*

『槇原敬之』自分ではダメだと思っていても……。

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 音楽

 

今年は槇原敬之さんのデビュー25周年ということ。自分が槇原敬之さんの存在を知ったのは中学生の頃。当時槙原さんは高校生。自分にとっては数年年上のお兄さん。当時坂本龍一さんがMCを務めていたNHK-FM『サウンドストリート』火曜日の番組コーナーにあった『デモテープ特集』という、素人のリスナーからデモテープを集うというもので、素人時代の槙原少年が応募採用されていたもの。デモテープの内容はオリジナルの楽曲をプレゼンするものから、これ面白いねという音源を送ってきたりと、どんなものが紹介されるか分からないというかなり挑戦的な内容。槙原さんの他にも素人時代のテイ・トウワさんもデモテープを送っている。槙原さんが送ったのは自身が作詞作曲したオリジナル曲。これ坂本さんも大絶賛。自分も数歳年上なだけでこれだけのものができてしまうんだ〜と、その天才的な才能の凄さがあまりわからずにいました。

槇原敬之さんはときどきインタビュー番組に出演するが、いつも話が面白い。なんでも小さい時、お姉さんが通っていたピアノ教室に自分も行きたいと、ねだってピアノを始めたそうです。今でこそ男の子がピアノをやるのは普通なことだけど、当時は友達にも「男のくせにピアノなんかやって」と悪いく言われていたらしいです。それでもピアノが楽しくて仕方なかったと。好きこそものの上手なれとはまさにこれ。後にこんなに開花するとは!!

『どんなときも。』は槇原敬之さんの出世作。この曲のサビ部分「どんなときも〜、どんなときも〜」のところが浮かんだとき、自身では「なんてダサいフレーズなんだ」と感じて一蹴しようとしたら、スタッフに「これいいじゃない。もっと聴かせて」と言われて曲にしたそうです。そして大ヒット。槙原さんは自分の感覚が信用できなくなって困惑したそうです。結局ヒットなんてそんな偶然で生まれる。

自分もよくあるのですが、作り手が「これは」と思って出したものが案外相手には届かず、なんとなしに作ったものの方が評価されたりすることがあります。ものづくりをすればするほどそういった機会が増えていきます。自分の思い入れと、第三者の評価は必ずしも同じではないということ。そうなると思い入れるだけそのパワーがもったいなく感じてしまう。思い入れがなければいいものも出来ないし、思い入れ過ぎると先にも進めない。これがプラスとなるかマイナスとなるか、分かれ道がよくわからない。

努力に努力を重ねた作品より、その努力のあとでフッと力を抜いたところに、良いものが生まれたりするもの。作り手としてはどんどん追求していくべきだが、商業作品となるとお客商売。高尚すぎるものは難しくて受け入れてもらえない。この微妙なバランス。安っぽい大衆ウケするものばかり追求していては、底もすぐ尽きるだろう。創作の努力はやはり惜しんではいけない。その努力の結果は本人の意図しない意外なところで芽が出たりするから、人生はやはりわからないものです。

 

関連記事

『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?

日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴史とか政治とか、それに便乗した

記事を読む

『シング・ストリート』 海の向こう、おなじ年代おなじ時代

映画『シング・ストリート』は、事前にかなりの評判を耳にしていた。「はやくも今年ナンバーワンの

記事を読む

『逃げるは恥だが役に立つ』 シアワセはめんどくさい?

「恋愛なんてめんどくさい」とは、最近よく聞く言葉。 日本は少子化が進むだけでなく、生涯

記事を読む

no image

『うつヌケ』ゴーストの囁きに耳を傾けて

  春まっさかり。日々暖かくなってきて、気持ちがいい。でもこの春先の時季になると、ひ

記事を読む

『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』 スターの魂との距離は永遠なれ

デヴィッド・ボウイの伝記映画『ムーンエイジ・デイドリーム』が話題となった。IMAXやDolb

記事を読む

『アーロと少年』 過酷な現実をみせつけられて

く、暗いゾ。笑いの要素がほとんどない……。 日本のポスタービジュアルが、アーロと少年ス

記事を読む

『ミニオンズ』 子ども向けでもオシャレじゃなくちゃ

もうすぐ4歳になろうとしているウチの息子は、どうやら笑いの神様が宿っているようだ。いつも常に

記事を読む

『ベイビー・ブローカー』 内面から溢れ出るもの

是枝裕和監督が韓国で撮った『ベイビー・ブローカー』を観た。是枝裕和監督のような国際的評価の高

記事を読む

no image

『葉加瀬太郎』と子どもの習い事

何でも今年は葉加瀬太郎さんのデビュー25周年らしいです。まだ『クライズラー&カンパニー』がそ

記事を読む

『ベニスに死す』美は身を滅ぼす?

今話題の映画『ミッドサマー』に、老人となったビョルン・アンドレセンが出演しているらしい。ビョ

記事を読む

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

→もっと見る

PAGE TOP ↑