『インサイド・ヘッド』むずかしいことをゆかいに!!
ピクサーの2015年作品『インサイド・ヘッド』。ものすごい脚本だな〜、と感心してしまう映画。脳科学が流行っているから、それをファンタジーとして描こうという、とても地味なテーマ。ライリーという11歳の女の子の頭の中で、様々な感情が会議して行動を決めているというお話。普通なら企画の段階で、「わけがわからない」と一蹴されてしまいそう。でも、ピクサーの過去の実績の信頼あってこそ、この映画は実現化できたのかも知れない。ピート・ドクター監督作品で、ピクサーでは常連の男性監督。でもとても女性的な感性が作品全体に漂っている。Blu-rayの特典映像で、やはり女性中心のスタッフ編成だったのがわかった。作っている人が男か女か、観ていると伝わるのは不思議だ。
11歳の少女の頭の中を描いた本作、シナリオ制作会議はさぞかし盛り上がったのではないかと想像できる。人間の脳の中を映像化する。原作は脳科学。野暮な描き方をすれば、理屈っぽかったり、感情達がホストであるライリーの行動をジャッジするだけの高見の見物にもなりかねない。ここでの感情はヨロコビとカナシミ、イカリとムカムカ、そしてビビリの5種類。脳の司令塔で5人(?)の感情達は、ライリーの外的内的問題に、どう対応していくか会議して、行動へと移す。チームリーダーはヨロコビ。『チーム・ハッピー』と自分たちを呼んでいる。そう、使命はライリーを幸せにすること。この5人(?)の感情達、ヨロコビ以外はみんなネガティブ感情じゃない? しかもカナシミはネガティブの極みとして描かれている。カナシミの存在理由は一体何?というのが物語のテーマ。一見ネガティブにみえるものも、重要な存在理由があるって。
ヨロコビとカナシミという相反する感情が、司令塔から放り出されます。司令塔へ戻る冒険の旅の途中、ビンボンという、ライリーの空想の友達に出会います。「空想の友達」、あわわヤバいヤバい。そんなのが頭の中にいると、実生活に弊害が起こりそう。しかも容姿のデザインはピンクの象。ピンクの象はディズニー映画では狂気の象徴。『ダンボ』が酔っぱらったときにピンクの象が踊ってた。『くまのプーさん』がハチミツがなくて禁断症状になったときもピンクの象の幻覚みてた。どうもピンクの象は厄介な存在だ。そんなキャラクターやギミックのすべてが、脳科学に基づいているので、面白おかしいアトラクション的な演出を楽しんでいるうちに、観客自身の頭のつくり、心のつくりが、すんなり理解できる。
子ども達にはさぞかし難しい内容かと思いきや、ウチの小さな子ども達は、ちゃんと内容を理解して楽しんでいた。これには本当に制作者の努力が伺える。子ども達は意外にもメインのキャラクター・ヨロコビにはあまり興味を示さなかった。ポジティブ全開、直球のキャラクターより、すこしクセのある他のキャラクターの方が魅力的だったみたい。映画の描き方も、ポジティブなヨロコビが突き進むと、なんだか息切れして疲れちゃうようにも感じさせている。
脳の司令塔のリーダーは、人によって千差万別。カナシミがリーダーだったり、イカリがリーダーだったりする。それがその人の性格の個性。アメリカの映画だから、ポジティブなヨロコビがメインになったのだろう。きっと日本人の国民性としてはカナシミの方がしっくりきそうだな〜と、映画を観て感じた。一見ネガティブにみえてしまう心癖だけど、カナシミも悪くないと思えてくる。脳科学は面白い!!
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことをあくまでゆかいに」とは作家の井上ひさしさんの有名な言葉。この映画はまさにこれを実践している。映画をみんなで鑑賞したあとで、各々の脳の司令塔のリーダーは誰なのか、話し合うのも面白いかも。
関連記事
-
『E.T.』 母子家庭の不安のメタファー
今日はハロウィン。 自分はこの時期『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』より 『E.T.』
-
『インターステラー』 いつか神仏の存在も科学で証明されるだろう
SF映画『インターステラー』はヒットはしないだろう。 けれども今後数十年語り継がれる作品に
-
『君たちはどう生きるか』 狂気のエンディングノート
※このブログはネタバレを含みます。 ジャン=リュック・ゴダール、大林宣彦、松本零士、大
-
『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』 ヴィランになる事情
日本国内の映画ヒット作は、この10年ずっと国内制作の邦画ばかりがチャートに登っていた。世界の
-
社会風刺が効いてる『グエムル ー漢江の怪物ー』
韓国でまたMERSが猛威を振るっていると日々の報道で伝わってきます。このMERS
-
王道、いや黄金の道『荒木飛呂彦の漫画術』
荒木飛呂彦さんと言えば『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの漫画家さん。自分は少年ジ
-
『ミニオンズ』 子ども向けでもオシャレじゃなくちゃ
もうすぐ4歳になろうとしているウチの息子は、どうやら笑いの神様が宿っているようだ。いつも常に
-
『ローレライ』今なら右傾エンタメかな?
今年の夏『進撃の巨人』の実写版のメガホンもとっている特撮畑出身の樋口真嗣監督の長
-
『のだめカンタービレ』 約束された道だけど
久しぶりにマンガの『のだめカンタービレ』が読みたくなった。昨年の2021年が連載開始20周年
-
『あしたのジョー』は死んだのか?
先日『あしたのジョー』の主人公矢吹丈の ライバル・力石徹役の仲村秀生氏が亡くなりました。
- PREV
- 『ドラえもん のび太の宇宙英雄記』 映画監督がロボットになる日
- NEXT
- 『間宮兄弟』とインテリア