*

『藤子・F・不二雄ミュージアム』 仕事の奴隷になること

公開日: : 最終更新日:2021/05/21 アニメ,

先日、『藤子・F・不二雄ミュージアム』へ子どもたちと一緒に行った。子どもの誕生日記念の我が家のイベント。ミュージアムに行った日の前日にあたる9月23日は、偶然にも藤子・F・不二雄さんの命日。なにか縁を感じてしまう。藤子・F・不二雄さんは62歳で亡くなられている。平均寿命が延びている日本では、まだまだの若さ。残念と思えてならない。

自分が『藤子・F・不二雄ミュージアム』へ行ったのはこれで二回目。以前行ったのはオープンしたてのころ。藤子・Fさんの代表作『ドラえもん』の誕生日の設定である9月3日がオープンの日。今年は5周年とのこと。時の経つのははやい。上の子はまだ幼稚園にも行ってなかったのに、今では小学生。下の子はお腹の中にいた。身重の妻と3人で行ったのが、今回は家族4人連れ。あの日も雨だったが、今回も雨。ミュージアムの周りの緑からは、マイナスイオンが溢れていた。

今回強く感じたのは、海外からのお客さんが多くなったこと。いま、あらゆる日本の産業が弱まっているなか、観光業だけは元気なのだとあらためて実感した。

ミュージアムの中には、藤子・F・不二雄さんの原画や、作品のオブジェがたくさんあり、リアルタイムで作品に触れた大人はもちろん、『ドラえもん』以外はよくわからない子どもたちにも楽しめる工夫がされている。ウチの子たちも、初めて出会う『オバケのQ太郎』や『チンプイ』に、ひと目で心を奪われていた。藤子・Fさんの作品の魅力は、ストーリーの奥深さたけではなく、可愛らしいキャラクターの存在も大きい。

ミュージアム内でかかっていたビデオで、藤子・Fさんが、ファンの子どもに質問されている場面があった。「先生はドラえもんに夢を叶えてもらうなら、どんな道具が欲しいですか?」「そうだな〜、マンガのアイディアがどんどん浮かぶ道具が欲しいかな?それと絵がスラスラ描ける道具かな?」って、仕事のことばかりかいっ⁉︎

藤子・Fさんは、本当に仕事にのめり込んで、太く短い人生を送ったのだろう。いちファンとしては、もっと長生きして、たくさんの作品をみせて欲しかったけど、これだけハードに作品づくりに携わっていたことを目の当たりにすると、命をへずって創作されているのがわかる。実際、藤子・Fさんは、机に向いペンを握ったまま亡くなっている。

 

自分も仕事で、様々な職人さんと知り合うことがある。彼らの仕事に対するプライドや、華麗な手さばきを見ているとゾクゾクさせられる。「日本の技術は最高だ。他の国では絶対にマネできない。同じ道具でも、日本人は世界でいちばん上手に使いこなせる。日本製品は必ず選ばれる」職人さんたちは語る。

実際に海外で作られた同じ製品をみると、明らかに雑なつくりなのがわかる。比べたら一目瞭然。長く使うものなら日本製の方がいいに決まってる。日本人は良い製品に慣れている。海外の作り手から言わせれば、「最低限問題がないんだからいいんじゃないの?」って当然のように言う。良品が当たり前の日本人からすると、なんだか腑に落ちない。

このメイド・イン・ジャパンの良品たちは、職人さんたちが365日24時間、仕事のことばかり考えて、人生のすべてを捧げてきたことの成果。海外の雑なつくりの製品と、できの良い日本製品。同じ値段なら、良品を選ぶけど、もしパフォーマンスに見合う値段をそのまま請求されたら、二流三流品でも構わないのでは?と、自分が選ぶ立場ならシビアに考えてしまう。

日本の職人さんやバイヤーたちが、精度にこだわり続けて、国内製品に対してどんどん厳しい目になっていく。内容よりもカタチ重視。相手の重箱つつく目ばかり肥えていく。実はこの視点は海外の人からみたら、どーでもいいところ。ここまでマニアックな視点は、エンドユーザーにはあまり伝わらない。お客さんがわからないところを突き詰めるサービスってなに? 日本人は国内で、自分たちの首を絞めあい、苦しくなっていく。これでは海外のニーズにはなかなか目がいかない。

職人さんが誇らしげに語る、日本製品の素晴らしさの影にある犠牲。高度成長期ならまだしも、それなりの代価がもらえない現代では、残念だけど時代錯誤。後継者もなかなかつかない。彼らが人生で犠牲にしたものの代償はいかに? 成功の美談は語られることはあっても、失ったものが語られることはほとんどない。

 

今の日本映画のヒットチャートではアニメ作品が連立している。ただこれも国内完結型のマーケット。作品のテーマも、人生の忘れ物や、己の非力に対する言い訳めいたものなので、日本人独特のもの。開いていくのではなく、閉じていく作風。これは海外進出には向いてない。海外でも客層はマニア向け。

「こんなことになるなら、もっとはやいうちに辞めてたな」なんて、アニメやマンガの世界のベテランがボヤいていたりする。

そもそも歴史の浅いアニメやマンガは、他の業界から流れてきた作家で誕生している。新しい表現をしたくて集まってきた連中だ。絵もかけて物語が書けるという、天才的な能力を要求された。日本マンガの黎明期、藤子・Fさんがいたトキワ荘のメンバーも、マンガだからとなめられないよう、切磋琢磨し合っていたのがわかる。

いつしかこのジャンルは、あるカタチに定着した。アニメやマンガを目指す者は、アニメやマンガしか興味がない者ばかりとなった。その業界でガラパゴスするのは当然の流れ。楽屋落ちのいちげんさんお断りのジャンルになった。

奇しくも海外では、藤子・Fさんたちの作家的スピリットを継承した作品が続々と生まれている。アメリカのディズニーから始まったアニメは、日本を経由して、やはりアメリカに帰って行ったようだ。

仕事の奴隷になった人生、仕事の奴隷にならないと生きていけない日本社会。棺桶に片足突っ込んだとき、果たして自分はどう思うのか? イメージしながら生きていくことも大事だと常々考えている。

関連記事

no image

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ある意味これもゾンビ映画

『スターウォーズ』の実写初のスピンオフ作品『ローグ・ワン』。自分は『スターウォーズ』の大ファンだけど

記事を読む

no image

『団地ともお』で戦争を考える

  小さなウチの子ども達も大好きな『団地ともお』。夏休み真っ最中の8月14日にNHK

記事を読む

no image

『バウンス ko GALS』JKビジネスの今昔

  JKビジネスについて、最近多くテレビなどメディアで とりあつかわれているような

記事を読む

no image

『坂本龍一×東京新聞』目先の利益を優先しない工夫

  「二つの意見があったら、 人は信じたい方を選ぶ」 これは本書の中で坂本龍

記事を読む

no image

『オネアミスの翼』くいっっっぱぐれない!!

  先日終了したドラマ『アオイホノオ』の登場人物で ムロツヨシさんが演じる山賀博之

記事を読む

『プライドと偏見』 あのとき君は若かった

これまでに何度も映像化されているジェーン・オースティンの小説の映画化『プライドと偏見』。以前

記事を読む

『わたしは、ダニエル・ブレイク』 世の中をより良くするために

ケン・ローチが監督業引退宣言を撤回して発表した『わたしは、ダニエル・ブレイク』。カンヌ映画祭

記事を読む

no image

『オデッセイ』 ラフ & タフ。己が動けば世界も動く⁉︎

2016年も押し詰まってきた。今年は世界で予想外のビックリがたくさんあった。イギリスのEU離脱や、ア

記事を読む

『ワンダーウーマン1984』 あの時代を知っている

ガル・ガドット主演、パティ・ジェンキンス監督のコンビでシリーズ第2作目になる『ワンダーウーマ

記事を読む

no image

『3S政策』というパラノイア

  『3S政策』という言葉をご存知でしょうか? これはネットなどから誕生した陰謀説で

記事を読む

『tick, tick… BOOM! 』 焦ってする仕事の出来栄えは?

毎年2月になると、アメリカのアカデミー賞の話が気になる。エンタ

『私ときどきレッサーパンダ』 世間体という呪い

コロナ禍の影響でこの2年間、映画館への足がすっかり遠のいてしま

『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』 マイノリティとエンターテイメント

小学生の息子は『ハリー・ポッター』が好き。これも親からの英才教

『このサイテーな世界の終わり』 老生か老衰か?

Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『このサイテーな世界の

『鬼滅の刃 遊郭編』 テレビの未来

2021年の初め、テレビアニメの『鬼滅の刃』の新作の放送が発表

→もっと見る

PAGE TOP ↑