『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ある意味これもゾンビ映画
『スターウォーズ』の実写初のスピンオフ作品『ローグ・ワン』。自分は『スターウォーズ』の大ファンだけど、アニメ版のスピンオフシリーズにはついていけずにいた。スピンオフ作品は基本的に、熱烈なファンに向けてつくられるので、どうしても単体の作品としては成立しない。これは『スターウォーズ』に限らずどんな作品でも同じ。日本のアニメの人気作のスピンオフ作品のなんて多いことか。スピンオフ作品は、少ない客から多くを巻き上げる印象がある。
でもこの『ローグ・ワン』は、アメリカの試写会の段階から評判が良く、日本で公開しても周囲から好評の声が聞こえてきた。
『ローグ・ワン』は、『スターウォーズ』シリーズの第1作『エピソード4/新たなる希望』の直前の話。悪の帝国軍が作った圧倒的な破壊力を持つ惑星兵器・デススターの弱点が記された設計図を奪い取るという、わかりやすいプロット。『エピソード4』での作戦会議の場面で、「この設計図奪還作戦で同胞に多大な犠牲をはらった」というセリフがあったのを、古くからのファンは知っている。こりゃ悲劇の予感しかしない。「なんだかイヤな予感がする」
監督はギャレス・エドワーズ。ハリウッド版の『ゴジラ』の監督さん。東宝のゴジラプロットの鉄則に従って、上映40分以降までゴジラを登場させずにひっぱった。人間ドラマなんて苦手な監督なので、ゴジラが出てくるまで、本当に退屈だった。またその二の舞を踏むのか? どんなに好評でも自分には地雷臭しかしない。それでも結局自分も観てしまうファン心理の悲しさ。
確かに今の映像技術で40年前の第1作の世界観を再現してくれたのは見もの。物語上の歴史は変えられないし、それゆえギミックの斬新なデザインも制限がある。『スターウォーズ』本シリーズも暗く重い要素はあったけど、カッコイイメカや主人公の将来が気になるワクワク感があった。『ローグ・ワン』はムチャな作戦に挑む破滅の美学。
中国系キャストが多いのが、中国経済を意識してるイヤラシサを感じるけど、キャラクターがカッコイイからまあ許しちゃおう。
この映画での映像技術は革新的。『エピソード4』の頃の故人となった役者さんが、その時の姿のまま、今の役者さんと共演してる。CGキャラクターといえば、クリーチャー主流だったのを、故人を甦らしたり若返らせたりするほうへ持っていった。かつてからの続投の役者が、経年によりいい感じにつじつまが合うルックスになっていたりして出演もしてる。こうなるともう誰がCGなのか判別不能。
今回の劇伴はジョン・ウィリアムズではなく、マイケル・ジアッチーノ。『カールじいさんの空飛ぶ家』担当の作曲家。ジアッチーノの旋律の節々は、あたかもジョン・ウィリアムズ本人の作曲かと思うほどの完コピぶり。過去作品から違和感はない。
先日、レイア姫を演じているキャリー・フィッシャーが亡くなった。新シリーズが始まったばかりなので、かなりショックだった。完結まで10年近くかかる『スターウォーズ』シリーズのようなビッグプロジェクトで、高齢のスタッフキャストを起用するからには、途中で何か起こる可能性はありうること。残酷だけど代案も念頭から想定しているだろう。キャリー・フィッシャーのレイアの撮影は『エピソード8』まで完了しているらしいが、脚本の段階から手直しするだろう。
今後、この『ローグ・ワン』のように、不在の俳優をCG代役で補うこともあるだろう。でもなんだか倫理的にどうなんだろ? 技術的に可能だからと、なんでもやっていいのかな? そのうちファンによるおかしな同人映画が作られそう。
奇しくも日本では『バイオハザード』の完結編と『ローグ・ワン』の上映時期が重なった。向こうがゾンビと戦う映画なら、こちらは映像技術で死者を蘇らせてしまったリアル・ゾンビ映画。
監督のギャレス・エドワーズも音楽のマイケル・ジアッチーノも、自分と同じ40代。まさに物ごころがつき始めた子どもの頃に『スターウォーズ』に出会ってる。幼少時に『スターウォーズ』に出会ったからこそ、映画の道を選んだのかも知れない。ここでハッキリ世代交代の準備がなされた。
『スターウォーズ』といえば、ジョージ・ルーカス監督の夢の結集。いちオタク監督が、どうやったら観客をおどかすことができるか、喜ばせられるか、試行錯誤しながら作った作品。個人が努力して成功していくさまは、側から見ていても楽しいもの。いま『スターウォーズ』はルーカスの手を離れて、個人の作品ではなく、ディズニーという大企業のビッグ・ビジネス・プロジェクトと化した。残念ながら漠然と企業が潤うだけの企画にロマンは感じない。
ディズニーはこれから毎年『スターウォーズ』の新作を発表するらしい。もうお祭り騒ぎ。パッケージされた量産型作品群が、本シリーズの魅力を削がなければいいが……。
技術はやがて時代が追いつき追い越すもの。その追求には実はそれほど意味がない。ただ目的や手段として生まれた技術は、時代を越えて観客に感動をもたらす。技術映画でもウェルメイドになりうる魅力。貧しくとも高い志のある映画は自分は好きだ。
果たして我らのスターウォーズはこれからどこへ向かうのか? いちファンとして、大いに気になる次第です。
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