『プレデター バッドランド』 こんなかわいいSFアクション映画が観たかった

『プレデター』の最新作が公開される。近年日本では洋画が不人気。この『プレデター バッドランド』もひっそりと公開されていた。日本での海外作品の劇場公開は、たいてい世界で最後の方となっている。日本の広告会社は、世界公開の興行の様子を見てから宣伝文句やリリース方法を模索していく。「全米が泣いた」なんてキャッチコピーは、ある程度観客のリアクションを見てから発せられる言葉。広告発信者が自分の感覚より、まず他人はどう評価しているかの方が気になってしまっている。審美眼の欠如。同調圧力の国である日本の人たちは、ある程度他人の評価が得た作品でないと、なかなか興味を示さないという解釈。
最近では珍しいことに、この『プレデター バッドランド』は、本国アメリカと日本が同日初公開。しかも日付変更線の関係からか、日本公開が世界最速となってしまった。日本で人気のない洋画作品にしては珍しい現象。そんなことになっても、きっと日本では洋画には客が入らない。シネコンでも観づらい時間帯でしか上映されないだろう。なんとなく自分は、この映画はスルーしてしまうのかと思っていた。
『プレデター バッドランド』が日本で公開されるてからネットを見ると、期待もしていなかったこの映画は大好評。ファンアートがどんどん上がってくる。予告編で観たエル・ファニングが主演というのも、意外なキャスティングで気になっていた。エル・ファニングといえば、おしゃれな映画に出るイメージが強い。まさかこんなオタク映画によく出る気になってくれたものだ。もちろん、我々のようなオタク厨二病男子は、エル・ファニングのような可愛らしい女性は好きに決まってる。彼女をこの映画に出演させたことで、最近のSFアクション映画とは一味違うものを目指そうとしているのを感じる。エル・ファニングが『プレデター』に出ることで、半ばこの作品は成功したようなもの。
すっかり自分も『プレデター バッドランド』を観たくなってきてしまった。『プレデター』は20世紀スタジオやディズニー系なので、たとえ配信になってもディズニープラスが独占するだろう。『プレデター バッドランド』が配信開始になる頃、はたして自分がディズニープラスに加入しているかどうかわからない。そんな先送りにするくらいなら、さっさと映画館へ足を運んだ方がいい。でも自分はSF映画は好きでもホラー映画は苦手。『プレデター バッドランド』がホラー要素が強い映画だったら嫌だな。映画を調べてみると、作品のレーティングは小さな子どもでも観れるG評価作品。この手のSFアクション映画は、せいぜいPG12ぐらいの暴力描写があるもの。それがG評価。映画の製作陣が、この映画を多くの人に観てもらおうと、バイオレンス描写ではないところで面白くみせることに心血を注いでいるのが想像できる。とかく暗くなりがちなSF映画を、どんな世代にも響く作品にしようと工夫が施されているのだろう。
『プレデター』シリーズの新作というと、自分にとってはいまひとつハードルが高い。自分はアーノルド・シュワルツェネッガー主演だった第一作目の『プレデター』ぐらいしかちゃんと観ていない。ホラー映画だけど基本SF映画なので、過去に観ていた『エイリアン』シリーズとのコラボ作品『エイリアンvsプレデター』は観ていたような気がする。それくらい『プレデター』シリーズは知らない。ネットでの感想を見ると、シリーズを知らない人でも楽しめると言う。ディズニー作品は、ビッグタイトルの映画のシリーズフランチャイズ化作品が多い。『アベンジャーズ』も『スターウォーズ』も、ある程度作品の歴史に詳しくないと、続編やスピンオフは楽しめない。でもこの『プレデター』は、単独作でも楽しめるという。そういえば日本映画の『男はつらいよ』も、どの作品から観ても観客が置いてけぼりにされないような工夫がされている。従来からの熱いファンの心理も掴んで、新たな客層にも優しい。これはシリーズ映画の理想的なスタイルかもしれない。
予告編で興味を惹いたのは、シリーズ初のプレデターが主人公ということ。今までは人類を脅かすモンスターの扱いだったプレデターを、感情移入の対象にするということ。そしてなによりエル・ファニング。人気俳優の主演で、一気に作品が華やかになる。『プレデター』はいつのまにか『エイリアン』と世界観がひとつになっている。エル・ファニングが演じるティアは、ウェイランド・ユタニ社製のアンドロイドとのこと。このウェイランド・ユタニ社は、『エイリアン』シリーズに出てくる架空のブラック企業の社名。SF好きのツボを押さえている。この映画のエル・ファニングには下半身がない。ティアは、故障したアンドロイドという設定。五体満足ではないキャラクターがアクション映画の主人公という矛盾が面白い。いろいろなアイデアに挑戦している。
そもそも下半身のないエル・ファニングをプレデターが背負っている姿に既視感がある。本作のダン・トラクテンバーグ監督のコメントで、『スターウォーズ』からのオマージュなのがわかってすっきりした。『スターウォーズ 帝国の逆襲』のなかで、チューバッカがバラバラになったC3POを背負っている場面がある。チューバッカは大猿のクリーチャー、C3POはロボット。3POは解析ロボットなので、チューイの背中でずっとお喋りしている。文句や注文ばかりでやかましい。チューイは言葉を話さない種族だが、かなり迷惑そうにしている。その姿が微笑ましい。この2人を主人公にするなら、コメディ要素が強くなる。SFでカッコつけたいこだわりを封印して、コメディ路線に持っていく方向に舵をとる。じつはこんなSFアクション映画が観たかった。
今回自分はこの映画をオリジナル言語の字幕版で観た。日本語吹替版は、人気の声優さんが担当している。そっちも観てみたい。英語版では、プレデターは映画独自のプレデター語を喋っている。言語学者がちゃんと担当して、オリジナルの言語をつくっているらしい。日本語版はどうなっているのだろう。プレデターも日本語吹替されているのかな? それではプレデター語をつくった学者さんの立場がない。もうそれはそれで別物として楽しんだ方がいい。
『プレデター バッドランド』は、日本の漫画の影響が強いとよく言われている。はみ出し者の主人公が、冒険を続けていくうちにどんどんたくましくなって、仲間も増えてくる。幾度も苦難を乗り越えていくうちに、だんだん手練になっていく。この映画では、旅をしていくうちにかりそめの家族が形成されていく。あたかも『スパイファミリー』のよう。登場人物たちが、それぞれ家族関係の問題を抱えている。血の繋がった家族でなくとも、気持ちを交わすことができるなら家族になっていける。恋愛願望のような感情を煽るものではなく、もっと穏やかな、一緒にいるだけで心地良い関係性というものに作品は向かっている。主人公のプレデターの名前がデクなのも、『僕のヒーローアカデミア』と同じ。
漫画の影響といえば、いま世界でも『鬼滅の刃』がヒットしている理由が興味深い。『鬼滅の刃』は、とくにアメリカで熱狂的な人気だとか。それは欧米からの和風趣味への憧れのみから人気があるものだとばかり思っていた。もちろんサムライや漢字がカッコいいのも人気の理由ではある。でもアメリカ人が本当に『鬼滅の刃』に刺さるポイントは、作品を貫く家族愛とのこと。妹にかけられた呪いを解くために、兄と妹が手に手を取り合って戦う姿が感動的らしい。そしてもう亡くなっている家族のことも、そこにいなくとも自分の心の中で生き続けている感覚に泣けてくるらしい。そういえば『鬼滅の刃』でも、主人公は兄が妹を背負いながら戦っている。
近年アメリカでは、家族が共に暮らすという当たり前のことが難しくなってきているという。家族団欒があったり、休日には家族で映画を観たり、ホームパーティーをしたり、教会に行ったりする。そんなささやか幸せが困難になってきたと聞く。日本や東アジアの文化だと、まだまだ家族のつながりは普通に存在していて、当たり前のように思えること。アメリカではそんな当たり前の生活を維持することすら難しくなってきている。だからこそ極端な政治に走ったりするのかもしれない。そんな話を聞いてしまうと、かりそめの家族がテーマの『プレデター バッドランド』は、なんてマーケティング・リサーチができた脚本なのだろうと感心してしまう。種族が違う者たちが寄り添うのも、多様性社会のシミュレーションの姿。
『プレデター バッドランド』は、いまの世界状況を鑑みた、いまつくられるべきエンターテイメント映画なのかもしれない。この映画に気配りされたアイデアは、憎たらしいくらい時代にマッチしている。新しいテーマなのに古くからのエンタメの王道スタイルの映画になっている。世界状況というと壮大なイメージがしてしまうが、この映画でのテーマは、家族や個人の生活というとても小さな問題をついている。個々人の生活が安心したものでなければ、世界の活性化などあり得ない。映画に登場するキャラクターは、アンドロイドやモンスターなど、人間は1人も出てこない。だからこそ、ファンタジーのオブラートに包まれて、この泥臭いテーマも語りやすくなっている。説教臭くならない工夫。洋画不人気の日本では参考にならないが、世界で今後この映画がどれくらい観客に受け入れられていくか、それも見どころでもある。ダン・トラクテンバーグ監督の『プレデター』作品は他にもあるらしいので、今度それも観てみよう。
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