*

『キングスマン』 威風堂々 大人のわるふざけ

公開日: : 最終更新日:2021/10/21 アニメ, 映画:カ行

作品選びに慎重なコリン・ファースがバイオレンス・アクションに主演。もうそのミスマッチ感だけで、ポスターを二度見してしまう。それに2015年の面白かったアクション映画と言えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が一番にあがるのは当然だけど、かならず二番目にあがるのが、この『キングスマン』。なにかある!

コリン・ファースあっての企画だし、彼が主演でなければ、映画の魅力も半減する。しかし映画はコリン・ファースだけに頼ることなく、全く別の方向へと進んでいく。予告編で観て、こんな映画だろうと観はじめたら、観終わったときにはぜんぜん違う印象の映画になっている。観客を良い意味で裏切るトリッキーな映画。サブカル好きにはたまらないツボを押さえてる。

他のキャスティングもすごい。『ダークナイト』シリーズの執事アルフレッド役のマイケル・ケインや、またこの手の映画に出てきたの?って思っちゃうサミュエル・L・ジャクソン。我らがルーク・スカイウォーカーことマーク・ハミルもショボくれた教授役で登場してる。よくもまあこれだけの役者が集まったものだ。ノリはB級、配役はA級。サブカル的豪華さ。

『キングスマン』とは、国籍を特定していないスパイのこと。コリン・ファース演じるキングスマンは、普段はゴージャスな仕立て職人。マナーに厳しいイギリスの上流階級出身のスパイという荒唐無稽な設定も、コリン・ファースならしっくりハマってしまう。ある意味、こんなコリン・ファースが観たかった。

映画はキレッキレのバイオレンス・アクション満載。血みどろの残虐シーンの連続なのに、終始ゲラゲラ笑けてしまう。もちろんこの映画はR指定。だからこそ倫理に反した描写も割り切って堂々としてみせる。これこそまさにブラックユーモア。わるふざけをしてるようで、実は観客に大人のセンスを問われている。

残虐シーン満載なのに不快にならないのは、殺す相手が一般的に世の人が眉をひそめる輩ばかりだから。罪のない人が殺されたりすると暗い気分になるけど、キングスマンが闘う相手は、悪徳政治家や自己中大富豪にレイシスト、ラスボスはサイコパスなIT企業の大物。キングスマン、ぜひともやっつけて!

作中の音楽センスがめちゃくちゃイイ。地獄絵図の場面に『威風堂々』がかかるなんて、もう大爆笑! 悪趣味なのに、センスがいい!!

本作の監督は『キック・アス』のマシュー・ヴォーン。なるほどね。この悪ガキ的なサブカルセンスは、自分と同世代なのはすぐわかる。でももしかしたら、この感覚はもう古いのかもしれない。これからどんどん新しいセンスのエンタメ作品が生まれてくるだろう。本編しかり、カルチャーも世代交代の転換期かも。

前作『キック・アス』も楽しくてブラックなR指定のお子ちゃま大人向け映画だった。バイオレンスを期待して観たら、さわやかな気分にさせられてしまった。あまり胸を張って、好きだと言えない類いの映画。人によっては、こっちの人格を疑われちゃう。そういえば『キック・アス』のヒットガールのビジュアルをみて、まだ小さかったウチの子は本気でイヤがっていたっけ。なにか不穏なものをすぐさま感じ取ったのだろう。子どもの無意識な自己防衛反応の正確さ。まさにR指定いらず。

で、人を選んで密かに言わなくちゃだけど。……『キングスマン』、自分は好きです。

関連記事

no image

『クラフトワーク』テクノはドイツ発祥、日本が広めた?

  ドイツのテクノグループ『クラフトワーク』が 先日幕張で行われた『ソニックマニア

記事を読む

『ハイキュー‼︎』 勝ち負けよりも大事なこと

アニメ『ハイキュー‼︎』の存在を初めて意識したのは、くら寿司で食事していたとき。くら寿司と『

記事を読む

no image

大人になれない中年男のメタファー『テッド』

  大ヒットした喋るテディベアが主人公の映画『テッド』。 熊のぬいぐるみとマーク・

記事を読む

no image

『CASSHERN』本心はしくじってないっしょ

  先日、テレビ朝日の『しくじり先生』とい番組に紀里谷和明監督が出演していた。演題は

記事を読む

『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』 ヴィランになる事情

日本国内の映画ヒット作は、この10年ずっと国内制作の邦画ばかりがチャートに登っていた。世界の

記事を読む

『映像研には手を出すな!』好きなことだけしてたい夢

NHKの深夜アニメ『映像研には手を出すな!』をなぜか観始めてしまった。 実のところなん

記事を読む

『ゲゲゲの女房』本当に怖いマンガとは?

水木しげるさんの奥さんである武良布枝さんの自伝エッセイ『ゲゲゲの女房』。NHKの朝ドラでも有

記事を読む

『鑑定士と顔のない依頼人』 人生の忘れものは少ない方がいい

映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御歳89歳。セルジオ・レオーネや

記事を読む

『怪物』 現実見当力を研ぎ澄ませ‼︎

是枝裕和監督の最新作『怪物』。その映画の音楽は坂本龍一さんが担当している。自分は小学生の頃か

記事を読む

no image

『ピーターパン』子どもばかりの世界。これって今の日本?

  1953年に制作されたディズニーの アニメ映画『ピーターパン』。 世代を

記事を読む

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 僕だけが知らない

『エヴァンゲリオン』の新劇場版シリーズが完結してしばらく経つ。

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

→もっと見る

PAGE TOP ↑