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『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』夢を現実にした最低で最高の男

公開日: : アニメ, メディア, 映画:ア行,

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芸能界は怖いところだよ。よく聞く言葉。
本書は『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーで、実質的な生みの親である西崎義展氏の人生を綴っている。

『宇宙戦艦ヤマト』は、SFアニメブームの先駆けの作品。当時アニメは子どものためのものという概念を吹き飛ばしたらしい。このアニメの放送時は自分はまだ未就学児。幼心に「大人がアニメを観るなんて、ヘンなの」と思っていた。幼稚園でも、ヤマトは子どもより親が観ているアニメというので、園児仲間でも話題にしていた。さぞかし難しい内容なのかと思いきや、さにあらず。本書の言葉を借りれば、戦艦を宇宙に飛ばすという、小学生でも浮かぶアイデアを、大の大人が大まじめに語り合い、実現することに意味があったのだろう。

本書は西崎義展氏の人となりを赤裸々に記している。それこそ『宇宙戦艦ヤマト』という作品を心から愛し、その映像化に全身全霊をかけた。カネやオンナに溺れ、資金繰りのためなら政治家でも宗教団体でもなんでも利用する。暴力団にも臆することはない。それらがほぼほぼ実名で載っている。西崎氏は銃刀法違反や覚せい剤で逮捕もされている。多少の不正など、己のヤマトのためなら気にもしないといったところか。

家庭を顧みず、愛人を何人も抱えていながら、「お前は愛のために死ねるか!」としゃあしゃあと言える図太さ。そりゃあひとつの社会現象も起こせるだろう。人事を強引に尽くして、天命とも言えるか時代の追い風を受け、一大ヤマトブームの奇跡を呼び起こす!

読み進めるうちに、なんだか戦国武将の伝記でも読んでいるかのような勇ましさで楽しくなる。もちろんその先の顛末には、破滅が待っているのは重々承知。

当時もアニメやマンガを志す人たちは、夢に夢みて集まっていた。良くも悪くも世間知らずでお人好し。そんななかに、無頼漢の西崎氏が入り込むのは容易いことかもしれない。

音楽の才覚はあれど、アニメは素人。芸術的センスはある。審美眼もある。カネを作る才能もある。そこに怖いもの知らずの度胸。周りにいた人はたまったものではない。でも、だからこその成功。

映画版の冒頭、音楽だけがかかっている宇宙空間の映像を延々みせられる。当時では珍しいステレオ音響。なかなかストーリーが進まない。音楽に力を入れているから、楽曲を聴かせたい! そんなセオリーからズレた演出も、素人ならではのヘタウマの世界。

ただ奇跡はそうそう起こるものではない。人気にあやかり、幾度も続編が作られたヤマト。前作で死んだキャラクターが、新作では何事もなく生きていたり、ストーリーの破綻に、子どもだった自分でさえ苦笑いしていた。うまくいっていない裏事情は、そのまま作品に反映される。遺作となった『復活編』では、もう時代遅れのセンスは否めない。でもよくぞつくったものだと、70代の西崎氏の生命力の底力は確かに感じた。

『復活編』の不発の直後の西崎氏の事故死。誰もが、何者かに消されたのではと疑ったのは記憶に新しい。

日本は個人の成功はなかなか認めない。そのなか、作品への愛情だけで突っ走ったロクデナシの天才。作品の成功は、いかに作り手がその作品を愛しているか、情熱にかなうものはない。「オレが好きなんだから、お前も好きに決まってる!」という強引さ。それほど作り手に愛された作品はそうそうない。

例えばスタジオジブリの成功も、プロデューサーの鈴木敏夫氏が、いかに宮崎駿監督の作品のファンだという熱量が、ここまで国民的ブランドへ伸し上げたのだろう。だからこそ宮崎駿監督が引退宣言すれば、スタジオジブリがのれんを下ろすのも至極当然。

作品を作るという夢の作業は、現実の世界で行われる。そこにないものをカタチにするのは、いばらの道。きれいごとではすまされない。理想の美しいものを描くには、自分が汚れる覚悟も必要なのかもしれない。

夢見る夢子や夢男に、夢から叩き起こさせるほどの威力がありそうなパンチの効いた本だった。

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