『LAZARUS ラザロ』 The 外資系国産アニメ
この数年自分は、SNSでエンタメ情報を得ることが多くなってきた。自分は基本的に洋画が好き。日本での洋画人気は廃れてきている。シネコンでの洋画の扱いは、朝8時から上映のモーニングショーか、夜9時から始まるレイトショー枠だったりで、ひじょうに観づらい時間帯に追いやられている。洋画は客が入らないということなのだろう。海外作品はすでにマニアックなジャンルとなってしまっている。テレビのワイドショーでも、洋画が扱われることが少なくなった。洋画専門の雑誌でも、邦画やアニメの情報を載せている。純粋な洋画雑誌はなくなってきた。巷でもてはやされる作品は、大手企業が協賛した、国内メディアに強い作品ばかり。自分の映画を選ぶ基準は、誰が出ているかというよりは、誰が監督したとかどんな作品なのかの方が重要。日本国内のメディアでの宣伝はまるきり役に立たない。洋画ファンはすでにマイノリティな客層。
自分は邦画はあまり観れていないが、アニメはよく観ている。最近の日本のアニメはすごい。エンターテイメントの出資にケチな日本でも、潤沢な資金のもとでつくられる作品が増えている。反面、昔ながらの絵が止まったままで口パクばかり、作画崩壊もご愛嬌のアニメもいまだに健在している。作品のクオリティ格差がすごい。技術的にすごいものに弱い自分は、ハイクオリティなものなら、アニメだろうが洋画だろうが関係なく観てしまう。
このアニメシリーズ『ラザロ』は、最初自分はまったくのノーマークだった。放送中のアニメシリーズを観るにあたって、最近ではSNSはかなり邪魔な存在となってきた。話題性のある作品は、初オンエア終了後、すぐさま誰かの感想や考察でTLがいっぱいになってしまう。最悪なのは、公式も上げてないような作品の最大のハイライトシーンを、キャプチャや動画ですぐさま上げてくる人がいること。観ていないアニメでも話題性がある作品は、いつのまにか詳しくなってしまっている。オンエアから遅れて作品を観ようものなら、すでにSNSでネタバレ済み。ただの確認作業になってくる。この情報ダダ漏れ状態はなんとかならないものか。でもファンアートは好きなので、一概にすべてミュートするわけにもいかない。リアタイで観ているアニメシリーズがあるときは、SNSから遠ざかる。感情に煽る情報はよろしくない。図らずともSNS離れができてきてしまった。とても健康的。
話題になるアニメに関しては、執拗なつぶやきだらけになってしまうSNSも、この『ラザロ』に対してはかなり静か。自分が『ラザロ』を知ったのもSNSなので、SNSの存在を一概に否定はできない。アニメに関わっている人が『ラザロ』を話題にしていたので観たくなった。プロが語っていたからこそ気になった。そうなると通好みのアニメなのか。
『ラザロ』は日本のアニメスタジオMAPPAの制作。共同制作はアメリカのAdult Swim。豪華な日本のアニメ作品の資本には、海外企業が絡んできているのは間違いない。でも、大手を振ってアメリカ資本の日本アニメを謳った作品は少ない。日本のアニメの資本には、製作委員会制度という、学校の組織みたいな名称の制度がある。製作委員会は、さまざまな企業が出資を分担して成り立つ制度。投資した作品が失敗したとしても、複数の企業が出資しているので、損失も痛み分け。負担が少なくなるというもの。ただ、投資した作品が成功してしまうと、どこに権利があるかとイス取りゲームの浅ましいことにもなりかねない。製作委員会制度は、うまい具合に責任回避する、積極的に消極的な日本人らしい制度でもある。その製作委員会制度の内訳がどう分配されているかは、我々観客にはブラックボックスな世界。まあ観客からすれば、面白い作品が観れるのであれば、その仕組みはどうだっていい。製作委員会に日本の企業ばかりでなく、海外から多く出資されていることは充分考えられる。
15年くらい前には、作品をつくりたくて企画を出しても、出資者が集まらなくてそのままフェイドアウトしてしまうことが多かった。アニメ作品は、一度つくればさまざまな形で回収方法がある。よほどの失敗をしなければ、アニメで大赤字になることは考えづらい。それでも出資者が集まらない。大企業になればなるほど、投資への財布の紐は固い。それもそのはず、あのとき誰もが口をつぐんでいたけれど、日本は失われた30年の真っ只中にいた。冒険なんて誰もできない。むしろ投資に挑戦する勇者は、中小企業や個人ばかり。小さなところは一生懸命に夢をみるけど、大きなところは自己防衛ばかり。景気が悪いとはこういうこと。
日本の産業は、エンターテイメントや観光などの第三産業が多くを占めている。それでも日本の偉い人の多くは、芸能を低くみている。日本の文化を国が守ろうとしなければ、自然と衰退し、淘汰されていく。日本のアニメを日本がつくらない。このまま廃れてなくなってしまうのなら、うちがカネを出すよと海外企業が動き出すのはよくわかる。世界中に散らばるアニメファンをターゲットにすれば、充分儲かる可能性はある。日本のエンタメ産業を海外資金で運営する。日本のアニメは、日本の文化でありながら、経営は海外資本のもが主流となっている。日本の昭和を描いた『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』が、中国資本でつくられているという不思議な現象も起こっている。それでも今までは、表向きは日本独自の作品のようにしてきた。この『ラザロ』は、堂々とアメリカ資本の作品だ、Adult Swimオリジナルシリーズだと話題のひとつとしている。いよいよ来たかという感じ。
たかがエンターテイメントの経済事情と侮るなかれ。エンタメのスケールのデカさは、その国の経済状況と比例している。エンタメが元気な国は、産業すべてが盛り上がっている。むしろ映画などが面白いなと思わせる国は、後から栄えてくる感すらある。エンターテイメント事情は、その国の姿を映す鏡。そうなると、これからの日本は、他国の資金のもとで産業が成り立っていくことが予想される。国内完結型の事業をしていた企業は、ことごとく元気がなくなっていく。これから残っていく企業は、もともと世界標準で仕事をしていたところか、外資系の傘下に入ったり合併吸収されたりしたところになっていくのだろう。それこそ純粋な日本の企業はなくなっていくのかもしれない。ちょっと寂しい感じもするが、働く側からすれば、世界標準の企業の方が給料も高くなる。必ずしも悪いことばかりではない。
そんな日本のアニメーションの国際化。日本人がやらないなら海外がやる。『ラザロ』がアメリカ資本でつくられるのは、突飛なことではない。『ラザロ』の渡辺信一郎監督の過去作『カーボーイビバップ』は、Adult Swimの人気プログラムだし、『ブレードランナー2049』のスピンオフ短編アニメも渡辺監督の代表作にあったりする。渡辺信一郎監督はアメリカでは名の知れた監督さん。アメリカ製の日本アニメの監督の抜擢は、満を持したものでしかない。
それにしてもこの『ラザロ』、よくもまあ洋画アクションファンのツボをよく押さえている。作品が始まってすぐにこれがアニメだと忘れてしまう。アクション監督には『ジョン•ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキが担当していたり、音響などの音作りは、ハリウッドのスタッフが多く駆り出されている。『ミッション•インポッシブル』や『007』シリーズが好きな人にはたまらない雰囲気。作中に登場するカルト集団は『ミッドサマー』のイメージ。音楽はジャズとテクノと徹底している。資本がアメリカだから、なんでもあれと言った感じ。どれもこれも何かの洋画で観たようなエッセンスでいっぱい。それが日本のアニメーションの映像で観られるイノベーションの妙。この違和感を楽しみたい。
声優陣も豪華。主人公のアクセルの声は、宮野真守さんが担当している。なんだかアクセルは宮野真守さんに顔がそっくり。綾波レイで有名な林原めぐみさんをはじめ、山寺宏一さんや大塚明夫さんが、実年齢に近い役を演じている。日本のアニメの特徴は、声優さんがいつまで経っても若者の役を演じさせられること。この『ラザロ』ではそんな加齢を否定するようなことはない。有名声優さんの無理に若作りすることのない芝居が新鮮。でも『ラザロ』が海外放送されたときは、英語吹き替えになって違う声優さんになってしまうのだろうけど。なんだか吹き替え版の洋画を観る感覚方に近い。
このアニメはとにかくアクションシーンがすごい。アニメだからなんでもできるだろうと思われがちだけど、実際に体の重みを感じさせるアクション描写はかなり難しい表現。重力や筋力を動きで表現するリアリティ。実写では不可能に思えるアクションシーンが展開される。でも、公式から流れてくるメイキングでは、実際に同じアクションを俳優が演じてみせている。それを手描きアニメにおこしているという、気の遠くなるような作業。狂気の職人芸。CG全般の昨今、モーションキャプチャで作業効率を上げる方法はいくらでもある。でもあえて実写でできることを2Dアニメでやることの意義。そこが日本のアニメらしいブランディング。
『ラザロ』は良くも悪くも洋画っぽい。世界での評価はどうかわからないが、洋画離れが久しい日本では響かないのは当然か。明らかに日本のアニメファンの客層とは違う作風だし。アクション映画的な、登場人物の記号化。人物の内面に深掘りすることはあまりない。まるで毎日会社で顔を合わせるけれど、どんな人なのかわからないままの同僚みたい。すごいアクションが展開して、「おおーっ!」となるけど、鑑賞後にはそのハラハラもすぐ忘れてしまう。ライトなところも洋画っぽい。その完璧すぎる理想の洋画っぽさは懐かしい感覚。『ラザロ』は、懐古趣味をぶつけながら、日本アニメと洋画アクション映画のイノベーションに挑戦した、実験的な作品。冒険しても赤字にはなるまい。この作品を踏襲して、次にどんなエンターテイメントの流れが生まれてくるか。『ラザロ』は、流行りの過渡期のレジェンド的アニメになっていくのかもしれない。
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