*

『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 映画:ラ行, 映画館, , 音楽

 

岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。岩井俊二監督といえば、かつて新宿武蔵野館で観た中山美穂さん主演の『Love Letter』からすっかりファン。当時「アイドル映画が好きなんて、センスないね~」とさんざっぱらバカにされて悔しい思いをした記憶がある。

岩井俊二監督作品で撮影監督をされていた篠田昇さんが亡くなられてから、しばらくご無沙汰していた日本での長編作品。2004年の『花とアリス』からすると、自分の環境も大きく変わった。

岩井俊二作品は、自分の中では「ハイテク少女マンガ」と勝手にジャンルづけている。いっけんラフそうでいて、脚本や撮影に映画的な高度な技術や仕掛けが、巧みに織り込まれているから。岩井俊二監督は、映画づくりのひな形を壊しながらも、映画的なアイディアをふんだんに使って魅せるトリッキーな作風。変化球で芸術的だけど王道は外さない。この映画はいうなれば「少女マンガ風犯罪映画」。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、上映時間が3時間もある。自分は上映時間が長い映画って正直苦手。もしかしたら飽きちゃうのも心配だし、なによりトイレがストレス。もう映画館へ行くべきかずっと悩んで、結局映画を観に行く数時間前から水分控えて観に行きましたよ。

映画の主要人物は全員なにかしらの嘘をついている。その嘘がもつれてどんどん物語が転がっていく。SNSの匿名アカウントで、普段言えないことを言ってしまうのも嘘のうち。人は生きている限り大なり小なり嘘はつく。それは人を傷つけるものもあるが、人間関係を円滑にするためにつく嘘だってある。

ペルソナの仮面というユングの言葉がある。人はその場に応じて、自分を演じ分けるというもの。あたかも要所要所でそれに適した仮面かぶるかのよう。本当の自分がいて、あちこちに合わせて嘘の人格を作っていると勘違いされがちだけど、実はどれも本当の自分。家にいる時も、学校や会社にいる時も、それぞれ演じ分けているようで、その演じているのも自分ということになる。そう考えれば、嘘の自分を意識して装う必要もなくなる。そもそもそんな垣根はないのだから。

この映画の冒頭、あまりに登場人物達が仮面をかぶりすぎているので、いや〜な気分になっていた。好きになれない人たちだな〜って。ファンタジーのような描き方をしているけど、登場人物たちは現実逃避をしているだけで、映画自体は現実的。カワイイ雰囲気だけど、陰惨で怖い犯罪映画でもある。ある意味、登場人物みんなビョーキ。SNSやら詐欺やら、本音と建て前、匿名の乖離とか、孤独とか、現代人の精神の病根をテーマにしていながらも、観賞後は重く暗くなるどころか清々しい気分になる。

人気の役者さんが出て来てるけど、みんな自分が抱いてるイメージ通りのキャラクターを演じてる。最近の映画は、大人の都合で、どう考えてもこのキャラクターにこの役者は合わないだろうという人がキャスティングされたりする。映画がつまらなくなる原因だし、そもそも観客が混乱して、感情移入が出来なくなる。この映画は役者の人となりの雰囲気も反映されている。あて書きもかなりしているんだろう。

で、主人公の黒木華さんだけがどうしても、役ではそうだろうけど、本人がもし同じシチュエーションに立ったなら、別のリアクションするだろうなと思えてならなかった。黒木華さん演じる七海は、「すいませんすいません」といつもしたてにでてる。でも行動は大胆。なんかしっくりこない。確かに岩井作品の可愛らしい女の子像ではあるけれど……。と思っていたらエンディングで猫のお面をかぶってる彼女が登場する。猫っかぶりは確信犯だったのね!!

嘘をつこうがつくまいが、現実はひとつ。嘘をつくことで、物事は好転することはなく、こじらすばかり。映画を観終わって感じるのは、やっぱり嘘はほどほどにしないと、痛い目を見るってことにつきる。腹を決めて正直に生きた方が、ラクにやっていけるのは確かでしょうね。

 

関連記事

『星の王子さま』 競争社会から逃げたくなったら

テレビでサン=テグジュペリの『星の王子さま』の特集をしていた。子どもたちと一緒にその番組を観

記事を読む

『聲の形』頭の悪いフリをして生きるということ

自分は萌えアニメが苦手。萌えアニメはソフトポルノだという偏見はなかなか拭えない。最近の日本の

記事を読む

no image

岡本太郎の四半世紀前の言葉、現在の予言書『自分の中に毒を持て』

  ずっと以前から人に勧められて 先延ばしにしていた本書をやっと読めました。

記事を読む

no image

『METAFIVE』アンドロイド化する東京人

  自分は音楽ではテクノが好き。整理整頓された無機質な音にテンションがあがる。ロック

記事を読む

no image

『トロールズ』これって文化的鎖国の始まり?

  配信チャンネルの目玉コーナーから、うちの子どもたちが『トロールズ』を選んできた。

記事を読む

『怪物』 現実見当力を研ぎ澄ませ‼︎

是枝裕和監督の最新作『怪物』。その映画の音楽は坂本龍一さんが担当している。自分は小学生の頃か

記事を読む

no image

『東京物語』実は激しい小津作品

  今年は松竹映画創業120周年とか。松竹映画というと、寅さん(『男はつらいよ』シリ

記事を読む

no image

『ビバリーヒルズ・コップ』映画が商品になるとき

  今年は娘が小学校にあがり、初めての運動会を迎えた。自分は以前少しだけ小中高の学校

記事を読む

no image

『メアリと魔女の花』制御できない力なんていらない

スタジオジブリのスタッフが独立して立ち上げたスタジオポノックの第一弾作品『メアリと魔女の花』。先に鑑

記事を読む

『ベイビー・ドライバー』 古さと新しさと遊び心

ミュージカル版アクション映画と言われた『ベイビー・ドライバー』。観た人誰もがべた褒めどころか

記事を読む

『オッペンハイマー』 自己憐憫が世界を壊す

クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を、日本公開

『哀れなるものたち』 やってみてわかること、やらないでもいいこと

ヨルゴス・ランティモス監督の最新作『哀れなるものたち』が日本で

『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』 長い話は聞いちゃダメ‼︎

2024年2月11日、Amazonプライム・ビデオで『うる星や

『ケイコ 目を澄ませて』 死を意識してこそ生きていける

『ケイコ 目を澄ませて』はちょっとすごい映画だった。 最

『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ

それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白

→もっと見る

PAGE TOP ↑