『キングスマン』 威風堂々 大人のわるふざけ
作品選びに慎重なコリン・ファースがバイオレンス・アクションに主演。もうそのミスマッチ感だけで、ポスターを二度見してしまう。それに2015年の面白かったアクション映画と言えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が一番にあがるのは当然だけど、かならず二番目にあがるのが、この『キングスマン』。なにかある!
コリン・ファースあっての企画だし、彼が主演でなければ、映画の魅力も半減する。しかし映画はコリン・ファースだけに頼ることなく、全く別の方向へと進んでいく。予告編で観て、こんな映画だろうと観はじめたら、観終わったときにはぜんぜん違う印象の映画になっている。観客を良い意味で裏切るトリッキーな映画。サブカル好きにはたまらないツボを押さえてる。
他のキャスティングもすごい。『ダークナイト』シリーズの執事アルフレッド役のマイケル・ケインや、またこの手の映画に出てきたの?って思っちゃうサミュエル・L・ジャクソン。我らがルーク・スカイウォーカーことマーク・ハミルもショボくれた教授役で登場してる。よくもまあこれだけの役者が集まったものだ。ノリはB級、配役はA級。サブカル的豪華さ。
『キングスマン』とは、国籍を特定していないスパイのこと。コリン・ファース演じるキングスマンは、普段はゴージャスな仕立て職人。マナーに厳しいイギリスの上流階級出身のスパイという荒唐無稽な設定も、コリン・ファースならしっくりハマってしまう。ある意味、こんなコリン・ファースが観たかった。
映画はキレッキレのバイオレンス・アクション満載。血みどろの残虐シーンの連続なのに、終始ゲラゲラ笑けてしまう。もちろんこの映画はR指定。だからこそ倫理に反した描写も割り切って堂々としてみせる。これこそまさにブラックユーモア。わるふざけをしてるようで、実は観客に大人のセンスを問われている。
残虐シーン満載なのに不快にならないのは、殺す相手が一般的に世の人が眉をひそめる輩ばかりだから。罪のない人が殺されたりすると暗い気分になるけど、キングスマンが闘う相手は、悪徳政治家や自己中大富豪にレイシスト、ラスボスはサイコパスなIT企業の大物。キングスマン、ぜひともやっつけて!
作中の音楽センスがめちゃくちゃイイ。地獄絵図の場面に『威風堂々』がかかるなんて、もう大爆笑! 悪趣味なのに、センスがいい!!
本作の監督は『キック・アス』のマシュー・ヴォーン。なるほどね。この悪ガキ的なサブカルセンスは、自分と同世代なのはすぐわかる。でももしかしたら、この感覚はもう古いのかもしれない。これからどんどん新しいセンスのエンタメ作品が生まれてくるだろう。本編しかり、カルチャーも世代交代の転換期かも。
前作『キック・アス』も楽しくてブラックなR指定のお子ちゃま大人向け映画だった。バイオレンスを期待して観たら、さわやかな気分にさせられてしまった。あまり胸を張って、好きだと言えない類いの映画。人によっては、こっちの人格を疑われちゃう。そういえば『キック・アス』のヒットガールのビジュアルをみて、まだ小さかったウチの子は本気でイヤがっていたっけ。なにか不穏なものをすぐさま感じ取ったのだろう。子どもの無意識な自己防衛反応の正確さ。まさにR指定いらず。
で、人を選んで密かに言わなくちゃだけど。……『キングスマン』、自分は好きです。
関連記事
-
-
『となりのトトロ』 ホントは奇跡の企画
先日『となりのトトロ』がまたテレビで放映してました。 ウチの子ども達も一瞬にして夢中になり
-
-
『ゲット・アウト』社会派ホラーの意図は、観客に届くか⁉︎
自分はホラー映画が苦手。単純に脅かされるのが嫌い。あんまり驚かされてばかりいると
-
-
『ミニオンズ』 子ども向けでもオシャレじゃなくちゃ
もうすぐ4歳になろうとしているウチの息子は、どうやら笑いの神様が宿っているようだ。いつも常に
-
-
『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』夢を現実にした最低で最高の男
芸能界は怖いところだよ。よく聞く言葉。 本書は『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーで、実質的な生みの
-
-
『機動警察パトレイバー the movie2』 東京テロのシミュレーション映画
今実写版も制作されている アニメ版『パトレイバー』の第二弾。 後に『踊る大走査線』や
-
-
『インサイド・ヘッド2』 感情にとらわれて
ディズニー・ピクサーの『インサイド・ヘッド2』がアメリカの劇場でヒットしているとニュースは、
-
-
『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』 試されるロボット愛
Netflixで『機動戦士ガンダム』の新作がつくられた。『機動戦士ガンダム』といえば、自分た
-
-
『メダリスト』 障害と才能と
映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶
-
-
『進撃の巨人 完結編』 10年引きずる無限ループの悪夢
自分が『進撃の巨人』のアニメを観始めたのは、2023年になってから。マンガ連載開始15年、ア
-
-
『君の名は。』 距離を置くと大抵のものは綺麗に見える
金曜ロードショーで新海誠監督の『君の名は。』が放送されていた。子どもが録画していたので、自分