『猿の惑星:新世紀』破滅への未来予測とユーモア
2011年から始まった『猿の惑星』のリブートシリーズ第二弾にあたる『猿の惑星:新世紀』。前作の『猿の惑星:創世記』があまりに面白かったので、続編はぜひ劇場で観なくてはと思っていたら、ついうっかりして観そびれてしまった。というか、近所にいくつかあるシネコンの本作の上映時間が、観づらい時間に集中してしまって、こりゃ観れないなとなってしまった。もしかしたら客が入らなかったから、そんな仕打ちにあったのかしら? そして月日は流れ、そういえばと思い出して観てみると、やはりホントにゴメンナサイと言いたくなるほどに面白い映画だった!
この『猿の惑星』のリブートシリーズは、近年では珍しく本格的なSFに仕上がっている。そもそも60年代後半から70年代にかけて大ヒットしたオリジナルシリーズの前日譚を描くという切り口が冴えている。地球はいかにして、人間から猿が支配する惑星になっていくのか、リアルにシミュレーションしている。CG技術あっての映画だけど、やはり重要なのは脚本の重厚さ。
第一作目『~創世記』では、猿が知性を身につけるまでを説得力のあるプロットで描いた。科学者が、アルツハイマーを患う父親を治したいあまりに開発した特効薬を、猿を実験台として投与したことで、猿たちが徐々に知性的になっていくというストーリー。アルツハイマーを健常な猿たちにあてがえば、脳が活発になり、話すこともできるようになる。
知的障害をもつ青年が脳手術を受け、どんどん知的になっていく様子を一人称のレポート形式で描く、ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』から着想している。瞳の奥に知性を忍ばせる猿の首魁・シーザーを演じるアンディ・サーキスが素晴らしい!
先日、エンキ・ビラルとシャネル・ジャパンの展覧会に行った。エンキ・ビラルはフランスのバンドシネ(グラフィック・ノベル)の代表的なアーティスト。SF作家にあたる。ビラルはインタビューで「自分のジャンルはSFといわれるが、未来予測と呼んでもらえると嬉しい」と言っていた。この『猿の惑星』も完全に未来予測というジャンルだろう。
この第二作目『猿の惑星:新世紀』では、人間はほとんど壊滅状態になっている。このシリーズが一貫して描くディストピアとしての未来。猿たちはコロニーをつくり、慎ましやかな生活をしている。背筋がピンと伸びた猿族は崇高で気高くカッコイイ。イケメンゴリラも目じゃない。エンタメ作品なので、一応勧善懲悪にしなければならないが、悪役ですらカッコイイ。猿目線の映画なので、なんだか人間なんて滅んでしまえと思えてしまうから不思議。猿たちの会話は基本的には手話だが、ときどき発する英語はシンプルで意味深い。
本作では、紛争や戦争がどのような起こるのか、リアルにシミュレーションしている。これは未来予測というより、いま世界中のどこかで起こっていること。きな臭いこんな世の中だからこそ、観ていて恐ろしくなってきた。これを人間同士の戦いにしていないところに、エンターテイメントとしての意味がある。人と人が殺しあっては、陰惨すぎて観ていてへこんでしまうだけだろう。でも、結局これは猿の映画でしょ、ってところに救いがある。人間が猿のマネをしているバカバカしさが大事。この映画は、民族紛争や戦争のメタファー。ものごとを真面目に考えつつ、笑い飛ばすユーモアももっている。しかしテーマはあくまで社会風刺であり、社会への警鐘である。
この『猿の惑星』リブートシリーズは、全三部作を構想している。本格的なSFなので、かなり地味な作品。それもあってか、日本ではヒットしなかったみたいだけど、どうか次回作が実現して欲しいものです。
さてシリーズ完結編は、どんな視点で未来をシミュレートして、 どんなブラックユーモアをみせてくれるのか、とても楽しみです。
関連記事
-
『葬送のフリーレン』 もしも永遠に若かったら
子どもが通っている絵画教室で、『葬送のフリーレン』の模写をしている子がいた。子どもたちの間で
-
『アンという名の少女』 戦慄の赤毛のアン
NetflixとカナダCBCで制作されたドラマシリーズ『アンという名の少女』が、NHKで放送
-
『博士と彼女のセオリー』 介護と育児のワンオペ地獄の恐怖
先日3月14日、スティーヴン・ホーキング博士が亡くなった。ホーキング博士といえば『ホーキング
-
『とと姉ちゃん』心豊かな暮らしを
NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』が面白い。なんでも視聴率も記録更新しているらしい。たしかにこ
-
『パブリック 図書館の奇跡』 それは「騒ぎを起こしている」のではなく、「声をあげている」ということ
自分は読書が好き。かつて本を読むときは、書店へ行って、平積みされている新刊や話題作の中から、
-
『東京卍リベンジャーズ』 天才の生い立ちと取り巻く社会
子どもたちの間で人気沸騰中の『東京卍リベンジャーズ』、通称『東リベ』。面白いと評判。でもヤン
-
『愛の渦』ガマンしっぱなしの日本人に
乱交パーティの風俗店での一夜を描いた『愛の渦』。センセーショナルな内容が先走る。ガラは悪い。
-
『七人の侍』 最後に勝つのは世論
去る9月6日は黒澤明監督の命日ということで。 映画『七人の侍』を観たのは自分が10代の
-
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』その扇動、のるかそるか?
『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ『ファンタスティック・ビースト』の第二弾。邦題は『黒
-
『シンドラーのリスト』極端な選択の理由
テレビでナチスのホロコースト虐殺の特集を放送していた。なんでも相模原の養護施設で大量殺人をし