『キングコング 髑髏島の巨神』 映画体験と実体験と
なんどもリブートされている『キングコング』。前回は『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが監督していた。オリジナル作品への愛が深すぎて、3時間の上映時間という、この手のジャンルにはふさわしくない長尺映画になってしまった。
小学生の頃に観たジョン・ギラーミン版もあまりピンとこなかった。これ、パート2もできて、コングのメスが登場したような? とにかく自分は『キングコング』映画というと、地雷臭しかしなくなってしまった。また3時間ゴリラの大暴れを観るのはツライって。
でもこの新生『キングコング』は評判も良く、今後ハリウッド版の『ゴジラ』とも繋がっていくという。マーベル・シネマティック・ユニバースから流行りの、同社制作の類似作の世界観が繋がってるってヤツ。これは観とかないと後悔しそう。
テレビCMで『キングコング』が流れると、ウチの幼稚園児の息子がすぐさま食いついた。でもこの映画のレーティングはPG12。子どもは観れない。残酷描写があるのは想像つく。怪獣映画で子どもが観れないのはかなり厳しい。まさに永遠の厨二病患者向けの映画。この映画の監修をしている町山智浩さんの言葉を借りるなら「偏差値は高いけど、精神年齢が著しく低い」タイプの映画。富野由悠季監督風に言えば「お勉強ばっかりできるバカ」が喜ぶ映画。自分は「勉強もできないバカ」だけど、この映画では、その不謹慎さに大爆笑させてもらった。
この新作『キングコング』は、ベトナム戦争モノと怪獣モノとホラーをハイブリッドしたドリームムービー。フランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』の中に『ジュラシック・パーク』が入り込んできたような感じ。それに兵器愛やらメカ愛、怪獣愛がふんだんに織込まぜている。胸を張って好きと言うにはとても勇気がいる。『地獄の黙示録』で、コッポラが死ぬ思いでつくった映像を、さも簡単にコピーしてしまっている。
そもそも『地獄の黙示録』も、戦争を扱ったシリアスな映画であるけれど、けっして反戦映画ではない。戦争の極限状態から生まれる狂気とはなんぞや?と問ている作品だった。さまざまな角度の切り口があるということは、まだまだ表現の伸びしろがあることの証明。観客をビックリさせられる技法を熟知した制作者側のサービス精神。
監督は30代前半のジョーダン・ヴォート=ロバーツ。魔法使いみたいな長いヒゲを伸ばした、みるからにオタクの新鋭監督。新旧の映画的知識が豊富なのは、作品を観て一目瞭然。映画体験や好きな映画も、きっと自分と近いだろう。この監督と趣味は合いそうだ。
でも、趣味が合うからといっても、必ずしも友人になれるとは限らない。サブカル好きは尖がった人が多いからというのもあるけれど、共通の趣味は人と人が親しくなるツールとしてはあまり確かなものではない。それよりも似たような境遇だったり、同じ目的の活動をチームとして協力し合ったり、実体験に基づいて知り合った人との方が親しくなりやすいものだ。趣味が違くとも志や人生観が近い方が分かり合える。共通の趣味があったらあったで話題も増えるが、ただそれだけのこと。
『地獄の黙示録』は、コッポラが命がけでつくった作品。そのイマジネーションを最初に築きあげる労力は並大抵のものではない。この刷り込まれたイメージを、どんなにうわばみだけなぞってそれと同じようなものをつくれたとしても、それは作品の内包するパワーにはならない。何十年も語り継がれる名作は、たとえエンターテイメント作品であれども、作者の言葉が聞こえてくる。パッチワークのセンスで名作になるものもある。
最近のハリウッド作は工場のようにシリーズ作品を量産するのが流行だ。抜擢されるのは、若くて無名の監督。ギャラが安いし、もしかしたら新しい才能が発掘されるかもしれない。本作のヴォート=ロバーツはどう化けるか? 次回作が楽しみだ。
90年代にテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』が大ヒットした。その時、大学の教授やら堅い肩書きを持つ学者たちがこぞってその作品の解説本を出した。これが売れた。自分も数冊読んだ。偉い先生が語るのだから、大手を振ってロボット萌えアニメが観れるのだと勘違いしてしまいそうだ。
昨年『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』がヒットして、またもや衒学者が横行し始めた。でも今回はほとんどの人がそれに対して冷静だった。誰かがまとめ上げたエンタメ作品で、余計なウンチクをひけらかすのはくだらないと。世の中が、とくに若い人たちがエンタメとの接する適切な距離感、カジュアルな付き合い方を知っているように感じた。アトラクションムービーなんだから、素直にきゃあきゃあ楽しめばいい。中年以降の男たちにはそれができない。とかく自分たちのような今の40代以降から上の世代はてんでダメ。趣味の世界にのズッポリドップリ。とてもカッコ悪い。
エンターテイメント系の映画は祭りだ。祭りが終わり次の祭りが来るまでは、平生普段の日常を送らなければならない。その合間の静かな日常の中にこそ、小さな楽しみを見つけていけるのは、幸せに生きていくための工夫。祭りは祭り。イベントは大いに楽しむけど、それ以外も楽しめないと、なんともつまらない。小さなワクワクは、人生においてとても大事だ。
そういえば今回の『キングコング』、コングと対立する人間側のリーダーはサミュエル・ジャクソンが演っているのだけど、彼もゴリラ顔。コングとジャクソンが対峙する場面でお互いの顔のクローズアップで激しくカット割りされてる。ゴリラ顔のドアップが、これでもかと交互に連続する。もうどっちがどっちかわからなくなる。確信犯の演出だけど、大爆笑してしまった。
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