*

『シンドラーのリスト』極端な選択の理由

公開日: : 最終更新日:2016/09/28 テレビ, メディア, 映画:サ行

出典:ajshawler.blogspot.com

出典:ajshawler.blogspot.com

テレビでナチスのホロコースト虐殺の特集を放送していた。なんでも相模原の養護施設で大量殺人をした容疑者が、ナチスの優生学にならって障害者を殺害したと言ったらしい。この発言が、さらに世の中を震撼させ、世界中から注目をあびるきっかけとなった。その元となったナチスの大虐殺をまとめた番組。なにげなく観るには、あまりにヘビーな内容だ。

ホロコーストというとユダヤ人への迫害をすぐ思い浮かべる。でもその前哨には障害者や病人への大量虐殺がドイツの歴史にはあった。その次のステップがユダヤ人虐殺。優生学は、ダーウィンの進化論のなかで、劣勢の遺伝子は長い年月をかけて淘汰され洗練されていったのだという説。ならば障害をもった者や、体の不自由な者、病人は劣勢な存在だから排除してもいいという極端な考えへとナチスはもっていく。

そんな恐ろしい行いがどうしてできたか? いくらなんでもヒトラーひとりでは、そこまではできない。ドイツでは長く続いた不況に世界恐慌も重なり、国民の不満が高まっていた。多発的に人びとが凶暴になっていったらしい。ナチスドイツの暴走に至るまでは、何度もとどまるチャンスはあったらしい。気がついたら後戻りができなくなっていたとのこと。ヒトラーは、ドイツ国民のフラストレーションを利用して、まとめただけに過ぎない。

「初めて人を殺すときは大変だったが、次からは楽に殺せた。あとはいくらでも殺せた」なんてシリアルキラーの話をよく聞く。人が踏みはずすのは、案外簡単なことらしい。

 

ホロコーストの地獄を完全映像化した、スティーブン・スピルバーグの『シンドラーのリスト』。多くのユダヤ人を救った実在の実業家オスカー・シンドラーを主人公に描かれた作品。

当時スピルバーグといえば、『インディ・ジョーンズ』や『ジョーズ』のようなアクション映画や、『未知との遭遇』や『E.T.』みたいなSFモノなど、エンターテイメント映画の王様だった。ジェットコースタームービーとは、スピルバーグ映画の代名詞。楽しく軽い作風がすっかり定着していた。

スピルバーグ自身はきっとそれにコンプレックスがあったのだろう。『カラーパープル』あたりから急にシリアスな作品を作り始める。自身もユダヤ系だし、同胞がかつて虐げられた狂気の歴史を再現して、見事にアカデミー賞をゲットした。ヒット作はたくさんあれど、由緒ある賞とは無縁だったスピルバーグが、どうしても欲しかったオスカー受賞。本当によかったね。

それ以降スピルバーグは、娯楽作品と社会派シリアス作品を交互につくってきた。作風としてはまったく違ったアプローチに感じるが、やっぱりハッキリ共通するものがある。それは、作品のメインの見せ場がどんな題材でも「大虐殺場面」だってこと。

スピルバーグは、パニック映画の監督。たとえ殺戮場面がなくとも、なにかに追われる映画だったりする。不安と狂気がいつもテーマ。映画といえばポップコーンとの相性バツグンだが、スピルバーグの映画はどれも、食べ物が不味くなりそうな作品ばかりだ。今流行りの言い方すれば「ホラーポルノ・エンターテイメント」とか。

『シンドラーのリスト』のラストシーンでは、生還したユダヤ人の役者と実際モデルになった人が並んで、オスカー・シンドラーの墓に花を添えていく。現実とフィクションが重なり、観客にリアリティを与える演出。観客の心理をつかむのがうまいスピルバーグならでは。全編モノクロの映画にもかかわらず、ホロコーストを彷徨う幼い少女の赤い服だけにパートカラーを使っているのも、芸術的な映画演出技術としてあまりに有名。

 

ドイツは戦後、世界に対した行為に謝罪し続けている。ドイツの学校でも、あれは過ちだったと教育しているらしい。

意外と忘れがちなのは、第二次大戦中は日本もドイツの同盟国で、アメリカと対立していたということ。義務教育で教わっているのだけれど、なんとなくドイツのことは他人ごとのように感じてしまう。戦争は被害者にもなるし加害者にもなる。だからと言って事務的に謝罪するのだったら意味がないし、そんなだったら逆にしないほうがいい。戦争に対する考え方の、ドイツと日本での温度差が興味深い。

後戻りができないような選択をしないよう、他人任せにしない心がけは常々必要なのかもしれない。

関連記事

『虹色のトロツキー』男社会だと戦が始まる

アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGINE』を観た後、作者安彦良和氏の作品でずっと気に

記事を読む

『ハリー・ポッター』貧困と差別社会を生き抜いて

映画版『ハリー・ポッター』シリーズが日テレの金曜の夜の枠で連続放送されるのがすっかり恒例にな

記事を読む

『レクイエム・フォー・ドリーム』めくるめく幻覚の世界

「シェシェシェのシェー」と叫びながら隣人女性に危害を加えて捕まった男がいましたね。危険ドラッ

記事を読む

『そして父になる』子役にはドキュメンタリー、大人にはエチュード

映画『そして父になる』は気になる作品。 自分も父親だから。 6年間育てていた自分の息

記事を読む

『パシフィック・リム』は日本サブカルの世界進出への架け橋となるか!?

『ゴジラ』ハリウッドリメイク版や、 トム・クルーズ主演の 『オール・ユー・ニード・イズ・

記事を読む

マイケル・ジャクソン、ポップスターの孤独『スリラー』

去る6月25日はキング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンの命日でした。早いことでもう6年

記事を読む

『逃げるは恥だが役に立つ』シアワセはめんどくさい?

(C)TBS 原作/海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」(講談社「Kiss」連載)[/captio

記事を読む

メジャーだって悪くない!!『ターミネーター2』

今年の映画業界はビッグネームの続編やリメイク・リブート作で目白押し。離れてしまったかつての映

記事を読む

『ラ・ラ・ランド』夢をみること、叶えること

http://gaga.ne.jp/lalaland/[/caption] ミュージカル映画

記事を読む

『ごめんね青春!』クドカンもああみえて天才なのよね

話題の新ドラマ『ごめんね青春!』。 脚本はクドカンこと宮藤官九郎さん。 昨年『あまち

記事を読む

PAGE TOP ↑