『真田丸』 歴史の隙間にある笑い

NHK大河ドラマは近年不評で、視聴率も低迷と言われていた。自分も日曜の夜は大河ドラマを観るという習慣を久しく忘れていた。しかし、ぼんやりつけていた大河ドラマ『真田丸』がおもしろくて、ついつい魅入ってしまった。まさに中途参戦。最近では家族で『真田丸』を観るのが楽しみになってきた。
この『真田丸』は真田幸村を主人公に、三谷幸喜さんがオリジナルの脚本を書き下ろしたもの。大河ドラマの史実に基づく格調高い作りは受け継いではいるものの、どことなしにコメディタッチ。ここがいちばんの魅力。
三谷幸喜さんは以前『新撰組!』でもオリジナル脚本で大河ドラマの脚本を担当している。そのとき、史実にないオリジナルエピソードを劇中に入れると、視聴者からクレームがきて大変だったと仰っていました。のちの大河ドラマ『龍馬伝』でも、創作エピソードがあったり、史実をアレンジしていたりした場面があっても、誰も文句を言わなかったとのことで「不公平だな〜」と言っていたような。
この『真田丸』の最近の展開は、城中の閉ざされた空間で進んでいる。戦国時代は男尊女卑のホモソーシャル。殿様の逆鱗に触れたら、命はない縦割り社会。そこで生きていく人間はどんなであったか? 悲喜こもごも、噂や思惑が飛び交い、大の男達がオロオロしてる。人を殺すことは平気で出来るくせに、側室の本心を聞くのが怖くてしょうがない。あーでもないこーでもないと思索を練りつつ、鶴の一声ですべて水の泡になる。そんな姿がユーモアたっぷりに描かれている。決してその社会で生きたくないけど、他人の不幸は蜜の味とばかり、視聴者を笑わせ楽しませてくれている。ありそうでなかったシチュエーションコメディ。まさに三谷幸喜さんの得意の分野。
歴史ものというのは仮説で作られているのは暗黙の了解。実際にその場にいた人が描いているわけではないので、伝承されたものや史実を基にはしていても、そこには作家のオリジナルな考えがついてくるもの。困るのは、作家が描いたイメージがあまりに強烈で、ときにはそれにひっぱられて、史実が刷新されてしまうこともある。そもそも伝承だって誰かの主観が入っている。伝え継がれていくうちに、いちばんインパクトが強かったものが、それになってしまうことも起こりうるはず。そうなると事実なんて神のみぞ知るのみ。
大河ドラマ『真田丸』はとても面白くて斬新だ。大河ドラマで本格的なコメディが観れるとは思ってもいなかった。イギリスのドラマでは王宮コメディなんかも定番なのだから、日本でそれに近いものがあってもおかしくない。近年の大河ドラマでは、新進気鋭の役者やスタッフを招いて描いてはいたものの、なかなかはじけた作品は誕生せず、不人気ばかりが報道されていた。どんなに個性的な配役やクリエーターを起用しても、「大河ドラマはこうあるべき」という枠組みに当て込んでしまっては、適材適所として能力は発揮しづらい。今回の『真田丸』は、三谷幸喜さんらしい作品となっていて、焦点が絞られたほぼ毎回1話完結の45分が、あっという間に過ぎてしまう。まさか大河ドラマで、こんなに笑えるなんてね。
大河ドラマはどうしても戦国時代か幕末時代が舞台となってしまう。「またこの場面か〜」と、視聴者も飽きているのは事実。でも視点を変えれば、まだまだ触れていないところはある。戦をしていないときの城中の様子なんて、想像しただけで楽しくなる。型にはまって考えなければ、ニッチな道はいくらでもある。これは作品づくりに限らず、なにごとにも当てはまることだろう。
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