*

ワーカホリックという病『アメリカン・スナイパー』

公開日: : 最終更新日:2019/06/14 映画:ア行

 

365日24時間いつでもご用命ください。不眠不休で対応致します。

なんとも頼もしい言葉ではあるが、
自分はそんな事を言える人を信用しない。

不眠不休で働くという事は、
その人が他にやらなくてはならない事を
すべて犠牲にしているからだ。
だから「やる気」より「悲壮感」を感じてしまう。

自分も丸々一ヶ月休みがとれないこともあるが、
そんなときは判断力が弱まり、
普段ならあり得ないケアレスミスが多発したりして
かえって仕事が進まなかったりもする。
休養や気分転換も仕事には必須。

仕事についてはいろいろと
個人によって考え方は違うだろうが、
自分にとって仕事とは、
豊かな人生をおくる為の手段でしかない。

ワーカホリックの言葉が示すよう、
その人が仕事を理由に、
人生で向き合わなければいけない問題から
逃げてしまって、
幸せになる為の仕事が、
かえって自分を苦しめるだけの仕事へと
変換させてしまう。
結果的に人生がメチャメチャになる。

この映画『アメリカン・スナイパー』の主人公は
実在したイラク戦争に従軍した狙撃手クリス・カイル。
彼は160人ものイラク兵を狙撃した
「レジェンド」と呼ばれるアメリカの英雄。

彼がシールズに志願した当初は
祖国を守るというシンプルなものだった。
従軍から帰還するとPTSDで
普通の生活が出来なくなっている。
家族も待ってくれているのだが、
それと正面から向き合う事が出来ない。
やがて戦場しか行き場所がなくなり、
4度も従軍する事になる。

その間彼の妻は、
ひとりで子どもを産み、ひとりで育てていく。
英雄が家族にいるとはそういうことだ。

ここで戦争をひとつの
メタファーとしてとらえれば、
観客である我々だって
人生と言う戦場で闘う兵士になる。

家族を幸せにする為に働く。
やがて仕事に夢中になり、
仕事しか自分の場所をみいだせなくなり、
やがて家族が崩壊する。
まさに本末転倒。

エンディングで実際の
クリス・カイルの写真が映し出される。
観客はこれは実話なんだと改めて思い知らされる。

エンドロールでは音楽もかからず無音。
この静けさの中、自分の人生について考えなさいよと、
クリント・イーストウッド監督から
時間を作ってもらったような気がする。

関連記事

『犬ヶ島』オシャレという煙に巻かれて

ウェス・アンダーソン監督の作品は、必ず興味を惹くのだけれど、鑑賞後は必ず疲労と倦怠感がのしか

記事を読む

『オクジャ okuja』 韓国発、米国資金で米国進出!

Netflixオリジナル映画『オクジャ』がメディアで話題になったのは2017年のこと。カンヌ

記事を読む

『アメリカン・フィクション』 高尚に生きたいだけなのに

日本では劇場公開されず、いきなりアマプラ配信となった『アメリカン・フィクション』。 最

記事を読む

no image

『おさるのジョージ』嗚呼、黄色い帽子のおじさん……。

  もうすぐ3歳になろうとするウチの息子は イヤイヤ期真っ最中。 なにをするにも

記事を読む

no image

『海街diary』男性向け女性映画?

日本映画で人気の若い女優さんを4人も主役に揃えた作品。全然似てないキャスティングの4人姉妹の話を是枝

記事を読む

『RRR』 歴史的伝統芸能、爆誕!

ちょっと前に話題になったインド映画『RRR』をやっと観た。噂どおり凄かった。S・S・ラージャ

記事を読む

『映像研には手を出すな!』好きなことだけしてたい夢

NHKの深夜アニメ『映像研には手を出すな!』をなぜか観始めてしまった。 実のところなん

記事を読む

no image

『ヴァンパイア』お耽美キワもの映画

  映画「ヴァンパイア」録画で観ました。岩井俊二がカナダで撮った映画です。ものすごく

記事を読む

『エレファント・マン』 感動ポルノ、そして体調悪化

『エレファント・マン』は、自分がデヴィッド・リンチの名前を知るきっかけになった作品。小学生だ

記事を読む

『エクス・マキナ』 萌えの行方

イギリスの独立系SFスリラー映画『エクス・マキナ』。なんともいえないイヤ〜な後味がする映画。

記事を読む

『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ

それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白

『アメリカン・フィクション』 高尚に生きたいだけなのに

日本では劇場公開されず、いきなりアマプラ配信となった『アメリカ

『不適切にもほどがある!』 断罪しちゃダメですか?

クドカンこと宮藤官九郎さん脚本によるドラマ『不適切にもほどがあ

『デューン 砂の惑星 PART2』 お山の大将になりたい!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『デューン

『マーベルズ』 エンタメ映画のこれから

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の最新作『マーベ

→もっと見る

PAGE TOP ↑