*

『東京物語』実は激しい小津作品

公開日: : 最終更新日:2019/06/16 映画:タ行,

 

今年は松竹映画創業120周年とか。松竹映画というと、寅さん(『男はつらいよ』シリーズ)や小津安二郎作品を真っ先に思い出す。自分が小津安二郎監督の存在を知ったのは、10代後半の頃。当時流行っていたミニシアター系の監督のヴェンダースやらジャームッシュやらが、さんざっぱら「オヅ、オヅ」と言っていたので、どんなものかと観てみた次第。言わば逆輸入。

小津作品の特徴として、特に大きな事件が劇中に起こるわけでもなく、淡々と市井の家族の日常を描いていく。独特のローアングルでの、家族の団欒の場面は語るまでもなく有名。しかも小津作品のほとんどが、家族の日常を描いたもの。出演している役者さんもほとんど同じ。名画座で、小津安二郎特集なんか組まれて、2〜3本連続して観てると、どれがどれだかわからなくなって混乱する。ちょっとしたトランス。一貫して同じテーマで同じ演出。ある意味アグレッシブでロケンロール。

小津安二郎監督には逸話も多い。
真夏の撮影でみんな汗だくになって撮影している中、小津監督だけは汗ひとつかかず、涼しい顔して演出してる。役者さんよりも汗かいてない。なんと楽屋には同じシャツが何枚もかけてあって、しょっちゅう着替えていたとか。
駅から家までの帰り道の歩数をいつも数えていて、いつもぴったりの歩数でないと気が済まないとか。
極めつけは、誕生日と亡くなった日がまったく同じ日という。
もうどこまでキチンとしてるんだか!

この小津監督のキチンとした性格が作品にも反映され、どの映画も整理整頓されたスッキリした作風。これが海外で評価される理由なのかしらん?

ふと家にある『東京物語』の脚本を掲載された書籍を読んでみる。活字で読む小津作品には、映画とあまりに違う印象の世界観があった。おばちゃんは「まったく嫌になっちゃうな!」と文句ばかり言ってるし、子供なんか「嫌だい!嫌だい‼︎」と、もううるさいの!

この激しい感情を淡々と演出することに意義があるのね。激しい感情をそのまま激しく演出していたら、無粋で魅力がなかったことでしょう。逆手の演出をするからこそ、観客に登場人物の気持ちを想像させる。ホントにアグレッシブなことをやっていたのだ! ただ静かなだけではない。

こういった高尚な演出は、今ではなかなか表現しづらいのかも知れません。今の映像は直球表現が主流だし、現代人はすっかり心の声に無頓着になってしまった。たまには小津作品でもゆっくり観て、相手の気持ちを思いやる、心のリハビリトレーニングをしてみるのも一考かな。

小津作品が静かな作風なのに面白いのは、根底にパワフルなスピリットを潜めていたからに他ならない。

関連記事

no image

『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?

  岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。

記事を読む

no image

『坂本龍一×東京新聞』目先の利益を優先しない工夫

  「二つの意見があったら、 人は信じたい方を選ぶ」 これは本書の中で坂本龍

記事を読む

『博士と彼女のセオリー』 介護と育児のワンオペ地獄の恐怖

先日3月14日、スティーヴン・ホーキング博士が亡くなった。ホーキング博士といえば『ホーキング

記事を読む

no image

『幕が上がる』覚悟の先にある楽しさ

  自分はアイドル文化や萌えとかよくわからない。だから『ももいろクローバーZ』の存在

記事を読む

『ベルサイユのばら(1979年)』 歴史はくり返す?

『ベルサイユのばら』のアニメ版がリブートされるとのこと。どうしていまさらこんな古い作品をリメ

記事を読む

no image

『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は諸刃の刃

  ジェイムズ・キャメロン監督が放った愛すべきキャラクター『ターミネーター』。何度も

記事を読む

『タイタニック』 猫も杓子も観てたの?

ジェームズ・キャメロン監督で誰もが知っている『タイタニック』の音楽家ジェームズ・ホーナーが飛

記事を読む

『ヒックとドラゴン』真の勇気とは?

ウチの2歳の息子も『ひっくとどらぽん』と 怖がりながらも大好きな 米ドリームワークス映画

記事を読む

『ひとりでしにたい』 面倒なことに蓋をしない

カレー沢薫さん原作のマンガ『ひとりでしにたい』は、ネットでよく読んでいた。そもそもカレー沢薫

記事を読む

『トップガン』カッコいいと思ってたけど?

「♪ハーイウェイ・トゥ・ザ・デンジャゾーン」風にのって歌が聴こえてくる。これは……、映画『ト

記事を読む

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

『大長編 タローマン 万博大爆発』 脳がバグる本気の厨二病悪夢

『タローマン』の映画を観に行ってしまった。そもそも『タローマン

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

→もっと見る

PAGE TOP ↑