『東京物語』実は激しい小津作品
今年は松竹映画創業120周年とか。松竹映画というと、寅さん(『男はつらいよ』シリーズ)や小津安二郎作品を真っ先に思い出す。自分が小津安二郎監督の存在を知ったのは、10代後半の頃。当時流行っていたミニシアター系の監督のヴェンダースやらジャームッシュやらが、さんざっぱら「オヅ、オヅ」と言っていたので、どんなものかと観てみた次第。言わば逆輸入。
小津作品の特徴として、特に大きな事件が劇中に起こるわけでもなく、淡々と市井の家族の日常を描いていく。独特のローアングルでの、家族の団欒の場面は語るまでもなく有名。しかも小津作品のほとんどが、家族の日常を描いたもの。出演している役者さんもほとんど同じ。名画座で、小津安二郎特集なんか組まれて、2〜3本連続して観てると、どれがどれだかわからなくなって混乱する。ちょっとしたトランス。一貫して同じテーマで同じ演出。ある意味アグレッシブでロケンロール。
小津安二郎監督には逸話も多い。
真夏の撮影でみんな汗だくになって撮影している中、小津監督だけは汗ひとつかかず、涼しい顔して演出してる。役者さんよりも汗かいてない。なんと楽屋には同じシャツが何枚もかけてあって、しょっちゅう着替えていたとか。
駅から家までの帰り道の歩数をいつも数えていて、いつもぴったりの歩数でないと気が済まないとか。
極めつけは、誕生日と亡くなった日がまったく同じ日という。
もうどこまでキチンとしてるんだか!
この小津監督のキチンとした性格が作品にも反映され、どの映画も整理整頓されたスッキリした作風。これが海外で評価される理由なのかしらん?
ふと家にある『東京物語』の脚本を掲載された書籍を読んでみる。活字で読む小津作品には、映画とあまりに違う印象の世界観があった。おばちゃんは「まったく嫌になっちゃうな!」と文句ばかり言ってるし、子供なんか「嫌だい!嫌だい‼︎」と、もううるさいの!
この激しい感情を淡々と演出することに意義があるのね。激しい感情をそのまま激しく演出していたら、無粋で魅力がなかったことでしょう。逆手の演出をするからこそ、観客に登場人物の気持ちを想像させる。ホントにアグレッシブなことをやっていたのだ! ただ静かなだけではない。
こういった高尚な演出は、今ではなかなか表現しづらいのかも知れません。今の映像は直球表現が主流だし、現代人はすっかり心の声に無頓着になってしまった。たまには小津作品でもゆっくり観て、相手の気持ちを思いやる、心のリハビリトレーニングをしてみるのも一考かな。
小津作品が静かな作風なのに面白いのは、根底にパワフルなスピリットを潜めていたからに他ならない。
関連記事
-
-
『帰ってきたヒトラー』 これが今のドイツの空気感?
公開時、自分の周りで好評だった『帰ってきたヒトラー』。毒のありそうな社会風刺コメディは大好物
-
-
『ピーターラビット』男の野心とその罠
かねてよりうちの子どもたちがずっと観たがっていた実写版映画『ピーターラビット』をやっと観た。
-
-
大人になれない中年男のメタファー『テッド』
大ヒットした喋るテディベアが主人公の映画『テッド』。 熊のぬいぐるみとマーク・
-
-
『トップガン』カッコいいと思ってたけど?
「♪ハーイウェイ・トゥ・ザ・デンジャゾーン」風にのって歌が聴こえてくる。これは……、映画『ト
-
-
『ふがいない僕は空を見た』 他人の恋路になぜ厳しい?
デンマークの監督ラース・フォン・トリアーは ノルウェーでポルノの合法化の活動の際、発言して
-
-
『かがみの孤城』 自分の世界から離れたら見えるもの
自分は原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』が好きだ。児童文学を原作に待つこのアニメ映画は、子ど
-
-
『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ
それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白くて困っている。ディズニープラ
-
-
『ダイ・ハード』作品の格をあげちゃうアラン・リックマン
去る1月14日に俳優のアラン・リックマンが亡くなった。今年に入って早々、訃報ばか
-
-
『日本沈没(1973年)』 そして第2部が始まる
ゴールデンウィークの真っ只中、twitterのトレンドワードに『日本沈没』があがった。NHK
-
-
『スーパーサラリーマン佐江内氏』世界よりも家庭を救え‼︎
日テレの連続ドラマ『スーパーサラリーマン佐江内氏』の番宣予告をはじめて観たとき、スーパーマン姿の堤真
- PREV
- 『野火』人が人でなくなるところ
- NEXT
- 『アバター』観客に甘い作品は、のびしろをくれない