ドラマは分からなかったけれど、キナ臭さをプンプンさせた韓国映画は結構好きだ。この『お嬢さん』も、公開当初SNSで話題になっていたのは知っていた。エロティック・サスペンスのR18指定ということで、かなりセンセーショナルな内容なのは予測がつく。ヨーロッパのアート映画が好きな方が絶賛していたので、ただのエロ映画ではないなと感じた。最近、友人にも「『お嬢さん』面白いよ」と勧められたので、もう間違いない。ただ「子どもに観せちゃダメだよ」と念を押された。

ご心配ありがとう。なんとかします。実は我が家の検閲レーティングはかなり厳しい。深夜枠でなくとも、日中にオンエアされているアニメでさえも、子どもに安心して観せられない作品はある。たとえば可愛い絵柄でも口汚かったり、いじめを助長するような内容のものはダメ。子ども向けなのに、萌えやフェチズムを感じるものもダメ。男に媚びる女の話は、とくに女の子には観せたくない。

これ、作り手が自分の固執した趣味に走りすぎているのを自覚していないんだと思う。お客さんは小さな子どもで、お茶の間で家族揃ってそのアニメを観ている様子がイメージできていないんだろう。最近はテレビを観る人も少なくなったから、製作者や放送局のモラルもあまり問われないのだろう。

「この作品は芸術か、ポルノか?」という論争が昔からされている。でもそういった疑問が出る時点でその作品は、芸術でもありポルノでもある。芸術と一口に言っても種類はさまざま。心を豊かにさせるものもあれば、意図的に荒んだ気持ちにさせる作品だってある。芸術かポルノかと決めたがる人は、「これは芸術だから」と大手を振ってポルノを見る免罪符が欲しいだけなのだろう。芸術はそんなに単純なものではない。もっと繊細なものだ。

映画『お嬢さん』は韓国映画。監督はパク・チャヌク。ハリウッド進出もしてる。過去作の『オールド・ボーイ』や『JSA』は観てるぞ。血みどろの作風じゃないか。

『お嬢さん』の舞台は、第二次世界大戦前夜の朝鮮。原作の『荊の城』はイギリスの小説だから、舞台を変更しての脚色。パク・チャヌクは『オールド・ボーイ』でも、日本の漫画原作を脚色しているから、そんなことはお手の物。

日本統治下の朝鮮にしたことで、舞台となる『荊の城』が、和洋折衷の様式美の屋敷となった。その閉じた空間で繰り広げられる隠微な騙し合いは、すぐさま江戸川乱歩や夢野久作の小説の世界を彷彿させる。大正ロマンの香りもする。これがやりたかったのね。

映画の冒頭、「本編では不適切な言葉が登場するが、時代背景を考慮してそのままにしてある」と断りが出る。韓国映画なんだから、翻訳変えればいいだけでは?と思っていたが、そうではなかった。韓国人の俳優たちが、みな日本語を喋るのだ。

日本人になりすまして、のし上がろうとする登場人物たち。日本人は金と権力の象徴。退廃的な価値観。人権なんてあったものではない。貧しかろうが富を得ていようが、誰もが不幸。

官能作品の多くが、性によって堕落していく登場人物を描いている。性が人生にもたらすものは、不幸ばかりでなく、幸福だってある。

この映画での性交場面は、自己解放のメタファー。三部構成で、主要登場人物の各自の視点で、幾度も同じ時間軸が描かれていく。物語の最初は、どれもどん底から始まる。男女間の性は、抑圧による上下関係からくるもの。女は男に従えという構図。だから女同士の性の方が平等で、自由なものとして描かれている。映画のカタルシス。

この映画を観ていると、男女間の性よりも、女性同士の方が自然にみえてくる。パク・チャヌクは、ゴリゴリの男目線の監督なのに、なぜか女性的。原作の『荊の城』を書いたサラ・ウォーターズはレズビアン。これで合点がいった。

「男は上に立ちたがって、権力をふりかざして威張ったり、暴力を振るうからイヤね。もうそんなのほっといて、私たちだけでやっていきましょうよ」なんて声が聞こえてきそうだ。

日本をはじめ、アジアはとくに男社会。男尊女卑の酷さは、欧米から呆れられている。ネットを中心に、女嫌いの男のなんと多いことか。でもそんな男たちも、萌えアニメやアイドルは大好き。多分大抵は、過去に異常にモテなかったり、酷い振られ方とかして、女性全般を恨んでいるのだろう。でも恋愛対象は女性のまま。憎さと愛おしさの感情の抱き合わせ。大いなる矛盾。だからこそ、現実には存在しない二次元やアイドルなどの、造られた女性像に救いを求めている。

ミソジニストに対して、男嫌いの女性であるミサンドリストもいる。男性も他人事ではない。大抵はDVを受けたり、酷い離婚や失恋の経験からの、男性全般に向けての不信感。

日本ではほとんどの女性が、通勤電車で痴漢の被害を経験している。まっとうに生きてきた男性からすると、痴漢行為なんて特別な犯罪だと思っているから、その事実にショックを受ける。大抵の男性は、社会の闇を知らず、のほほんと生きている。

そんな苦い経験を積んだ女性が、過剰に男性を警戒するのも分からなくもない。何気なくこちらが佇んでいるだけで、「またお前もか!」と敵意を示す女性が理解できなかったが、そう捉えれば仕方ないのかも知れない。

世の異性すべてを敵視するのは大変だし、ハッピーな心理ではない。これはPTSDだから、こちらとしては心の病気なのだと割り切るしかない。病みのスパイラルは、さまざまな溝を深めるばかりだが、そんな場面に出くわしたら、ムキにならずに冷静に静観できるようになりたいものだ。

兎にも角にも映画『お嬢さん』は、退廃的な物語にも関わらず、鑑賞後爽快感があった。この種の作品で落ち込ずに楽しくなってしまうのは珍しい。ちょっと不思議な映画だった。

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