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『アトミック・ブロンド』時代の転機をどう乗り越えるか

公開日: : メディア, 映画:ア行, 音楽

http://atomic-blonde.jp/

シャーリーズ・セロン主演のスパイ・アクション映画『アトミック・ブロンド』。映画の舞台は東西ベルリンの壁崩壊寸前の1989年。もうサントラがどストライク。映画は冒頭のっけからニューオーダーの『ブルーマンデー』がかかってる。ドイツといえばテクノだもんね。(ニューオーダーはイギリスだけど)

映画の舞台となっている年代の1989年ごろは自分も10代。ガンガンに洋楽聴きまくってた頃だ。当時は若者の間では邦楽より洋楽の方が圧倒的に人気で、日本の音楽を聴くのはダサくて、洋楽を聴くのがカッコいいとされていた。今では洋楽ファンというと、すっかりマニアックな印象になってしまった。文化が閉鎖的になっているようで、ちと寂しい。

シャーリーズ・セロン主演でアクション映画となれば、真っ先に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を思い出す。でもこっちの『アトミック・ブロンド』では彼女のルックスも全然違う。『マッドマックス』は、アホな男尊女卑、男性優位の社会へ対する警鐘を描いていた。世の中で男が威張ってられるのは、ただただ女性より腕力があるからだけだ。脳の能力は男性よりも女性の方が良いのは科学で証明されている。自分の地位を死守するためにも、男たちは恐怖政治で必死に保身して持っているような世の中。もし女が腕力でも男に優ったときは、男の存在はどうなっていくのだろう? 最近のアクション映画やファンタジー映画では、女性が主人公の作品が圧倒的に多い。もう男がドラマを築くのではつまらない時代なのだろう。

『アトミック・ブロンド』も、そんな新たな女性の時代を描いていくようなアクション映画だと勝手に期待していた。しかし、ここでの戦う女は男目線で描かれる強い女像での主人公。ちょっと肩透かしを食らってしまった。映画はイギリスの諜報員ということで『007』と同じ設定。ジェームズ・ボンドの女版といったところ。

登場人物の誰が二重スパイで、黒幕は誰なのか? 何が起こっているのかわかりづらいのは、スパイ映画やギャング映画の特徴。わからないけど巨大なものが蠢いている不気味さ。

『007』もダニエル・クレイグがジェイムズ・ボンドを演るようになってから、ハードな色合いが出てきた。涙を噛み締めながら血まみれで人を殺す。今までの007は、クールに敵を撃ち殺し、行きずりの美女(ボンドガール)と出会ってすぐにベッドイン。それが昔はカッコよく見えたのだが、今そのままだとコントにしかならない。突っ込みどころ満載。007をからかったコメディ作品は数多い。

この『アトミック・ブロンド』は、スパイアクションを女に差し替えたもの。人殺しも激しい性欲も、アドレナリンが出まくってる危険をいとわぬ新奇探索傾向の象徴。主人公が男性から女性に変わったことで、どう表現が変わるのかも見どころの一つ。

血みどろのアクションシーンは、毎回カメラワークが凝っている。シャーリーズ・セロンがワンカットのフィックスで男たちをなぎ倒すシーンもあれば、ハンディカメラで、あたかもカメラも殺陣の一部のように動き回る場面もある。

自分はこの映画のサントラを先に聴いていたので、『ベイビー・ドライバー』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のような音楽とアクションのミックスしたイノベーション映画のように思っていた。でも『アトミック・ブロンド』は、あまりにアクションシーンにインパクトがありすぎて、音楽がほとんど聴こえてこなかったような。

サントラの楽曲チョイスは、『ベイビー・ドライバー』よりも『アトミック・ブロンド』の方が自分の趣味。ニューオーダーやディペッシモード、デヴィッド・ボウイ&クイーンの『アンダー・プレッシャー』なんて使われたら、サントラアルバムは自分好みのコンピュレーション・アルバムになっちゃう。って期待してたら、それらの三曲はサントラには入ってない! 著作権の権利問題なのか、なんとも残念。

劇中劇で東ベルリンの映画館でアンドレイ・タルコフスキー監督の『ストーカー』がかかってる。劇場は満員。日本ではなかなか敷居の高いアーティスティックなタルコフスキー作品。一般のお客さんが当時こんなに劇場に集まっていたかはナゾだ。米ソ冷戦の終焉間近な時期、東ドイツで旧ソ連映画がかかっているのはとても象徴的。

ドイツの文化が紹介されると、サブカルチャーのセンスがカッコ良すぎて痺れてしまう。ドイツへ旅行した人から、あの国には子どもがいないというか、若者がいないように感じられたと聞いたことがある。それは少子化という意味ではなく、年齢が若い人でも、早くから老成化してしまっているということらしい。成熟した文化。幼稚な文化が横行する日本とは真逆だ。世界中の人が、日本人全員がマンガやアニメ、ゲームや萌えに夢中になっているという誤解もあるが、ドイツの文化がオトナなのは納得できないでもない。

米ソの冷戦が終わって、東西のベルリンの壁が崩壊する歴史的な瞬間。その時代を知っている自分。当時は、現地の様子を思い浮かべられるほどの想像力がなかった。なんとなくテレビの向こうで、歴史が動いているんだろな〜とおぼろげに感じていた。混沌の時代には過激でニッチなものがたくさん隠れていたはず。『アトミック・ブロンド』のような、ファンタジックなスパイアクション映画を作り出すイマジネーションもくすぐられる。

さて、ここのところ、ここアジアでも歴史的な変換期がきているようにも感じる。最高の展開としては南北朝鮮の境界線がなくなる可能性だってある。そんな歴史的に大きな事件が起こるとき、その時流行った世界的なサブカルチャーが、その時代を象徴するアイコンとなる。日本の近年のサブカルチャーは、国内完結型のガラパゴスなものとなってきた。ちょっとした文化の鎖国。世界ではこの曲を聴けばあの時代とピンとくるものがあっても、日本だけは国内の文化を差さなければ、伝わってくるものが少ないのかもしれない。世界のイデアから孤立の危機。

『アトミック・ブロンド』は、敷居は低いが、かなりコアなサブカル好きに向けた部分もある。サブカルチャーはその時代の空気感を写す鏡だ。

何年かして今の時代を振り返るような作品が生まれた時、先進国である日本だけノレないなんてこともなきにしもあらず。果たして現代は未来からどのように見えてくるのか? あんまり良い風に見えなさそうなのが、とても不安なところでもある。

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