*

『アバター』観客に甘い作品は、のびしろをくれない

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:ア行, 音楽

ジェイムズ・キャメロン監督の世界的大ヒット作『アバター』。あんなにヒットしたのに、もう誰もそのタイトルを口にしない。あたかも作品自体が封印されたかのようだ。まあ、続編も準備中らしいので、それが動き出したらまた騒ぎになることだろうけど。

ジェイムズ・キャメロンはホントに観客が好む要素や話題性を作品に取り込むのが上手い。当時3D映画といえば、CGアニメ作品のみだった。3D映画には興味はあれど、如何せんおっさんが子ども向けアニメ作品を観るのは勇気がいる。今なら子どもをダシにして映画へ連れて行って、自分の方が楽しむんだけど。さて、実写映画でこの3D技術を取り入れてくれたら、無条件で観に行くのに!と思っていた矢先の『アバター』だった。

ジェイムズ・キャメロン作品は、映画ファンはもちろんだけど、普段映画を観ないような人たちを劇場に足を運ばせる。たとえ普段映画を観るとしても、レンタルやテレビで観るというタイプの観客を動かすのだ。映画好きの自分としては、映画は劇場で観るものだと考えている。時間や手間暇かけて映画は観るもの。どこの劇場でみたか、どんな客がいたか、誰と行ったか……。それらを通して初めて映画鑑賞だと思う。ビデオは見逃した時の代替でしかない。

先日、ウチの小さなちびっこ達に、そろそろナマの舞台を観せてあげたいね~なんて話をしていた。演劇鑑賞はウチにはとんでもない贅沢。作品選びは慎重に決めなくては! やっぱりミュージカルでしょ、劇団四季でしょ。自分は絶対『ライオン・キング』推し。妻は『キャッツ』が良いと言う。『ライオン・キング』はディズニー映画が原作だし、わかりやすい。もちろん楽曲も演出も素晴らしい。ただ、ここまで作り手がお膳立てしてくれると観客は完全に受け身になってしまう。『キャッツ』はストーリー性よりも楽曲や感覚的な演出をしている。こういった感想がひとことで言い表せられないような作品を初めて観た方が、後でいろいろ考えて調べるのではないかと。これと言い切らない作品の方が、観客の想像力を育んでくれる。

自分のように、日々いろいろ観あさっている人間からすれば、分かりやすい作品だろうがなんだろうが、多くの作品の中の一作品にすぎない。しかし、観客に甘過ぎる作品ばかり観ていると、感性が逆に衰えてしまう危険性がある。そうして麻薬のように、居心地の良い作品ばかりを選んで、自分の殻に閉じこもっていく。

ジェイムズ・キャメロン作品の魅力も正にそれ。『アバター』や『タイタニック』だけが映画だと決めてしまうと、もう他の作品の良さが見つけられなくなる。感性の劣化。

でも、ジェイムズ・キャメロン作品は、悔しいけどいつも面白い。本当に良質のエンターテイメントだ。『アバター』公開から随分経つけど、あれ以来劇場で映画を観ていない『自称映画ファン』もさぞかし多いことだろう。もちろん映画は本数を観ればいいというものではまったくない。創作作品との距離は非常に難しい。

まあ自分にとっては『アバター』も、たくさんある愛すべき作品のひとつだろう。こんなに特別大ヒットしたのは、いまだに不思議だと思ってるけど。

関連記事

『エレファント・マン』 感動ポルノ、そして体調悪化

『エレファント・マン』は、自分がデヴィッド・リンチの名前を知るきっかけになった作品。小学生だ

記事を読む

『思い出のマーニー』 好きと伝える誇らしさと因縁

ジブリ映画の最新作である『思い出のマーニー』。 自分の周りでは、女性の評判はあまり良くなく

記事を読む

『アナと雪の女王』からみる未来のエンターテイメント

『アナと雪の女王』は老若男女に受け入れられる 大ヒット作となりました。 でもディズニ

記事を読む

『わたしを離さないで』 自分だけ良ければいい世界

今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ原作の映画『わたしを離さないで』。ラブストーリ

記事を読む

『ブレードランナー2049』 映画への接し方の分岐点

日本のテレビドラマで『結婚できない男』という名作コメディがある。仕事ができてハンサムな建築家

記事を読む

no image

『CASSHERN』本心はしくじってないっしょ

  先日、テレビ朝日の『しくじり先生』とい番組に紀里谷和明監督が出演していた。演題は

記事を読む

『async/坂本龍一』アートもカジュアルに

人の趣味嗜好はそうそう変わらない。 どんなに年月を経ても、若い頃に影響を受けて擦り込ま

記事を読む

『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』 スターの魂との距離は永遠なれ

デヴィッド・ボウイの伝記映画『ムーンエイジ・デイドリーム』が話題となった。IMAXやDolb

記事を読む

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』 サブカルの歴史的アイコン

1995年のテレビシリーズから始まり、 2007年から新スタートした『新劇場版』と 未だ

記事を読む

『アナと雪の女王2』百聞は一見にしかずの旅

コロナ禍で映画館は閉鎖され、映画ファンはストレスを抱えていることだろう。 自分はどうか

記事を読む

『PERFECT DAYS』 俗世は捨てたはずなのに

ドイツの監督ヴィム・ヴェンダースが日本で撮った『PERFECT

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー volume 3』 創造キャラクターの人権は?

ハリウッド映画のスーパーヒーロー疲れが語られ始めて久しい。マー

『ショーイング・アップ』 誰もが考えて生きている

アメリカ映画の「インディーズ映画の至宝」と言われているケリー・

『ゴールデンカムイ』 集え、奇人たちの宴ッ‼︎

『ゴールデンカムイ』の記事を書く前に大きな問題があった。作中で

『フェイブルマンズ』 映画は人生を狂わすか?

スティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的映画『フェイブルマンズ』

→もっと見る

PAGE TOP ↑