*

『めぐり逢えたら』男脳女脳ってあるの?

公開日: : 最終更新日:2020/03/13 映画:マ行, 音楽

1993年のアメリカ映画『めぐり逢えたら』。実は自分は今まで観たことがなかった。うちの奥さんのフェイバリット・ムービーで、よく日常の話題に出てきてはいた。これなら子どもも観れるし、親子の話だしとのことで、自分も観てみることにした。親子の話? なんだか自分が抱いていたイメージと違う。

この『めぐり逢えたら』の公開当時、日本ではドリカムの曲にのせて派手に宣伝していた。80年代からの甘ったるいフワフワした軽い印象を受けて、自分には関係のない映画なんだと思い込んでいた。うちの奥さんは、そんなドリカムとのタイアップなどまったく知らなかったらしい。おかしな先入観がなかったわけだ。とはいえなぜか自分は、同じ監督&キャストで製作された『ユー・ガット・メール』は観ていた。

『めぐり逢えたら』は、当時盛り上がっていたシアトルを舞台にしたラブコメ。あの頃のシアトルといえば、スターバックスやらグランジやら、なんだかオシャレな文化が「キテル」感じがしていた。その反面、自殺者のもっとも多い都市としても有名。ずっと雨が降っているような気候もそうさせているのだろう。映画の原題は『Sleepless in Seattle』。「シアトルの不眠症」というタイトルが、心の病とオシャレは紙一重なのを伝えている。

妻を亡くしたトム・ハンクス演じるサムは、喪失感から鬱状態になっている。それをみかねた小学生の息子ジョナが、ラジオの人生相談番組に電話してしまう。思いがけずラジオ出演してしまったサム。亡くなった妻への想いを語ってしまったところ、大反響。そのラジオを聴いていたメグ・ライアン演じるライターのアニーは、サムに興味を持ち、取材を理由に彼にコンタクトを取ろうとする。果たしてサムとアニーはめぐり逢えるのか?

映画を観ているときはあまり感じないが、作品はかなりファンタジック。サムの身辺調査してるアニーは、ただのストーカーにも見える。アニーが亡くなったサムの奥さんの面影があるにせよ、ひと目でサム&ジョナ親子が一目惚れするのも、現実ならあり得ない。トム・ハンクスとメグ・ライアンだからこそできるワザ。良い人そうなふたりだからこそ、幸せになって欲しいと、まんまと観客がだまされちゃう。

軽い作品を予想していたら、あまりに切ない話だったので面食らった。クラシカルなポップスをサントラに使ったり、ファッションがかわいかったり、とにかくセンスがいい。ウッディ・アレンの映画に影響を受けているのだろう。喪失と再生。悲しい話なのに、鑑賞後はいい気分になる。客層を若い女子だけに絞った宣伝は、果たしてよかったのか?

そういえば映画学生だったとき、学友が好きな映画に『恋人たちの予感』をあげていた。『めぐり逢えたら』の脚本監督のノーラ・エフロンが脚本を手がけた作品。その作品についてアツく語る学友。男なのにラブコメが好きなんて変わってるなと、冷めた目でその話を聞いていた。

ノーラ・エフロンの描く世界は、とても女性的。女子的センスが映画の端々からにじみでている。残念ながら彼女はすでに亡くなっていた。普通に恋愛や結婚することが難しくなっている現代。ノーラ・エフロンが存命だったらどんな映画を作っただろう? 『めぐり逢えたら』の劇中でも、「結婚に向いてない時代」と当時から言っている。あれから20年以上経った現代は、ラブコメのネタの宝庫の時代なのではないだろうか。

劇中で女の好む話題と、男の好きな話題のギャップで笑う場面がある。女たちが恋愛映画を目頭を潤ませながら語っていると、男たちがシラーっと聞いている。かたや感動的な映画とはこれだと、男たちが戦争映画の名場面を涙ながらに語り出すと、女たちの目は死んでいる。

男脳と女脳というのが流行った時がある。女脳の左脳と右脳を繋ぐパイプが、男脳より二倍太いらしく、左右の交換情報が優れ、女のほうが男より頭がいいという考え方。確かに男より女の方が、日常生活でもいろいろ考えているように感じるし、記憶力も高いように思える。

しかしこれは科学的にはなんの根拠もないらしい。女だからといて必ずしも皆利口ということもないだろうし、男だからといって自分はバカだと卑下する必要もない。

男脳女脳というのは、雑誌の最後のページに載っている占いコーナーみたいな遊びの感覚で盛り上がって、一人歩きしてしまったらしい。男脳女脳を気にすることはナンセンスとのこと。

とはいえ赤ちゃんでさえ男の子と女の子の趣味嗜好はハッキリしている。男の子は車や電車、重機が好きで、女の子はかわいいものやきれいなものが好き。幼稚園くらいになると男の子は棒を見ると興奮して振り回す。女の子は袋が好き。やっぱり個性が分かれてる。

科学では未だ解明されていない脳の神秘。男女お互い相容れないところもあれば、それだからこそ尊重し合えるものもある。男女のボーダーラインもひとつのこだわり。男だからとか女だからとかの話は旧時代的だけど、個性は個性としてある。

男女の好きな映画のタイプの違いがあっても、分かり合えないこともない。案外趣味が合う人よりも、境遇が近い者同士の方が安心したりする。

『めぐり逢えたら』はそんな男女の趣味の違いに触れつつも、分かり合える不思議を描いてる。でもやっぱりこれは女性監督ならではの視点だと思う。

関連記事

『アニー(1982年版)』 子どもから見た大人たちの世界

かつてタレントのタモリさんが、テレビでさんざっぱら自身のミュージカル嫌いを語っていた。まだ小

記事を読む

『魔女の宅急便』 魔法に頼らないということ

ウチの子どもたちも大好きなジブリアニメ『魔女の宅急便』。 実はウチの子たちはジブリアニ

記事を読む

『アーロと少年』 過酷な現実をみせつけられて

く、暗いゾ。笑いの要素がほとんどない……。 日本のポスタービジュアルが、アーロと少年ス

記事を読む

no image

『クラフトワーク』テクノはドイツ発祥、日本が広めた?

  ドイツのテクノグループ『クラフトワーク』が 先日幕張で行われた『ソニックマニア

記事を読む

『進撃の巨人』 残酷な世界もユーモアで乗り越える

今更ながらアニメ『進撃の巨人』を観始めている。自分はホラー作品が苦手なので、『進撃の巨人』は

記事を読む

『スカーレット』慣例をくつがえす慣例

NHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』がめちゃくちゃおもしろい! 我が家では、朝の支

記事を読む

『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』 ヴィランになる事情

日本国内の映画ヒット作は、この10年ずっと国内制作の邦画ばかりがチャートに登っていた。世界の

記事を読む

no image

『スター・トレック BEYOND』すっかりポップになったリブートシリーズ

オリジナルの『スター・トレック』映画版をやっていた頃、自分はまだ小学生。「なんだか単純そうな話なのに

記事を読む

『さよなら、人類』ショボくれたオジサンの試される映画

友人から勧められたスウェーデン映画『さよなら、人類』。そういえば以前、この映画のポスターを見

記事を読む

『このサイテーな世界の終わり』 老生か老衰か?

Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『このサイテーな世界の終わり』。BTSのテテがこの作

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑