*

『坂の上の雲』呪われたドラマ化

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 ドラマ, 映画:サ行, 音楽

 

今なお根強い人気がある司馬遼太郎氏著の『坂の上の雲』。秋山好古と真之兄弟と正岡子規の三人を主人公にした日露戦争時代の史実を基にした物語。NHKで大河ドラマの枠で3年にわたって放送された。大河ドラマと言えば1月の新春から12月の年末まで丸々一年間、ひとつの作品を放送するものだったが、この三年間だけは例年より1ヶ月早い11月に終了して、後の1ヶ月は『坂の上の雲』を放送した。1シーズンを終える度、続きは一年後だけど覚えていられるかな~と思ったが、なんの問題もなく三年が過ぎていった。

このドラマ化は実は以前から何度もウワサされていて実現に至らなかった。司馬遼太郎氏には連載中からドラマ化の打診がされていたのだが、司馬氏が「戦争賛美と誤解されるから」と映像化を拒み続けていた。司馬氏が亡くなりNHKは再度映像化を求め、誠意を尽くすカタチにするという約束のもと野沢尚氏の脚本でドラマ化が進む。野沢尚氏といえば、自分が執筆のまねごとをしていた頃、素人脚本家のコンペティションのメイン審査員をされていた。ご自身もこのコンペティションでの受賞がきっかけでプロの道に入ったということもあってか、かなり新しい才能を伸ばそうと尽力してくれていました。その野沢尚氏の自殺によりこのドラマ化はしばらく頓挫することとなる。殆どが野沢尚氏が生前書き上げていたそうだが、それが共同執筆となりドラマ化、結果としては名作となった。音楽は久石譲氏、主題歌はサラ・ブライトマン、ナレーションは渡辺謙さん。出演は本木雅弘さんや阿部寛さん、香川照之さん、菅野美穂さんと華やかな青春群像劇としてとても面白い作品だった。

当時の歴史観を描くため、時としてこの主人公達が活躍しない場面も多々ある。203高地の場面などとくに印象に残る。ロシアとの戦いで、そもそも突破は不可能な無理難題の作戦。それを強行して日本が制覇するわけだが、そこには多くの兵の死があってのこと。ここではメインキャラクターが登場しないので、多くの死がなんとなく抽象的に描かれている。戦争の作戦では、いくら人が死のうとも作戦が遂行されればそれは美談となる。無茶な命令を出した指揮官は、のうのうと天寿を全うする。作中でサラリと描いているが故、戦争は美しいものではなく、醜くむごたらしいものということがぼかされてしまう。司馬遼太郎氏の懸念はここにあるのだろう。

人気作にも関わらず、なかなか映像化が実現しなかった『坂の上の雲』。安易に触れてはいけないテーマが作中に孕んでいて、あたかも呪いのようにドラマ化を阻止しようとする力が作用したのかも知れない。

関連記事

『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者

御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時

記事を読む

『aftersun アフターサン』 世界の見え方、己の在り方

この夏、イギリス映画『アフターサン』がメディアで話題となっていた。リピーター鑑賞客が多いとの

記事を読む

no image

『ファインディング・ドリー』マイノリティへの応援歌

  映画はひととき、現実から逃避させてくれる夢みたいなもの。いつからか映画というエン

記事を読む

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』映画監督がアイドルになるとき

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの監督ジェームズ・ガンが、内定していたシリーズ

記事を読む

『勝手にふるえてろ』平成最後の腐女子のすゝめ

自分はすっかり今の日本映画を観なくなってしまった。べつに洋画でなければ映画ではないとスカして

記事を読む

no image

キワドいコント番組『リトル・ブリテン』

  『リトル・ブリテン』という イギリスのコメディ番組をご存知でしょうか?

記事を読む

no image

『DENKI GROOVE THE MOVIE?』トンガリ続けて四半世紀

  オフィス勤めしていた頃。PCに向かっている自分の周辺視野に、なにかイヤなものが入

記事を読む

no image

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』集え、 哀しい目をしたオヤジたち!!

  『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』はマーベル・ユニバースの最新作。『アベン

記事を読む

『スター・ウォーズ/スカイ・ウォーカーの夜明け』映画の終焉と未来

『スターウォーズ』が終わってしまった! シリーズ第1作が公開されたのは1977年。小学

記事を読む

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 日本ブームは来てるのか?

アメリカで、任天堂のゲーム『スーパーマリオブラザーズ』を原作にしたCGアニメが大ヒット。20

記事を読む

『ケイコ 目を澄ませて』 死を意識してこそ生きていける

『ケイコ 目を澄ませて』はちょっとすごい映画だった。 最

『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ

それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白

『アメリカン・フィクション』 高尚に生きたいだけなのに

日本では劇場公開されず、いきなりアマプラ配信となった『アメリカ

『不適切にもほどがある!』 断罪しちゃダメですか?

クドカンこと宮藤官九郎さん脚本によるドラマ『不適切にもほどがあ

『デューン 砂の惑星 PART2』 お山の大将になりたい!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『デューン

→もっと見る

PAGE TOP ↑