『ファインディング・ドリー』マイノリティへの応援歌
映画はひととき、現実から逃避させてくれる夢みたいなもの。いつからか映画というエンターテイメントも、限られた人しか観なくなりはじめている。朝から夜中まで働き、休日も返上することを良しとするビジネスマンからしてみれば、映画なんてくだらないものだろう。
それもあってかなくてか、映画ファン、とくにアニメファンなんかは、いろんな意味でマイノリティな客層がメインになってきた感じがする。最近のディズニー作品は、あきらかにマイノリティのお客さんに向けて、映画をつくっているような気がする。
この『ファインディング・ドリー』の前作『ファインディング・ニモ』では、生まれつき片方のヒレが小さいというハンディキャップをもつ息子を、過保護にしがちになるという親子の関係がテーマだった。
時代が変わって、前作から13年の歳月が過ぎての新作。マイノリティの気持ちをさらに深くみつめる続編が誕生した。
ドリーは物忘れが激しい健忘症。それは障害でもあり、個性でもある。障害を持つ子どもの気持ち、その親の気持ち、そして障害を持つ子が大人になったら……。ファンタジックな海の世界で、現実的なシビアな問題を描いている。登場する魚たちも、みななにかしらの障害を抱えている。難しいテーマにもかかわらず、映画は最初っから最後まで、ハラハラドキドキの連続! 小さな子どもから、大の大人まできゃあきゃあ言いながら、ドリーたちとともに冒険の旅へ‼︎
ドリーの幼少期のベビードリーがかわいすぎ! 自分は子どもたちと映画を観たので、吹き替え版だった。やっとこさ喋れるような子役の声優さんの演技が笑いを誘う。こんな愛らしい子どもとはぐれてしまった親の気持ちを想像するだけで、琴線を刺激する。
ベビードリーが迷子になっても、大人たちが助けてくれない。ウチの娘はショックを受けていた。誰もが自分が生きていくだけで精一杯の都会の世知辛さのよう。映画鑑賞後、息子は母親から離れるまいとガッシリくっついて歩いていた。
忘れん坊のドリーが自分が迷子なのだと、うまく説明できない。ひとりぼっちでさまよいながら、大人になってしまった。マーリンと出会うまで、ずっとひとりだったのが悲しくなる。ドリーの人の良さ、というか「魚のよさ」は、小さいときから冷たくあしらわられ続けてきたからこその処世術。
健忘症だって忘れたくないことはある! 障害をもつ者の信念のひとつのカタチ。観客はドリーとの旅にワクワクしながら、いつの間にか彼女の心の傷にも共感してしまう。
旅の途中、新たに相棒となるタコのハンクがカッコイイ!ストーリーを進めているのは、じつはこのタコだったりする。大活躍! 思わずぬいぐるみを買ってしまった‼︎
エンディングでは『unforgettable』がかかる。最近のディズニー・ピクサー恒例の吹き替え版は各国ローカライズバージョン。八代亜紀さんには罪はないが、やはりオリジナルのシーア版のほうが良いに決まってる。
シーアという、いまノリにノッてるアーティストが、ドリーの心情を歌うからこそ意味がある。シーアのソロの曲からもわかるように、彼女の人生のドン底から這い上がってくる、叫びのカタルシスは、心に響くものがある。昭和歌謡の懐古主義もいいけれど、やっぱり「いま」を感じさせるパワーにはかなわない。
すっかりニュアンスが変わってしまった日本版エンディング。こりゃオリジナル版も観直さなくてはいけないな。
関連記事
-
-
『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者
御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時
-
-
『アデル、ブルーは熱い色』 心の声を聴いてみる
2013年のカンヌ国際映画祭で最優秀賞パルムドールを受賞したフランス映画『アデル、ブルーは熱
-
-
『機動警察パトレイバー the movie2』 東京テロのシミュレーション映画
今実写版も制作されている アニメ版『パトレイバー』の第二弾。 後に『踊る大走査線』や
-
-
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 自分のことだけ考えてちゃダメですね
※このブログはネタバレを含みます。 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの四作目で完結
-
-
『トイ・ストーリー・オブ・テラー』 続々発表の新作短編、実は大人向け?
BSのDlifeで『トイストーリー』の 新作短編が放送された。 なんでも本邦初公開とのこ
-
-
『ひろしま』いい意味でもう観たくないと思わせるトラウマ映画
ETV特集で『ひろしま』という映画を取り扱っていた。広島の原爆投下から8年後に製作された映画
-
-
『007 スペクター』シリアスとギャグの狭間で
評判の良かった『007 スペクター』をやっと観た。 前作『スカイフォール』から監督は続
-
-
『SLAM DUNK』クリエイターもケンカに強くないと
うちの子どもたちがバスケットボールを始めた。自分はバスケ未経験なので、すっかり親のスキルを超
-
-
『ハウルの動く城』 おばさまに好評のアニメ
スタジオジブリ作品『ハウルの動く城』。 公開当時、大勢から「わけがわからない」と声があがっ
-
-
『聲の形』頭の悪いフリをして生きるということ
自分は萌えアニメが苦手。萌えアニメはソフトポルノだという偏見はなかなか拭えない。最近の日本の
- PREV
- 『名探偵ホームズ』ストーリー以外の魅力とは?
- NEXT
- 『総員玉砕せよ!』と現代社会