『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』 イベントムービーの心得

我が家では自分よりも家族の方が『呪術廻戦』が好き。その『呪術廻戦』のアニメのサード・シーズンが始まるとのことで、最初の1〜2話を映画館で先行上映するとのこと。どうせすぐ配信されるんでしょと、自分はそもそも観るつもりはなかった。家族はといえば、一刻も早く新作が観たいとのことで、子どものテスト期間が明けたら観に行こうということになった。自分も『呪術廻戦』は、家族のみんなほど熱量はなくとも、けして嫌いではない。みんなが行くなら自分も行く。他力本願な理由で映画を観ることにした。
アニメの先行上映は、その作品の熱烈なファンに向けて公開されるお祭りみたいなもの。前知識がなく、ふらっと初めてその作品に触れるには敷居が高い。それゆえに熱烈なファンが集うからこその盛り上がりもある。それはかなり楽しいものでもある。こんなにこの作品のファンがいたんだと嬉しくなる。2025年の初め、『機動戦士ガンダム』の最新シリーズ『ジークアクス』が先行上映されたときにも異常な盛り上がりがあった。あまりに話題になっているので、自分も気になって映画館へ行ってしまった。のちにテレビで放送されたものとは編集が違かったので、これはこれで観ておいて良かったと思った。だから一概に先行上映のイベントムービーを否定したりはできない。
今回の映画版『呪術廻戦』は、前回のセカンド・シーズンの『渋谷事変 特別編集版』と新作の『死滅回游 先行上映』との2部構成になっている。それでも上映時間は90分もない。これで収まるの? 前回の『渋谷事変編』もおさらいしたいし、どう編集されるのかわからないけれど、のんびり楽しもうと思っていた。上映が始まって驚いた。この『特別編集版』は、『渋谷事変篇』のハイライトシーンを繋いだものだった。物語の時系列も崩したりして、単体ではストーリーが理解できない。最初からアニメシリーズを観ていなければ、何が起こっているのかまるきりわからない。完全にいちげんさんお断り。ファンイベント用ムービーは、やはりかなり厳しい。『呪術廻戦』のエリートでなければ、この映画は楽しめない。
ハイライトシーンといえども、『呪術廻戦』は見せ場の多いアニメ。ぶつ切りで繋げられるものではない。あのシーンもこのシーンもカットされてしまった。でも重要な登場人物が退場する場面は、かなりしっかり見せてくれた。ふと、隣の席のお兄さんが、すんすん泣いてる。こんなにハイスピードの編集でも泣けるという感受性がすごい。自分はこの映像を観て、追いつくのが精一杯。「はいはいそんな場面ありましたね。あれ、そんな場面あったかな」と、かなり記憶があやしい。自分はそんなダメなファンぶり。いまこの劇場内で、ひとり追いつけてないなんて、バレたら誰かに怒られそう。
そして後半の『死滅回游 先行上映』。ほとんどのお客さんは、この新作パートがお目当て。きっとこの『渋谷事変篇』のハイライトは、『死滅回游』でまだ見せられる話数がまだないために、おまけで上映されたのだろう。確かに新作パートはありがたいが、自分は『渋谷事変』ですでにへとへとになっていた。この『特別編集版』は、あまりに展開が早すぎた。
『呪術廻戦』の登場人物で、自分と同じMBTIの登場人物は、夏油傑と乙骨憂太の2人。夏油は悪役だけれど、かつては主人公側の人物だった。学生時代の夏油傑と自分は同じMBTI。乙骨憂太は映画版『呪術廻戦0』主人公。『呪術廻戦0』は、タイトルの通り本編の前日譚にあたる。乙骨憂太も初めて登場したときと今回とでは別人のよう。同じMBTIということで、乙骨憂太は推しキャラでもある。乙骨憂太の元ネタは『エヴァンゲリオン』の主人公の碇シンジ。演じるのはどちらも緒方恵美さんなので、オマージュというよりはそのまんま。ちなみに碇シンジは『シン・ヱヴァンゲリヲン』のときと自分は同じMBTIらしい。長いシリーズものは、その時々によってキャラクターの性格が変わってしまう。乙骨憂太が初登場したときは『呪術廻戦』の世界に碇シンジが出てきたことに違和感があった。今回の乙骨憂太の再登場では、人相がすっかり変わって、挙動も別人になってしまったのでかなり面白い。状況によって多重人格になってしまうところも、同じMBTIである自分はわからないことはない。
今回の映画は、新シーズンの冒頭のみなので、当然の如く話は途中で始まり途中で終わる。物足りないところではあるが、家族みんなは大満足。2025年は『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』など、少年ジャンプ系のアニメがヒットした。その流れで『呪術廻戦』の総集編もヒットしたのだろう。だけど『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』は、劇場用にそれなりにお金と手間をかけた大作になっている。『呪術廻戦』はアニメシリーズ用につくられたものを再編集したに過ぎない。制作費は前者よりも低く見積もられている。これはつくり手にとって、かなりボロい商売なのではと頭をかすめた。家族からすぐさまそれは違うと訂正が入った。これは推し活なのだと。クオリティが劇場版クラスではないのは承知の上。これからすぐ一般配信される作品をわざわざ映画館まで観に来るという行為は、作品に対する期待と応援の意味があるとのこと。もう作品をただ与えられて観るだけの時代は終わった。観客は推し活の名のもとに、作品制作をバックアップすることが当たり前となってきた。ならばこの作品が出来上がっていく過程を、つくり手と共に観客もリアルタイムで楽しめばいい。なんともクリエイティブな楽しみ方。
『呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』 は、全米の興行収入で第4位でスタートしている。ぶつ切りのファン用のイベント作品が、一般的な興行ランキングに入り込んでくる。同時期のランクイン作品は『ズートピア2』や『ウィキッド2』だったりと、かなりの大作揃い。世界中でも日本と同じような心持ちの推し活しているファンがいるということか。映画の楽しみ方が本当に変わってしまった。世界的にも映画館へ足を運ぶ観客は減ってきていると聞く。『呪術廻戦』を今回観に来る観客の心意気はどんなものなのだろう。
アメリカのクリスマスホリデーの時期に『ズートピア2』や『ウィキッド2』などのメジャー大作がヒットするのは、例年当然のようになっている。その時期に『呪術廻戦』みたいな日本のアニメがランクインしてくる不思議。もしかしたらアメリカ人も、ホリデーシーズンにハリウッド大作を慣例のように観ることに飽きてきたのかも知れない。ディズニーやユニバーサルのような、白人がつくった企業のつくる映画に緩やかに抗う。そしてこの白人が基礎をつくったハリウッド大作のテーマが、ポリコレものというのも定番となってきてしまった。作品そのものの優劣というよりは、このパターンに一石を投じたい。エンターテイメントには反骨精神が必要だ。反骨精神からスタートしたポリコレ作品も、これだけつくられてしまうと、そのこと自体に反骨精神が疼いてくる。そうなるとそんな政治的テーマと関係のない、はるか極東の訳の分からない国でつくられた、訳の分からないアニメの方が魅力的だったりする。映画を観るときぐらい夢を見たい。現実の生きづらさと密着したエンターテイメントなんて、アメリカ人はもう観たくなくなってきているのかも知れない。
そういえば日本人の自分たちだって、ハリウッド映画や洋画が好きなのは、日本の日常をしばし忘れさせてくれるからだろう。ハリウッドのかつての名作が生まれた時代背景には、それをガス抜きさせなければならないほどの悲惨な出来事があったりする。そんなこともアメリカからはるか離れた我が国においては、あとから知らされることばかり。その映画が生まれた、シャレにならない事情。それもこれも日本からすれば対岸の出来事。どれもみな楽しいファンタジー。日本のアニメは、日本人にとってもファンタジー色が強い。人は絶えず夢を見たいと思っている。厳しい現実を揶揄する社会風刺が求められている時代は、まだ余裕があるのかも知れない。エンターテイメント作品が本当に現実離れしてしまったときは、現実に目を向けたくなくなるほどの世の中になっている可能性もある。現実には当たり障りの無さそうな日本の暴力アニメが、世界的に人気になることに意味がありそう。いつか学者の人が分析してくれるのかも知れない。今という時代がのちにどう語られていくのか。そのサブカルチャーの世界史の中に『呪術廻戦』も語られていくことが予想される。それもまた不思議な感覚だ。
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