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『THE FIRST SLAM DUNK』 人と協調し合える自立

公開日: : アニメ, 映画:サ行, 映画:ハ行, 映画館, , 音楽

話題のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』をやっと観た。久しぶりに映画館での映画鑑賞。自分はここ数年で、映画を観るために劇場まで足を運ぶことがすっかりなくなった。それもこれも、配信で観られる映画の数が多いことと、自宅にホームシアターシステムを導入したせい。自分で選びに選んだ、自宅の上映システム。ヘタな映画館へ行くよりは、リラックスして映画が楽しめるので、劇場選びで失敗することもない。まあたとえ映画館選びに失敗したとしても、それはそれで鑑賞の思い出にはなるので、一概に失敗とも言えないのだけれど。

『THE FIRST SLAM DUNK』も、配信まで待てばいいと、消極的な気持ちで年末の国内大ヒットの様子を横目で伺っていた。ただその後、この映画が韓国で公開されて大ヒットしたことが報道される。続く中国でも社会現象になるほどの観客動員のニュースが日本を賑わせた。自分は日本国内の映画情報は疑う癖がついている。宣伝が先走り、たいして面白くもない作品が話題になったりしているように感じている。国内メディアで力の強い配給会社の作品が、内容とは無関係に強引に持ち上げられているように感じずを得ない。ただ、海外で評判と聞いてしまうと、興味を持たずにはいられなくなる。世界標準という響きに弱い。

『THE FIRST SLAM DUNK』は、自分は当初まったくのノーマークだった。『鬼滅の刃』の大ヒットから、日本製のアニメが盛り上がりつつある。貧しい日本経済とは裏腹に、海外出資の力を借りて、日本のアニメが活気付いている。そもそも日本のサブカルチャーは、いままでも制作者たちはずっとやりたい企画が山ほどあった。出資する国内企業がなさすぎるのが問題。投資に金をかけられない日本経済の弱体化のあらわれ。どんどん国内のアニメスタジオが暖簾をおろしてしまった。日本一稼いでいるはずのスタジオジブリでさえ、一度解散してしまったのだからもうどうしようもない。これが失われた30年の現状。

『THE FIRST SLAM DUNK』も、ここ数年のアニメブームに乗った、軽い感じのリブート企画だと思っていた。公開直前のSNSでの作品詳細発表で、キャスト総入れ替えに反発の声があがった。原作漫画の『SLAM DUNK』やアニメ版が終了して既に四半世紀。このリブート映画がタイトルの冠に『THE FIRST』とつけているように、今までの作品から一新する表明ととっていい。声優さんも世代交代はあたりまえのこと。時代はもう変わっている。

そもそも90年代の『SLAM DUNK』のアニメは、お世辞にも出来がいいと言えるものではなかった。主題歌も当時のヒットチャートをただあてがっただけのもの。バスケと関係のない若い女性の心情を歌っていたり、曲を作った人が作品を知らないのがわかる。タイアップ重視の雑な時代背景がうかがえる。ある意味こういった姿勢が、その後失われていく経済30年の予兆だったのだろう。このアニメ版は、放映中に作品のブームが終わってしまった。原作の途中で放映打ち切りになっている。以前のアニメ版に執着する理由はどこにもない。原作がずっと人気があるので、むしろリブートすべき作品でもあった。

上映開始されると、批判されまくったこの映画が、初日から大好評。公開前の反発が嘘のよう。かなり不思議な現象。でもまだ自分は疑っていた。CG化されたアニメが自分にはどうも馴染めない。ほんとにこれ面白いの? 映画を観ると、映画はフルCGではなく、CGと手描きのハイブリット。もう2Dとか3Dとか関係ない。これは一本の映画。

ファッション性の高いスポーツであるバスケ。服の質感とか、CGならではの表現で、自分たちの記憶や想像力を刺激してくる。服の皺や、タオルの生地感も作品にとって重要な要素。

自分は石橋を叩いてもなかなか渡らない主義。SNSの評判も、エコーチェンバーが作用しているのではないかと疑うくらい。ただ、現実に社会生活をしていて映画の話題を耳にしたら、結構その情報は信じる傾向がある。リアルに身近な人からこの映画の評判を聞いて、これは観ておかなければならないと確信した。思えばコロナ前、子どもたちがバスケを始めたのをきっかけに、漫画やアニメの『SLAM DUNK』をぜんぶ観たばかりだった。

原作者の井上雄彦さん自ら監督を務めるこの映画。原作者だからできるエピソードの取捨選択の巧み。原作の主人公桜木花道が脇役になって、宮城リョータが主人公となる。そういえば原作でもリョータがメンバーの中でいちばんエピソードが少なかった。舞台となるのは、原作での大団円である山王戦。アニメ版では打ち切りで描かれなかったエピソード。原作での最終戦から映画版をスタートさせる構成の面白さ。アニメ化されていない部分を取り上げていくセンスの良さ。「バスケは好きですか?」と、花道が晴子にバスケ部に誘われるところからまた観せられてしまうのでは、正直ひじょうにまどろっこしい。

原作からのエピソードも、そのまま再現するのではない。一本の映画として成立する工夫がなされている。この映画で初めてこの作品に触れる人にも親切。音楽の使い方も最高。気持ちのいいところで盛り上がるツボを攻めてくる。原作が連載されていた90年代と、現代の価値観の違いも、上手に脚色されている。いちばんの違いは、主人公の家族がきちんと描かれているところ。

井上雄彦監督も発言していたが、原作連載当時は作者も20代。大人の言動が理解できなでいた。青年たちが親に頼らず生きていくことこそ、「自立」だと信じて描いているようだった。まるでスヌーピーの原作『PEANUTS』のように、親不在の世界。でも2022年に公開された『SLAM DUNK』の主人公リョータは、親や兄妹と向き合おうと足掻いている。

心理学でトラウマからの治療法に、過去に帰っていくものがある。幼少期に受けた心の傷と向き合い、自分を赦していく。治療の最終段階にあたるたいへんな作業。幼い自分を、いまの自分が寄り添い話を聞いて包み込んでいく。ときには一緒に泣いてあげる。本当に辛かったね、でも大丈夫だよと。井上雄彦監督の描いたこの映画のイラストで、青年のリョータが幼少期のリョータを抱き抱えているものがある。現代の心理学がさりげなく作品に取り込まれている。『THE FIRST SLAM DUNK』は、2022年の最新作として刷新されている。

主人公が変更されたことによって、原作の主人公の桜木花道だけが特別な存在でないことがわかってきた。CGになった試合の場面。メンバーの動きの個性がわかりやすい。脇役となった花道は、バスケ素人の設定通り、他のメンバーとは違う動きをしている。対戦チームも侮ってノーマークになるのがわかる。それでもちょいちょい信じられないようなプレイをみせる。ナメたら怪我をする派手なタイプ。地道に走り回るリョータと対照的。

いっけん一匹狼のように見えるリョータ。けれど彼は自分の周囲の人々と向き合い、前へ進んでいくという青春ドラマ。クライマックスで、彼の母親とガールフレンドの彩子が同時にリョータに声援を贈る場面にジーンとする。

そういえば中国のファンが、今回の映画版では、今までのヒロインだった晴子があんまり可愛くないということで論争になったらしい。でもこれは正しい。今回の主人公はあくまでリョータ。だからヒロインは彩子に他ならない。彩子が魅力的に描かれていればそれでいい。

自分はゴールデンウィーク中にこの映画を観ようとしていた。人気の作品なので、どこのシネコンでも上映されていると甘く考えていた。ネットで近所のシネコンの状況を調べてみると、どこも満席。しかも夜の興行ばかり。日中に映画を観たかったので、上映館を探すのに苦労した。公開開始から日数の経った作品は、観客が観やすい時間帯からは省かれてしまう。でもどこのシネコンも同じような時間設定では、どこへ行っても観れない人は観れないという結果になる。周囲の上映館の様子をみて、もっと個性的なスケジューリングをしてもらいたいものだ。現場へ指示を出している部署が、いちばん現場を知らないのがバレてしまう。複数の作品を同時に扱うシネコンの弊害。

休日の昼間ということもあって、劇場には小さな子ども連れの観客も多かった。でも確実に親世代の方が、この作品に対する熱量が重い。連れてこられた子どもたちは、何が何だかわからない。クライマックスの大事な静かな場面で、お菓子をバリバリ食べている音が響く。見れば小学生の子どもたち。親に無理やり連れてこられてしまったのか。どうか作品を嫌いにならないでほしいが。

井上雄彦さんの作品の登場人物たちは、恐れ知らずで、とにかくかっこいい。でもこの作品の主人公のリョータは、自分の弱さを認めている。いつも堂々としているように見えるが、本当は震えている。母親や彩子に「すごく怖かった」と本心を吐露する場面は感動的。それでも立ち向かっていくから、劇作品の人物となり物語となる。でも現実の我々は、必ずしも戦わなければならないということはない。逃げるは恥だが役にたつのが現実社会。観客ができないことを代わりに漫画の主人公たちが背負ってくれる。だから我々は彼らにシビれるのだ。

映画はオープニングからとにかくかっこいい。登場人物たちが横並びとなって迫ってくる。ロックの音楽もかっこいい。クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』のオープニングや、黒澤明監督のサムライムービーを彷彿させる。そういえば井上雄彦監督は、黒澤明監督のファンだと聞いたことがある。いつの世も闘う人物の立ち姿に、人は憧れる。なんだか黒澤映画を観直したくなってきた。映画鑑賞というものは、次の何かへつながっていくので面白い。

『THE FIRST SLAM DUNK』オリジナルサウンドトラック (通常盤/初回プレス) CD

THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE (愛蔵版コミックス)井上 雄彦

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